第24話 友達、だよね
そして翌日のランチタイム。私は土岐くんに誘われて食堂へやってきた。
ちょうど声をかけようと思っていたところだった。これ、以心伝心ってやつ?
「あそこに座ろう」
ふたりで窓際の席へ腰を下ろす。
今日は二人とも同じメニュー。人気の和食定食で、これがなかなか美味しい。いわゆるおふくろの味ってやつだ。
「いただきます」
箸を進めながら、他愛ない話を続ける。
土岐くんとはいつも自然と会話が弾むから不思議だ。まるでずっと前から気心が知れているみたいで、変に気を張らなくていい。
ふと会話が途切れたそのとき。
「ね、もしかして元気ない?」
じっと見つめられて、ごくりと唾を飲み込んだ。
さすがだ。彼には何でも見抜かれてしまう。
土岐くんって、人の気持ちを察するのが上手なのかな。それとも、ただ優しいから気づいてしまうだけ?
……どうしよう。相談してみようかな。
うかがうように視線を向けると、ふわりと柔らかな笑顔が返ってきた。
ああ、癒される。つられて私まで口元がゆるむ。
気づけば、悩みを打ち明けていた。
「あのね、実は……」
昨日の出来事。桐生さんからの誘いを断ってしまったこと。そんな女性を、男性はどう思うのかという不安。
土岐くんは真剣な表情で何度も頷いてくれた。
「そっか。そんなことが」
少し考え込む彼の表情に、胸がざわつく。
沈黙に耐えきれずつい口を開いた。
「や、やっぱり嫌だよね? こんな女……」
肩を落とすと、土岐くんは慌てたように首を横に振る。
「ううん! 反対だよ。すごくいいと思う」
思わず目を丸くすると、彼はおだやかに微笑んだ。
「だって、それだけ自分のことを大切にしてるってことでしょ。
軽い女性じゃないってことだよ。真面目で誠実な子なんだなって、好感を持つと思う」
「そ、そうかな?」
小さくつぶやくと、土岐くんはうんうんと大きく頷く。
「それに、桐生さんはきっと大丈夫だよ。
こう、なんていうか……男だし。好きな子と、そういう関係になれたらいいなって思うのは自然なことで。
でも、本当に大切な人なら、ちゃんと待てる。桐生さんは、そういう人だと思う」
自信ありげに笑うその姿が、やけにまぶしく見えた。
なんていい人なんだろう。こんな私の話を真面目に聞いて、ちゃんと考えて、言葉を選んでくれる。
彼が言うと、不思議とそれが真実のように思えてしまう。
胸の奥がじんわりとあたたかくなっていく。
「ありがとう。土岐くんが言うと、本当にそう思えるよ。なんだか安心した」
ほっと息をつくように笑うと、彼はなぜか頬を染め、少し慌てた様子を見せた。
「そ、そんな……。
僕でよければいつでも相談してよ。君の役に立てるなら、僕は――」
そこで言葉が止まる。
何かを続けようとした、そのときだった。
「よう、土岐じゃん。なに? 彼女と食事?」
突然、見知らぬ男性が声をかけてきた。
誰だろう。土岐くんの同僚かな。
視線を向けると、ちょうど目が合い、お互いに軽く会釈する。
「ち、ちがうよ!
彼女は……ただの友達だよ」
言い終わるにつれて、声が少しずつしぼんでいく。
どうしたんだろう。
さっきまでと違って、急に元気がなくなった気がする。
首を傾げて土岐くんのほうを見ると、
「友達、ね」
男性は、意味ありげな視線をこちらに向けた。
「まあいいや。悪いな、邪魔して。
またな」
それだけ言い残して、彼は去っていった。
……なに? 今の。
その背中を見送っているとふと視線を感じる。
ちらりと見ると、土岐くんとばっちり目が合った。でもすぐに逸らされてしまった。
「どうしたの?」
「え! なにが?」
「いや、なんだか元気ないような気がして」
「ううん、そんなことないよ。
あ、あいつ、俺の同僚なんだ。同じ部署の、腐れ縁でさ」
取り繕うように、少し早口になる。
「へえ、そうなんだ」
「うん……」
それきり、彼は無口になってしまった。
なんとなく微妙な空気が流れる。
さっきまであんなに和やかでいい感じだったのに。……彼と気まずくなるのは嫌だな。
そう思っていたら、少しずつまた普通に話せるようになって。いつの間にか会話も弾み、穏やかな空気が戻ってくる。
目が合えば、自然と小さな笑みがこぼれた。
よかった。土岐くんとはこういう関係がいい。
彼が笑うと、世界があたたかくなる。
それにつられて心までゆるんでいく。
……なんでかな。
さっきまで桐生さんのことで悩んでいた私は、もういなかった。
はは。彼に癒されちゃったのかな。
ありがとう、土岐くん。




