第42話 ほんものの愛、みつけました
テーブルの前に用意しておいた座布団に、土岐くんがちょこんと座る。
か、かわいい。
彼がいるこの空間は、少しの緊張と、やわらかな癒しに包まれていた。やっぱり土岐くんって癒し系だよね。
彼の前に淹れたてのお茶をそっと差し出し、私も隣に座る。
「ど、どうぞ」
「あ、ありがとう」
それきり、また静かになる。
その緊張を破るように、土岐くんがひと口お茶を飲んだ。
「うん、おいしい」
にこりと微笑まれて、ドキッと心臓が跳ねる。
「そ、そう。ありがとう」
……なんなんだ、この単調なやり取りは。果てしなく緊張する。
さっきはちょっと和らいだかと思ったのに、やっぱりダメ。
彼のことを意識しまくり。その原因もわかってる。
好きって、ちゃんと意識しちゃったから。
初めてこんなに好きって思える人ができたんだもの。しょうがないじゃない。
恋ってこんなに落ち着かないものなの?
ちらりと見ると目が合う。
激しく動揺するのに、なぜか目が離せなかった。
土岐くんが小さく微笑む。
「あの……それで、話って」
はっとする。
そうだ、肝心なことを忘れるところだった。これを言うために彼を呼んだんじゃない。
「あの、あのね……私、桐生さんとお別れしたの」
「え?」
土岐くんの目がまん丸に見開かれた。
「桐生さん、優しくてさ。勝手な言い分を快く受け入れてくれたんだ。
ほんと、感謝しかないよ」
俯きながら囁くように言った声は、どうしても震えてしまう。
まだ心の整理がついていない。彼を傷つけてしまったことが、苦しくてせつなかった。
「それって……」
驚いて言葉を詰まらせる彼に、私は微笑んだ。
「うん、そうなんだ。私、土岐くんが好き。やっと、自分の気持ちに気づいたの」
土岐くんは固まったまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。
大丈夫かな、と顔を覗き込んだそのとき――
力強く引き寄せられ、そのまま腕の中にぎゅっと抱きしめられる。
「ほんとう? 本当に、僕でいいの?」
喜びに溢れた声。
あたたかな体温に包まれながら、私はそっと頷いた。
「うん、土岐くんがいいの」
土岐くんは腕を緩め、じっと見つめてくる。
「し、信じられないよ。夢みたい。だけど……桐生さんのことは」
驚きと嬉しさが入り混じった表情。その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
「うん。桐生さんのことも好きだった。その気持ちは嘘じゃない。
でも……それ以上に、土岐くんのことが好きだって気づいたの」
ああ、恥ずかしい。視線を合わせられない。
「土岐くんは、いつも傍にいてくれた。
悲しい時も、苦しい時も、悩んでいる時も、いつも相談に乗ってくれて」
はじめは、仲のいい友達みたいに思ってた。親友みたいな存在。
土岐くんは泣きそうな表情で、私を見つめていた。
「私、土岐くんといると幸せなの。心があたたかくなって安心する。
いつもありのままでいられた。ずっと一緒にいたいって、思ったの」
彼の目から涙が一筋落ちていく。
私はそっと頬に手を伸ばし、指先でやさしくその涙を拭った。
「私ね。ふたりから告白されて、すごく迷った。今まで恋愛なんてしたことなかったし、告白されたことすら初めてだったから。
桐生さんや土岐くんみたいに素敵な男性ふたりからなんて……びっくりしすぎて、どうしていいかわからなかったよ」
ふふっと笑うと、彼の表情もつられるように和らいだ。
すべては最近のことのはずなのに、昔の出来事みたいに思える。
「たくさん、たくさん悩んで、答えにたどり着いたの。
私が好きなのは、一緒にいたいって思うのは、
あなただって」
熱を込めて見つめると、彼もまっすぐ私を見返してきた。
視線を受け止めているうちに、体がじんわり火照ってくる。
きっと、顔は真っ赤になってる。
「うれしいよ。正直、もう無理かと思ってたから。
今日も、桐生さんと楽しそうに話している君の姿を見て……すごく悲しくて。
これからは、また前と同じように友達として接しないとなって、自分に言い聞かせてたんだよ」
照れたように笑う彼が愛おしくて、胸がいっぱいになる。
「土岐くん……今まで私のことを支えてくれて、ありがとう。
大好きだよ。これからも、よろしくね」
「僕の方こそ、よろしくお願いします。望月さん……ううん」
一度言葉を切り、深く息を吸う。
「花音さん。大好き、愛してる」
その声が、言葉が、胸の奥にやさしく浸みこんでいく。
彼の手が私の頬に添えられ、顔がゆっくり近づいてくる。
瞳を閉じた。
ふわりと触れる、やさしい口づけ。
それは一瞬ですぐに唇は離れる。目を開けると、彼は遠慮がちに視線を彷徨わせていた。
もっとほしい。自然にそう思えた。
今度は、私からそっと触れる。
土岐くんは驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうに笑って、今度は深く口づけてくれた。
――恋なんてわからない。
それから始まった、私の恋。
桐生さんという素敵な男性に出会って、恋をした。
あれも、きっと恋。
でも、それより深い想いを知った。
それは、“愛”というものなのかもしれない。
目が合うと、土岐くんがふわりと笑う。
心があたたかくなって、鼓動が優しい音を奏でる。
ああ、幸せ。
やっと見つけた、私のほんものの恋。いや、愛。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
本日、無事に物語を完結することができました。
ここまで走り抜けてこられたのは、更新を追いかけてくださった皆様の応援があったからです。心より感謝しています。
執筆を通して、私自身もキャラクターたちと一緒に歩み、成長できたように感じています。
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また別の物語でお会いできることを楽しみにしています。




