第13話 ユニークモンスター
「ビ、ビッグトード……」
思わず呟いた声すら、震えてしまっていた。
「ツバサちゃん? 知っているの?」
「極稀に、このダンジョンで遭遇するユニークモンスターだって、ネットに書いてました」
「ユニークモンスターって?」
「えっと、もの凄く簡単に言うと、ボスキャラみたいなものです」
ビッグトードの周りには、取り巻きみたいな蛙型のモンスター――フロッガーが十数体居る。
あの周りのモンスターたちなら、育代さんのスキルで支援してもらえれば倒せると思う。
だけど通常、ユニークモンスターは二次クラスや三次クラスの高レベルプレイヤーがパーティを組んで討伐出来るレベルだとも書いていた。
モンスターとの戦闘中にログアウトは出来ないから、今の僕たちに出来る事は、とにかく逃げる事だ。
「ツバサちゃん。どうする? 最後に、アレを倒して帰る?」
「む、無理ですよっ! 僕、レベル20になったばかりですし、一撃でやられちゃいますよっ!」
「そっか。ごめんね。私、あんな大きいモンスターを周りの人が倒しているのを何度か見てきたから、勝てちゃうのかなって」
「それは、育代さんの周りに居る人が強かったからだと思います」
「なるほどね。いつも私の周りに居る人たちって、男の人ばかりだし、あの人たちが強いんだ……」
これまで普通のモンスター相手なら、育代さんのスキルで支援された僕が倒しまくってきた。
そのノリでユニークモンスターに挑んでしまったら、その結果は火を見るより明らかだ。
「育代さん、逃げましょう」
「え、えぇ」
育代さんの手を取り、駆け出そうとしたけれど、育代さんが動かない。
もしかして、まだ僕たちだけで倒せると思っているのだろうか。
「育代さん?」
「ツバサちゃん! 私の事はいいから、逃げて!」
「育代さん!?」
いつの間に距離を詰められていたのだろうか。
見れば、ビッグトードが数メートル先に迫っており、その口から伸びる長い舌が育代さんの右足に巻きついていた。
そして、取り巻きのフロッガーたちが、僕たちを囲むようにして間を詰めてくる。
『勇気の歌!』
「ツバサちゃん!? お願い、逃げてっ!」
育代さんを助けようと、僕は攻撃力を上げるためにスキルを使い、はっきりと首を振る。
育代さんをこのままにして、僕だけ逃げるだなんて、絶対に出来ない!
『……エネルジコ』
僕の決意が伝わったのか、動けない育代さんも力を上げる演奏スキルを発動させる。
これでビッグトードの舌を攻撃すれば……ダメだ。僕の持つ武器が杖で、打撃しか与えられないので、弾力のある舌にダメージらしきダメージを与えられない。
何か刃物があれば、また結果は違ったのかもしれないけれど、無い物ねだりをした所で意味はない。
どうすれば……どうすればこの状況を打破出来るのだろうか。
いや、今はそれよりも、
「たぁっ!」
育代さんの演奏スキルで支援してもらっているので、『勇気の歌』を解除して攻撃に専念する。
動けない育代さんをターゲットにしたのか、フロッガーたちが一斉に襲いかかって来たのだ。
何匹従えているのかは分からないが、倒しても倒しても大量のフロッガーが現れる。
しかし、育代さんの演奏スキルのおかげで、フロッガーは倒せようになった。
だけど、この舌を何とかしなければ……って、そう言えば、取り巻きのフロッガーは何十匹と現れるのに、ビッグトードは足止めをするだけで近寄って……来ない?
「てぃっ!」
フロッガーたちを薙ぎ払い、少し余裕が生まれた間にビッグトードに目をやると、僕がずぶ濡れになった深みの所で止まり、そこから先には来る気配が無い。
「あ、そうか。身体が大き過ぎて、川が浅い場所には来られないのか」
ならばと、再び襲ってきたフロッガーたちを倒した所で、素早くステータスウインドウのスキルメニューを開く。
今、僕が修得しているスキルは歌唱力Lv1と元気の歌Lv3に、勇気の歌Lv5の三つだけだ。
レベルが上がってスキルポイントも百以上あるし、何かこの状況から逃れるスキルを……と言っても、今僕が修得可能な音楽スキルは魔力の歌しかないから、魔法を使う人が居ない今、取っても役には立たない。
っと、そうだ。でも、修得する事で、新しいスキルが解放される事があるんだっけ。とりあえず、今解放されているスキルを全部修得してしまおう。
『魔力の歌Lv5を修得しました。
歌唱力Lv5を修得しました。
元気の歌Lv5を修得しました。
新たに、会心の歌のスキルが解放されました』
バードの音楽スキルの修得に必要なスキルポイントは、Lv1が3、Lv2が6、Lv3が9と3ずつ増えていって、Lv5の修得には15のスキルポイントが必要となるみたいだ。
そして、歌唱力、元気の歌、勇気の歌、魔力の歌をそれぞれLv5にしたから、使ったスキルポイントは全部で180。
一方、僕はレベル20で、十九回レベルアップをしているから、保有スキルポイントは190なので、残ったスキルポイントは10。
スキルポイントを無茶苦茶消費して、新たに解放されたスキルが会心の歌――攻撃がクリティカルアタックになる確率が微増するスキルだけ。
微増って、具体的にはどうなの? 使わなかったらゼロパーセントだけど、それが一パーセントになったりするの!?
「もーっ!」
スキルポイントの無駄遣いで頭を抱え込みたくなったけれど、その感情を育代さんに向かってきたフロッガーたちにぶつける。
今更だけど、もっとバードのスキルツリーを調べておけば良かった。
『会心の歌Lv1を修得しました』
とりあえず、会心の歌をLv1だけ修得してみたけれど、新たなスキル解放は無し。そして、残りのスキルポイントは7に。
あぁぁぁ、また無駄に使ってしまった。
どうすれば良いだろう。バードのスキルだけではなく、初期クラスのアドベンチャラーも調べて、何か使えそうな……ってあれ?
ステータスウインドウのスキルメニューに、サブクラスという項目が増えている。
一先ずサブクラスを開いてみると、『初級武器修練』、『拳修練』、『盾修練』……などと、バードに関係無さそうなスキルが並んで居る。
どうしてかは分からないけれど、今それを考えている時ではない。これらのスキルの中から、何か使えるものが無いか探すんだっ!
『初級武器修練。武器による攻撃力が上がる』
『初級体術。素手でも攻撃可能になる』
『盾修練。盾が装備可能になる』
いずれも前衛系のスキルだけれど、今の僕は打撃系の武器しか持って居ないし、素手の攻撃も打撃系だ。
それに盾も持って居ないから、前衛系のスキルは修得しても、今の状況では使えない。
残りも見てみる。
『夜目。暗闇の中でも、有る程度視界を保てる』
『狙撃。遠距離武器の射程向上』
『初級魔法学。攻撃魔法の射程向上』
『信仰心。神聖魔法の効力向上』
『意志疎通。使役出来るモンスターの種類が増える』
『武器化。武器ではないアイテムを武器として使える。ただし、一度の攻撃でそのアイテムは壊れてしまう』
「……これだっ!」
フロッガーたちを吹き飛ばしながら、僕は残ったスキルポイントでサブクラスに並んでいたスキルを一つ修得した。
 




