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77、孫悟空の報告⑥海の化生の子と人間の子の違いについて

「3つ目の幸運は、浅はかで愚かな海の王が人間の生態を知らなかったおかげで、名付けの効力がないことに気づかれることなく、海の魔女が沙胡蝶の育ての親になれたことでした」


 卵生で生まれる海の国の赤ん坊は孵化すると同時に、直ぐに自分で泳いだり、話せたりするので、四六時中子育てをする必要もない。ある程度の勉強させる手間だけが子育てだといえる。海の国の赤ん坊なら、生まれたてでも直ぐに、自分である程度は生きていけるのだ。


 海の王は人間の生態などに興味はなかったし、赤子や子どもに興味や関心がまるでなかった。今までは、自分の寵妃から生まれてくる卵で生まれてくる子に対して、海の王として、名付けの呪に向かって、魔力をこめて命令すれば、例え生まれたてでも、その命令を子達は聞いていたので、沙胡蝶も自分の他の子達と同じだと意味の王は思っていたのだ。


 だから海の王は赤ん坊の沙胡蝶に、『後宮から出ることを禁止する』と海の王として沙胡蝶の名に向かって命じたのみで、白蘭の出産後にチラリと沙胡蝶を見た後は会いに来ることも、その世話を自分の配下に命じることもしなかった。その代わりに外出禁止の命令を出した海の王は、名付けの効力を使って、次々と色んな命令を生まれたばかりの赤ん坊に出した。


 人間との半化生を嫌う後宮の他の寵妃達と、その子達との接近禁止の命を出した。王族として出なければならない式典以外の宴にも赤ん坊が出ることを禁じた。例え出たとしても、顔が見えないようにして隅にいろと命じた。竜王達との接近や挨拶も禁じた。


 何も反論してこないことに当然のことと満足し、赤ん坊が成人を迎えるまでは、自分のハーレムで存分に楽しんでいようと海の王は当初考えていた。沙胡蝶にとって不幸中の幸いだったのは、海の王が赤ん坊や子どもには性欲は持たない性質だったことだった。海の国に生まれた者は、その母親の属性の種族差から成人の時期が異なるし、さらに人間の成人の時期を海の王は当然知らなかったので、成人したら知らせるようにと命令をしてから、その時を楽しみに、今しばらくは赤ん坊のことを忘れることにしたのだ。自分の支配下にあると、安心しきっていたからだ。


 白蘭の生んだ赤ん坊は鱗が3枚しかなく、魔力もない。鱗が3枚ある以外は、まったく普通の人間の赤ん坊だった。人間の赤ん坊は海の国の子どもと違い、誰かがずっと傍について、世話をしないと死んでしまうひ弱な存在なのだが、海の王も他の者も人間の生態を詳しく知らなかった。


 ミス・オクトは海の王の支配から無事に逃れることが出来たことを喜び合えない友を失ってしまったことを残念に思いながらも、すかさず次の手を打つ。生前、白蘭から人間の生態をある程度聞いていたミス・オクトは、海の魔女としての知名度があるのを生かし、沙胡蝶を育てるために、足のある海の化生達の協力を求めることにした。何故なら人間を育てたことのない海の化生には人間の赤ん坊の育児など至難の業であったからだ。


 人間の子どもを育てることは、何もかもが試行錯誤の連続だった。口では語れないくらい大変なことだった。例え海の魔女でも、一人っきりでは難しかっただろう。幸い足のある者達は連帯感が強かった。唯一の足のある寵妃であった白蘭に彼らは好感を持っていたし、直ぐに寵愛が失われたことにいたく同情もしていたし、彼女の早すぎる死を悼んでいた。


 白蘭の残した子どもは、彼らと同じで足を持って生まれてきて、母を求めて泣いていたので、その姿を見た彼らは、自分達まで悲しくなっていたので皆、快く協力を申し出てくれた。さらには幸運なことに、海亀族の長が、人と関わりのある河童という川妖怪と友人だったので、彼の助言を聞きながら、足のある化生達は総出で無我夢中で子育てをしたのだ。


 誰もが初めての経験だったのだ。授乳もおしめの交換も寝かしつけも……。海の化生と違い、何もかもに自分達の手を必要とする人間の赤ん坊に、最初は四苦八苦して面倒だと忙しいと大変だと嫌だと、文句ばかりが口について、日々世話に追われていたのだが、世話をかければかけるだけ、愛情をかければかけるだけ、それ以上に愛情を返してくれる赤ん坊に、やがて足のある者達は、すっかりメロメロになってしまった。


 卵生で生まれてくる子どもと違い、自分達の世話のおかげで日々見違えるように大きく成長する人間の赤ん坊に、育てる楽しさを見出してしまってからは奪い合うようにして、子どもを立派に育てようと皆が頑張った結果、海の魔女の予想外の展開が起きたのだ。


「四つ目の幸運は……ある意味、諸刃の剣でした。沙胡蝶は海の魔女等、足のある海の者達に育てられたことで、とても聡明()()()子どもに育ってしまったのです。そしてあることで、沙胡蝶は自活力にあふれると同時に、次代の王にふさわしい資質まで備わった子どもだと海の国の民達に知られてしまったのです」


 沙胡蝶は10に満たない内から、海の王の一族の中で一番聡明で、一番優しい王の子として、海の国の民達に知れ渡ってしまったのだと、孫悟空は話を続けた。

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