始まりの町ブルム05
「先日、少し遠方ではありますが、オークの群れが発見されました。武装したオークやオークウィザード、ハイオークも確認されていることから、高確率でオークキングが居ると思われます。冒険者の皆さんは、町の外に出る際はくれぐれも注意して下さい。また、町の外で複数のオークと出くわした場合は必ずギルドに報告して下さい」
おや、朝一番でギルドに来てみたら大変なことになっているみたいだね。こういう突発的な問題事も異世界転移あるあるだよねぇ。実際に経験すると面倒な事この上ないけど。
詳しい事情を聞くためにカウンターに群がっている冒険者達から離れた場所でぼんやりしながらそんなことを考えていると、ギルドの職員が声を掛けてきた。昨日受付してくれた女性だ。今日も仕事だったんですねと聞くと、今日は非番だけどこの騒ぎでまだ帰れないって言われた。残業、お疲れ様です。
「ユーリさん、でしたよね?しばらくは町の外に出ない方が良いですよ。オークは特に女性に対して執拗に狙ってくる習性がありますから。ユーリさんみたいに魅力のある女性はあっという間に襲われてしまいます」
あ~。オークの習性ね。これも定番だよね。くっころってやつだっけ?
心配してくれる受付嬢(今は受付に居ないから違うか)さんにお礼を言って、今日は町の外に出る予定が無いこと、町を少し見て回ろうと考えていたと言ったら、受付嬢さんはそれなら私が案内してあげると言って風のように颯爽と姿を消した。
開いているテーブルのイスに座って待っていると、私服に着替えた受付嬢さんがやってきた。案内してくれるのはありがたいけど、非番なんだから休んだ方が良いんじゃないの?そう聞いたら、
「冒険者って男性がとても多くて、口も悪いし粗暴な人も多いからストレス溜まるんですよ。だから、たまにはユーリさんみたいな可愛い女の子と一緒に町を歩いてリフレッシュしたいんです!」
だそうだから、私も気兼ねなく案内をお願いすることにした。…それにしても、私の容姿って黒髪黒目のいたって普通の日本人の顔付きなんだけど、確かにこの世界では珍しいかもしれないけど、特別綺麗でも可愛くも無いと思うんだよなぁ。これってひょっとして、魅力の高さと【才色兼備】の影響なのかな?
受付嬢さんの名前はキララさんっていうらしい。キララさんと連れ立って雑談(ほぼキララさんの愚痴)をしながら町の中の大きい通りを歩いて町の美味しい食事処とか洋服店とかを教えてもらった。ついでに、私は冒険者だから、品揃えのいい武器屋と防具屋も教えてもらったよ。
ついでに聞いたんだけど、一部の女性の冒険者はファッションを楽しみながら防具もきちんとしたいということで、服の下に鎖帷子を着こむ人もいるみたい。値段は少し高いけど、素材によっては普通の防具とそん色ないくらいの防御力があるやつもあるらしいよ。
2時間くらい歩き回って夜勤明けのキララさんが少し疲れてきたみたいだから、近くのカフェで休憩することになった。私は紅茶だけで、キララさんは紅茶と軽い軽食も注文した。待っている間に雑談していると、注文してからそんなに時間も掛からずにウェイトレスさんが注文した物を持ってきてくれた。
食事を終えたキララさんが、不思議そうな顔で私の顔を覗きこんでくる。
「それにしても、ユーリさんは何故フードを脱がないのですか?せっかくそんなに可愛い顔をしているのに、勿体ないですよ!」
私的には普通の顔だと思うんだけど、まあそれは置いといて。私の容姿は目立つみたいだからあまり顔を見せたくないんだよね。そう説明すると、キララさんも納得したようでそれ以上追及はしなかった。
食事を終えて料金を払い(キララさんが意地でもおごると譲らなかったのでおごってもらったよ)、カフェを出て再び町の中を歩き始めた。
…。カフェを出たあたりからから例のストーカー冒険者パーティーがついてきているんだよね。今はギルド職員のキララさんも居るのに。私服だから気が付かないのかな?
私は小声でキララさんにその話をすると、キララさんが自然な動作で周囲を確認してストーカー達の顔を確認した。すると、呆れたように溜息を吐く。
「あの人達は、ギルドでも要注意の冒険者として対象になっているパーティーですね。これまでも何度か犯罪まがいの行動をとってギルドに報告もされているのですが、どれも確実な証拠が無いので処分が出来なかったのです。…よりにもよって新人冒険者のユーリさんに手を出そうとするなんて、許せません!」
門番の人も言っていたけどよっぽど悪い意味で有名人なんだね。
どうしようかと普通の雑談をしている風に話し合う。このまま無視していても良いんだけど、あまり気分はよくないよね?すると、キララさんが良い機会だからあいつらを捕まえたいと言い出した。絶対に守ってあげるから協力してほしいって。まぁ、構わないけどね。守るって、キララさん強いの?
ちょっと鑑定で見てみたけど、レベル18もあったよ。後ろの連中はレベル9だから相手にもならないね。ただの受付嬢がなんでこんなにレベル高いのさ?え?冒険者同士の喧嘩に巻き込まれる時があるから職員はみんなある程度鍛えているって?ほえ~。冒険者ギルドの職員って大変だなぁ。
結局協力することになったよ。一度キララさんと別れて私は一人で薄暗い路地に入っていく。後ろの人達が今はチャンスとでも言いたげに近寄ってきた。アホだよねぇ。もうちょっと警戒すればいいのに。そんなだから冒険者すらまともに出来ないんだよ。
「よう。そこのお嬢ちゃん。ちょっといいかい?」
もちろん良くないんだけど、声を掛けられちゃったから振り返るといきなり3人で襲い掛かってきた!?いくら何でも気が早くない?私の収納目当てなんでしょ?あ、体目当てでもあるのか。どちらにせよお断りです!
ささっとバックステップで避けると、男たちの内の一人がナイフを突き出してきた。
「大人しくしねーと、その綺麗な顔に傷がつくぜぇ?」
「へへっ、確かにフードであまり顔は見えないが、よくみると本当に可愛い顔してるな。おら、逃げんじゃねぇよ!」
だから、私は普通の平均的な顔つきだってば。良く見えるのは絶対に魅力のステータスのせいだから!心の中でそう叫びつつバックステップでどんどんと路地の奥に向かって避けていく。そして、ついに壁があるところまで追いつめられてしまった。
「残念だったなぁ?もう逃げられねぇぜ?」
逃げられないというか、貴方達の速さに合わせる方が苦労したんだけどね。そんなこと思ってもいないんだろうな。でもさ、私が軽々とバックステップで距離を空けながら攻撃を避けているのを間近で見てなんとも思わなかったのかな?本当に冒険者なの?呆れてものも言えないよ。
そして、状況だけならば襲われそうになっている女性の図だ。男の一人が飛び掛かってきたのをわざと避けずに片手を出して捕まらせる。男の顔が嬉しそうに歪んだ瞬間。光の帯が伸びてきて男の体に巻き付いて私から引き剥がした。そのまま男の体を動けないようにぐるぐる巻きにしてこてんと地面に倒した。
「な、なんだ!?」
「どうなってやがる!?」
「ちくしょー!放しやがれ!」
気付けば残りの2人も捕まっているね。ギルド職員すごい。
しかし、びっくりするくらいテンプレな台詞だね。まさか実際に聞けるとは思わなかったよ。
路地の奥から隠れて拘束魔法を使ったキララさんが、隠れていた場所から出てきてゆっくりと歩いてきた。斜め上に光の玉が浮いているね。なんだろうあれ?魔法っぽいけど。
「新米冒険者の女性に暴行、強姦未遂の現行犯として、ギルド職員キララが拘束権を執行させていただきます」
「なっ!?ギルド職員だと!?」
「お、お前は受付の!?」
「ち、違う!俺達は路地に入って迷子になっている嬢ちゃんを案内しようとしただけだ!」
あら、往生際が悪いですね。私は彼らから襲われた旨を一部始終説明する。すると、キララさんは怒りに顔を歪ませて言い訳をしている男を蹴り飛ばした。ステータス差のせいか、思いっきり吹っ飛んで壁にぶつかった男は今のでHPが半分まで減っている。怖!
ちなみに拘束権というのは、冒険者ギルドに所属する職員が緊急時に、犯罪を行ったあるいは行おうとした冒険者を一時拘束する権利のことだよ。
「貴方達の会話の一部始終、ユーリさんを追いつめて襲い掛かった瞬間まで映像として記録してあります。言い逃れは出来ませんよ?」
そう言ってキララさんが自分の斜め上に浮かんでいる光の玉を見た。なんの魔法か気になっていたけど記録の魔法なんだね。鑑定してみると〈映写〉の魔法って出た。便利そうだから今度作ってみよう。
こうして男達は捕まって一度冒険者ギルドに連れていかれることになった。ギルド職員用の通信機の魔道具ですぐに連絡がとれたよ。この忙しい時に仕事を増やしやがってと、呼ばれて来たギルド職員がぶつぶつ言いながら紐で3人を纏めて縛ってそのまま引きずっていった。
あれHP減っているけど大丈夫かな?と見守っていると、キララさんが申し訳なさそうな顔で協力した私にお礼を言ってきた。私は別に気にしていないよと言うと、今回の件はギルドへの協力として冒険者ポイントをくれるようにギルドマスターに報告してくれるって約束してくれた。
「怖い思いをさせてしまったのですから、きちんと報酬を払いますね。それと、〈映写〉は映像の保存にもMPを使うので、私も一度ギルドに戻ります。今日は付き合わせてしまってごめんなさい」
私はむしろ一緒に町を歩けて楽しかったし、いろいろ教えてくれて助かったとお礼を言った。
「いえいえ、私が好きでしたことですから、それにしても、ユーリさんは意外と身軽なのですね。魔術師よりも剣士や探索者の方が良いのではありませんか?カード書き直します?」
うぇ。ちょっと困るところ突っ込まれたなぁ。とりあえず、話逸らして誤魔化そう。話を逸らすために、キララさんは非番だったのに仕事をしてしまったけど、休みは大丈夫なの?と質問してみた。実際、気になっていたしね。
「大丈夫ですよ。きちんと休みの延長申請をしますから。それでは、そろそろMPもきついので私はこれで失礼します。最後はアレでしたが、今日は本当に楽しかったです!ありがとうございました!」
良かった。きちんと休日中に働いた分は休めるみたい。私も楽しかったと改めてお礼を言ってキララさんと表の通りで別れた。
なんやかんやで、結構日が傾いちゃったね。今日はもう宿に帰ろうか。




