第14話 ビッグトード
『武器化Lv1を修得しました』
いつものシステムメッセージを流し見て、ステータスウインドウのアイテム欄にあるトゲタニシのトゲを装備すると、
『会心の歌』
早速修得したばかりのスキルを使用する。
そして、手にした貝殻の棘をビッグトードの舌に向かって振り下ろすと、
――にゅるん
表面を覆う粘液で滑り、ちゃんと突き刺さらなかったのに、手にしたトゲはしっかり壊れて消えた。
何だか腑に落ちない結果だったけれど、モンスターを倒しまくったから、まだ二十個くらいはあるはずだ。
再びトゲタニシのトゲを装備して攻撃すると、また滑ってしまったけれど、しつこくトゲタニシのトゲで攻撃する。
時には旅人の杖に持ち替えてフロッガーたちを蹴散らし、そしてまたトゲタニシのトゲで攻撃を繰り返す。
一体、何度目の攻撃になるだろうか。トゲは後何個残って……あと、七個しかないの!?
祈るようにトゲで攻撃するけれど失敗してしまい、焦りが更なるミスを誘発する。
――ザシュッ
間違えて、トゲタニシのトゲでフロッガーを攻撃してしまった。トゲの数も少ないのに、僕は一体何をしているんだ。
「ツバサちゃん。大丈夫よ。私はペナルティの経験値削減とか気にしてないから。だから、ね。逃げて」
演奏を続けたままで、育代さんが再び逃げるように勧めてくるけれど、僕は首を振って拒否する。
同じパーティの仲間を見捨てて一人で逃げるなんて、そんなの男じゃないよっ!
育代さんと一瞬目が合い……僕はその優しさを思い出す。
そうだ、優しさだ。育代さんは優しく僕を抱きしめてくれたよね。
残り三つになったトゲを手にすると、今までみたいにビッグトードと育代さんの中間地点を強く突こうとするのではなく、育代さんの足に絡みついた先端部分に優しくトゲを添える。
そして、そのまま丁寧に小さくプスッとトゲを押し付けると、ビクッと一瞬舌が震え、一気にビッグトードの口の中へと戻って行く。
「今だっ! 育代さん、逃げようっ!」
今まで大きなダメージを与えようと、大振りばかりしていたけれど、敏感な舌なのだから、ちょっとの痛みを与えるだけで良かったんだ。
それに気付いた僕は、育代さんの手を引き、走り出す。
「あ! ツバサちゃん! 危ないっ!」
育代さんが叫んだ直後、僕の背中に何かが当たったような気がする。
だけど、それだけだ。特にダメージを受けた訳でも無いみたいだし、そのまま全力でダンジョンの入口へと走り抜けた。
「ツバサちゃんっ! 大丈夫だった!? ごめんね、私を助けるために」
久しぶりに陽の光に照らされた所で、育代さんが僕を抱きしめてくる。
「僕の方こそ、すみませんでした。すぐに助け出せなくて」
「ううん。ツバサちゃん、頑張ってくれたよね。私、すっごく嬉しかったよ。それに、ツバサちゃんのおかげで二人とも無事に戻れたしね」
「育代さんの支援があったからですよ。あ、それより、最後に言った『危ない』って言葉は何だったんですか? 特に何事も無かったですけど」
「あ、あれは、あのボスが口から水鉄砲みたいに、水を飛ばしたの。ツバサちゃんの背中に当たっちゃったけど、その水着に水耐性が付いていたからか、全然平気だったみたいだけど」
「そんな攻撃を受けてたんですね。あれ以上追って来れないと思っていたんですけど、遠距離攻撃も出来るんですね」
流石はユニークモンスターと言った所だろうか。一筋縄ではいかないみたいだ。
「って、そうだ。この水着、どうしましょう?」
「それはツバサちゃんにプレゼントした物だよ。よく似合っているし、性能も悪くないから、是非使ってね」
「いや、性能は良いですけど、似合っているというのは流石に……」
手には杖、足はピンクの長靴(リボン付き)で、スクール水着を来た男……即逮捕レベルの格好だよ。
僕は慌てて、旅人の服と学びの靴(上靴)に装備を変更する。
「残念。本当にツバサちゃんに似合っていて、可愛かったのに。でも、流石に水着で街に戻ったら、ジロジロ見られちゃうよね。仕方ないか」
ですねー。さっきの格好で街に入ったら、不審者として見られますね。そして、通報されるんですね。分かります。
だけど、ドロップアイテムを分けたりしないといけないので、一先ず街へ戻ろうと促そうとした所で、
「あー! ツバサちゃん、ごめんなさい! もう、こんな時間だったのね。私、晩御飯を作らないと」
「あ、本当だ。いつの間にか、結構時間が経ってたんですね」
「今日は、本当にありがとうね。また時間がある時、一緒に遊んでね」
「はい、こちらこそ」
「約束だからね? ……あ、最後にもう一度抱き締めさせてー!」
育代さんが僕を優しく包み込んでくれたけど、名残惜しそうに僕を見つめながらログアウトして消えてしまった。
僕も名残惜しいよっ! もう少し柔らかくて大きな胸に包まれていたかった。
少し悲しいけれど、その育代さんの余韻に浸っていると、
「あ、ドロップアイテム分けるの忘れてた」
やらかしてしまった事に気付いて、現実に戻される。
とはいえ、僕もそろそろ夕食の時間なので、一先ず街まで戻ると、ログアウトを行う。
「……今日は、渚は居ないか」
どうやら事前にボードゲームに付き合ってあげたのが良かったみたいだ。
リビングに移動して夕食を済ませ、ソファに座ってテレビを見ていると、先にお風呂へ入っていた渚が戻ってきた。
「あ、これ面白いよねー。渚も見るー」
お風呂上がりで暑いからと、パジャマのボタンを殆ど留めていない渚が、僕の脚の上に座って一緒にテレビを見始める。
その時、僕の視界に渚の胸元が見えてしまい、
「……はぁ」
自然と溜息が零れてしまった。
「お兄ちゃん、どうしたの? 突然、ちょっとガッカリしたような溜息なんて吐いて」
「い、いや。ガッカリなんてしてないよ? ホント、ホント。いやー、渚は可愛いなー」
「でしょー? わかるー? 今日は、前に買って貰った少し高級なシャンプーを使ってみたんだー! お兄ちゃん。触って、触ってー」
いつもは二つ括りにして、肩から前に垂らしている渚の黒髪だけど、真っ直ぐ降ろすと背中の中程まで届いていたりする。
髪の短い僕には分からないけれど、洗ったり、乾かしたり、梳かしたりと、お手入れは色々と大変そうだ。
「ねぇ、どぉ? お兄ちゃん、どうかな?」
「えーっと、何だかいつもよりサラサラな気がするかも?」
「えへへー。もっと褒めて良いんだよ? お兄ちゃん、女の子は髪の毛が長い方が好みなんでしょ?」
そんな事言ったかな? いや、髪の毛が長い女の子が好きなのは事実だから、僕が忘れているだけで、言った事があるのだろうけど。
「でも、髪の毛が長いと大変じゃない?」
「ちょっとね。だから、ゲームでは髪の毛を短めにしてみたんだけど、やっぱり楽だよねー」
ゲームでは髪の毛を短めに……って、渚もVR系のゲームをしているの?
何のゲームだろかと思った所で、
「翼ー。そろそろお風呂に入りなさーい」
母さんの声が響く。
渚のプレイしているゲームを聞いた所で、小学生向けのゲームは殆ど知らないから、まぁいいか。
「渚、お兄ちゃんお風呂に行ってくるから」
「わかったー。行ってらっしゃーい!」
「……いや、だから、お兄ちゃんの上から降りようよ」
何故か頬を膨らませて動こうとしない渚を抱き上げ、お風呂へ。
受験勉強と、ネットでフォーチュン・オンラインの勉強をして、僕は就寝したのだった。




