2 警告(光和六年/183)
皇帝劉宏は上訴されてきた竹簡を自ら手に取った。侍御史の劉陶と奉車都尉の樂松、議郎の袁貢が連名したものである。
こうあった。
聖王は天下を耳目とするゆえ見聞できない事がないとか。今、張角は配下を数えきれない程かかえております。前司徒の楊賜は州郡に勅して張角の配下である流民を本籍地に護送し力をそいでから捕らえたいと奏上しておりましたが、その地位を去らねばならず、捕縛に至りませんでした。張角の配下は京師に潜入し、虎視眈々と朝政を窺っておりますが、州郡はそれに目をつぶっております。陛下の詔を以て張角に懸賞金を掛け、彼らを黙認するのは同罪であるとお示しください
「ふむ」
劉宏は竹簡の字を指でなぞり、ほれぼれとした表情で言った。
「美しい字だ」
当然筆は達人樂松のものだ。劉宏は後ろに控える張讓に尋ねた。
「公よ。張角とやらはそんなに危険なのか?」
張讓は首を捻って考え込んでから答えた。
「讓は常にここにおりますので市井の事には詳しくありませんが、太平道なる黄老の教祖と聞いております。下々にはそういった心の慰めも必要では?」
劉宏はしばらく竹簡を眺めていたが、劉陶の名を見て思い出した。劉陶、字は子奇。春秋や尚書に精通した学者でもある。
「良いことを思い付いた。劉陶に春秋を條例毎に分けて講釈するよう、詔を出そう」
これが一年前の事である。劉宏は警告を受けた。だが悟らなかった。




