6 帰還
(この人はなんでこんな大事を私に教えたのだ?機密を守れないのか?)
諸葛瑾は帰宅した劉表から「それ」を聞いて最初にそう思った。同時に
(この人はなんでこんな大事をもっと早く教えてくれなかったんだ?)
とも思った。
「陛下の病が結構重いらしくてな。跡継ぎの件もあるから、しばらく帰って来れないかもしれない。済まないね、子瑜君」
劉表はそう言ったのである。
諸葛瑾は劉表の前を辞すると、劉表の邸宅を抜け出した。
夕焼けの洛陽市街を諸葛瑾は走った。これ以上日が落ちたら大道を通れなくなる。劉表のところへ戻れなくなる。構ったことではなかった。行き先は勿論、琅邪の国邸である。
義息の呼び出しに出てきた諸葛玄に諸葛瑾は耳打ちした。
「義父上。帝、御不予だとの事。上計殿を辞させるならお急ぎを。喪に服する事となると抜けにくくなります。後継争いも起きましょう。上計殿の身に危険が及ぶやも。お早く!」
***
諸葛瑾を載せた車はゴトゴトと東に向かう。義父、諸葛玄の脇に乗せられた諸葛瑾は、車が来た方向へ振り返った。
高く聳える洛陽の城壁が見える。
(もう、きっとここに戻ってくる事はないんだろうな)
どうやら自分の容姿は中央官としては通用しない。
(容姿ではなく、中身を評価してくれる所で世に出たいな)
それが元服したばかりの少年、諸葛瑾の嘘偽りない希望だった。
(了)




