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80、孫悟空の報告⑨勝ち逃げした海の魔女

「沙胡蝶が東海竜王のクレームを言いに行くのを知っていたのは、命令した海の王と、言伝を命令されたタツノオトシゴと、海の魔女と、海亀族の長と烏賊族の長だけでした」


 孫悟空は、言葉を続けた。


「海の魔女は陸のモノの名前を白蘭の子につけたことで、沙胡蝶を海の王に支配されない体にした。そして海の王が子どもに関心がない隙に、沙胡蝶を海でも陸でもどこでも一人で生きていける術を出来るだけ沢山のことを身につけるよう育てあげた。……まぁ、沙胡蝶が蛸族並みに知能が高いのが嬉しかったのか、帝王教育まで修めさせてしまったために、国民に目をつけられたのは海の魔女にとっては予想外の出来事だったのでしょう。だから海の魔女は、海の王と海の国の民達に人間の成人の時期を悟らせなくするために、国民達の計画を利用して両方を沙胡蝶から遠ざけることにした。そうやって沙胡蝶をずっと守ってきた海の魔女は、この半年以上前に、東海竜王のクレームのお遣いに沙胡蝶が行くことになったと別れの挨拶に来たとき、海の魔女は初めて、運命の女神の存在を実感したそうですよ」


 何故ならば白蘭から白蘭の一族の成人年齢を聞いていた海の魔女は、沙胡蝶が17才になる前に何としても陸の世界に旅立たせようと密かに決意をしていたからだ。挨拶に来の時の沙胡蝶は16才になったばかりだったから、海の魔女は最初で最後のチャンスだと、この機会を逃さないことにしたのだ。


「今朝の俺の騒動で沙胡蝶がいないことを初めて知った民達は、俺がいなくなった後で何をしたと思いますか、お師匠さん?……何、想像するのは簡単ですよ」


 意図的に沙胡蝶を避けていた竜宮勤めの者達は離宮に押しかけ、半年以上も住む者がいなくて埃のつもったもぬけの殻と化した沙胡蝶の部屋で頽れただろう。国民一丸となった反乱計画の主要者達は、慌てて海の魔女の洞窟に押しかけたが、そこも半年以上も前に住む者はいなくなっていた。


「海の魔女はミス・オクトという名前の響きからもわかると思いますが、彼女は四海竜王達の治める、4つの海とは違う海の国の者なのです」


 この全ての世界の中で海は7つあり、4つを竜王一族が……残りの3つは竜王とは違う一族達がそれぞれに治めている。その3つの海出身の彼女は昔、一人旅をしているときに偶然、海の王の姿を見て一目惚れして、この国に住み着いた外海の(そとうみ)者だったのだ。海の王に100回の告白全てを断られたミス・オクトが親友も亡くなり、その親友との約束を半年以上も前にようやく果たした後に、この国にいつまでも留まっているわけがなかったのだ。


「お師匠さんの今回の頼まれ事で一番苦労したのは、海の魔女の居場所を探すことでした」


 孫悟空は沙胡蝶の頭に乗せられていた真珠に感じた魔力と類似する魔力を求めて、筋斗雲で外海に出て、聞き取りをしてきたのだ。半年以上前に海の魔女が沙胡蝶の言葉を聞いて、素早く極秘裏に内情を探った所……東海竜王のクレームを海の王が頼まれたのは竜王達だけの宴の場だった。そこはプライベートな場所と判断されて後宮にいる時と同様に、右筆係も鮫の側近も席を外していた。


 叔父の頼まれ事が本当に面倒で嫌だった海の王は宴が終わった廊下で、たまたまそこにいたタツノオトシゴに名付けの力を乗せた言伝を沙胡蝶に届けるように命じた。本来ならば王の命令は全て右筆係が記録するのだが、宴で酔っ払っていた海の王は記録する命令を臣下に命じることさえ忘れていた……と知り、海の魔女は、この好機を逃さなかった。


「海の王により、沙胡蝶の出国に気づかなかったことを知った国民達は、海の王のせいで長年の計画をつぶされて怒ったのでしょう。500年近く長い海の王の治世の記録のどこをみても、一度も王の仕事をしてこなかった王に対する忠誠心はなく、やっと待ち望んだ王に相応しい王族の子を、その海の王のせいで失ったのです。耐えに耐え、膨らみに膨らんだ怒りが弾けてしまったのでしょう。俺にボコボコにされた後、叔父に叱責されるのが嫌で、傷が痛いからと自分の国に帰ったところ、怒り狂った国民達に詰め寄られて責められた。そうなんだろう、海の王?」


 幽体の竜王は、これ以上はないというほど顔を歪めて、孫悟空を睨み付けた。

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