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79、孫悟空の報告⑧二人の反乱の勝利について

 孫悟空の話は続く。


「聡明で優しい沙胡蝶は海の国の民が渇望していた、理想の次代の竜王の姿、そのものでした。だから海の国の民達は、一度も姿を見たこともないというのに、海の国の王の末子であった沙胡蝶に次代の竜王になってほしいと願うようになっていったのです。……しかし沙胡蝶はその当時、まだ10にもなっていない幼い子でした。それに沙胡蝶は魔力もない、普通の人間の幼児でした。だから、もし沙胡蝶が海の王よりも優れていると知られたら、沙胡蝶は親兄弟に殺されてしまうかもしれないと彼らは心配になったそうです」


 孫悟空の分身は、ほぼ全ての国民に聞き取りをしていたので、彼らの話と海の魔女と呼ばれるミス・オクトの話とを摺り合わせたものを報告していった。


「沙胡蝶を将来の海の王に据えたいと願うようになった海の国の民達は、沙胡蝶の後見であり、養い親であった海の魔女に相談をしたそうです。海の魔女の願いは、沙胡蝶を白蘭の故郷である陸の世界に旅立たせることであり、次代の竜王にすることではない。しかし次代に優れた跡継ぎを望む海の国の民達の熱意は侮れない。そこで海の魔女は彼らの話を聞いた海の魔女は本心を隠したまま、彼らにある策を提案したそうです」


 孫悟空の話を聞いていた玄奘が、首をかしげる。


「それは、どんな策だったのですか?」


 孫悟空は玄奘に言った。


「海の国は竜王の結界で守られている以上、いざとなれば彼らは海の王の支配下に置かれてしまい、沙胡蝶を守れないどころか、下手をしたら攻撃する恐れだってあると海の魔女は言ったそうです。だけど海の魔女が提案した策ならば、誰も血を流すこともなく安全に沙胡蝶を海の王から遠ざけて守ることが出来ると囁いたそうです。その方法は沙胡蝶が成人するまで()()()()で、海の王一族を騙すことだったのです」


 孫悟空がそう言うと海の王と東海竜王は目を剥いて驚きの声を上げた。


「な、何だって!!」

 {まさか!私を何と言って騙したんだ!?}


 竜王と海の王は口々に大声を上げだが、孫悟空は彼らに構わずに続けた。


「その方法とは、国民総出で一丸となって海の王一族に対して、まるで暗示をかけるように、こう囁くことだったそうです……”沙胡蝶は鱗が3枚しかない、出来損ないだ。沙胡蝶は海の国で一番泳ぐのが遅くて、魅力的ではない。沙胡蝶は海の国で只一人の闇色の黒い髪を持っていて地味で美しくない子どもだ。沙胡蝶は魔力がまったくないし、人魚の体も持っていない海の国の落ちこぼれだ。沙胡蝶は竜宮で働く者だって、誰も近寄ろうとはしないくらいに魅力のない子どもだ。だから、沙胡蝶の傍には8本足の魔女しか寄り付かない。……それに比べ、海の王は素晴らしい御方だ。海の王は黄緑の鱗も素晴らしく、国一番の泳ぎを見せる素敵な王様だ。海の王は美しく、女なら誰だって海の王を恋い慕うほどに魅力あふれる御方だ。素晴らしい海の王の寵妃達も実に美しく魅力的で王の傍が相応しい御方達ばかりだ。彼女達の子ども達も沙胡蝶とは違って、どの子も皆、素晴らしい子達ばかりだ。沙胡蝶よりも美しく早く泳げる魅力的な子ども達だ。こんな魅力的な王の傍には、魅力のないものは相応しくないし、近寄せらるげきではない。出来損ないの沙胡蝶は海の王にはけして近寄らせるべきではない”……国民総出で一丸となって、海の王一族に対して、事ある事にそう繰り返すように言葉にしつづけることが沙胡蝶を守る方法だと言われた海の国の民達は、それを信じ、実行したのです」


 ……そう、竜宮の大臣も家臣も、鮫の腹心達も、貴族も兵士も、料理長も、女官も下女も下男も、商人も農民も、市民も。老若男女を問わず、海の王の一族に相対する者全てが、口を揃えて囁きつづけた。そして、その言葉に信憑性を持たせるためにと海の魔女に言われた、それまで沙胡蝶の傍にいた者達は涙を呑んで海の王へ囁いた同じ言葉を沙胡蝶に言って沙胡蝶の傍から去っていき、それ以降、会うのを避けた。「敵を欺くには、まず味方からだ」という魔女の言葉を信じて……。


 すると彼らの苦労が報われたのだろう。肉欲に浸りきっていた海の王は、段々と暗示にかかっていき、沙胡蝶のことを本当に出来損ないの魅力の無い子どもだと思うようになっていった。後宮の寵妃達は元から人間を嫌っていたため、さらに沙胡蝶の悪口を毎日、海の王に吹き込むようになった。民達は海の魔女の助言通りに自分達の気持ちを押し隠して、怠惰で自堕落な生活を送っている海の王に酒精の強い酒を大量に贈りつけ、ハーレムの寵妃達に真珠や珊瑚を贈りつけ、沙胡蝶へ関心が向かないよに画策した。その結果、耳障りの良い賛辞と贈り物をもらって機嫌が良い海の王は、さらに享楽的な生活を続け、常に酒精と、女に酔い続けた結果、迂闊にも当初自身が抱いた悍ましい謀略を、()()()()()()()()()のである。


「こうして海の国の民達は内心では沙胡蝶が成人するのを首を長くして待ちながら、何年も沙胡蝶を侮蔑する言葉を吐き続けることで沙胡蝶を守っていたそうです。沙胡蝶が成人した暁には、東海竜王以外の二海竜王達に直に国民総意の願書を出して、沙胡蝶を新しい海の王に推薦してくれと頼むつもりだったのだそうです。彼らの夢が叶い、沙胡蝶が次代の竜王となった暁には、今までの誹謗中傷を心から謝罪し、誠心誠意、心を尽くして沙胡蝶に仕えるつもりだった。所がです。それなのに海の民達の夢は後少しのところで、握り潰されてしまいました。……何と半年以上も前に、東海竜王のクレームを言いに海の王に命令されて、沙胡蝶が海の国を出てしまったからです。彼らの何年間にもおよぶ計画が水の泡となってしまったと、国民達が知ったのは()()のことでした。俺が分身の術で聞き込みしたことで皆が知ることとなったのです」


 海の王は国民達総出で騙されていたことに呆然としているようだったが、孫悟空は構わずに言った。


「海の魔女が沙胡蝶に陸のモノの由来で名付けたのは、いつか陸に白蘭と沙胡蝶の母子を帰らせるためでした。途中、海の民達の思惑に乗っかった振りをしつつ、彼女はずっとその機会を狙っていました。東海竜王のクレームは、まさに最高のチャンスだったのです!海の国の民達による長年の暗示と爛れた生活で、自身の謀略を忘れて、簡単に沙胡蝶を手放してしまった海の王……。自分達の希望を叶えるためにと海の魔女の計画にそうとは知らずに全力で手を貸してしまった海の国の民達……。海の魔女は、どちらにも沙胡蝶を渡すことなく、沙胡蝶の母親である白蘭との計画を成功させたのです。白蘭との約束通りに別れの餞別として、自分のありったけの魔力をこめた真珠をお守りとして沙胡蝶に渡し、『陸に帰りたい』と言った友のために海の魔女は16年かけて彼女の子どもを陸に送り出すことで白蘭の願いを叶えたのです」


 話し終えた孫悟空は、玄奘を窺い見た。


「……以上の話が、先ほどのお師匠さんの疑問の答えです。何故、沙胡蝶が海の王に狙われていたにも関わらず、何故今まで無事に過ごせたのか?それらは全て海の魔女が、沙胡蝶を守ってきたからに他ならないのです。これでご理解できたのなら、次は何故、海の王が真珠を欲しがったのかを説明させていただきます……」


 この言葉に東海竜王が声を上げた。


「本当か!何故だ!?何故、こいつは幽体になってまで真珠を欲しがったんだ!教えてくれ!!」


 孫悟空は何でも無いことのように言った。


「それはな、東海のおっさん。俺が今日の午前中に海の国を訪れたために、海の王はすっかり酔いが覚めてしまって、16年前の自分の謀略を改めて思い出したのと、海の国の民達に責められたことで、怖くなってしまい、強大な魔力が欲しくなったからだ」


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