↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/108

76、孫悟空の報告⑤名付けによる反乱について

「白蘭の残した赤ん坊の幸運は、母親がミス・オクトと親交を深めていたことでした」


 そう言って孫悟空は、ミス・オクトが教えてくれた海の王が知らない秘密を話すのであった。


「白蘭が身ごもっているときに、100回目の告白を断られたミス・オクトは、ついに海の王を諦めようと決め、それまで大事にしていた千年アコヤ貝の特大真珠を白蘭にあげると約束をしたそうです」


 それは千年もの間、海の魔女であるミス・オクトが魔力を注いで作った特級品の魔道具で、告白が実ったら、海の王にあげるといったものだった。しかし海の王に、こっぴどく振られてしまった悔しさで海の魔女が6本の足で蹴飛ばしたために、真珠は盆状に平べったくなってしまった。白蘭は普通の人間で、魔力をもっていないために、部屋の床の間に飾れそうなほど大きい真珠がお盆になってしまった位の感覚しか持ち合わせていなかった。それで失恋から立ち直れるならと白蘭は深く考えずに海の魔女の特級品の魔道具を気安く受け取ったらしい。


 海の魔女は、最初は足のある白蘭が寵妃になれたことをやっかみ、毎日、後宮の白蘭の元に押しかけていたのだが、どういう経緯で仲良くなったかはともかく、この前後当たりから二人は大親友と呼ぶ間柄になっていたのだと、海の魔女は孫悟空に語った。


「だから、この時点で真珠は白蘭のものであったのです」


 そして、このころから二人の海の王に対する秘密の反乱が始まる。海の魔女は白蘭の『陸に帰りたい』という願いを叶えるために白蘭の子の名付けに、ある秘策を講じることにした。それは子どもが生まれて、その子どもが大きくなったら、母子二人を無事に陸に帰すためだった。


 ところが悲しい不幸が起きた。白蘭は出産時の大量の出血により、命を失ってしまった。彼女は息を引き取る最後の瞬間まで、涙ながらに赤ん坊のことをミス・オクトに頼んだという。そこからミス・オクトの一人っきりの二人の反乱が始まった。哀しみに呑まれる前に、ミス・オクトは涙を呑み込んで動き出した。当初の予定通りに海の王が口を出す前に、赤ん坊の名付け親になったのだ。


沙胡蝶(さこちょう)


 その名前の表向きの意味は、”水辺の砂に埋もれる小さな貝が蝶という海の国の幻の生き物に似ている”という意味だと、海の魔女は海の王に説明をした。ハーレムで沢山の寵妃に囲まれ酒を飲む、酩酊状態の海の王の前に、彼のもっとも嫌う足をわざと8本も誇張させた、本性の大蛸の姿で言いに行ったのが功を奏し、足を見るのを嫌がった海の王は、何も考えずに直ぐに了承して、海の魔女に帰れと言って追い出した。


 しかし沙胡蝶という名前の真実の意味は、”沙羅双樹と胡蝶蘭という名の、陸に咲く二つの花のように清らかな子ども”であった。白蘭の好きな陸の世界に咲くという、二つの花の内の沙羅双樹の沙を海に属する物の意味だと誤魔化したのが、見事に成功したのだ。白蘭の腹にいる頃から、陸の物の由来の意味で名付け、呼んで慈しんでいた赤ん坊は、二人が望んだ以上の好ましい状態で生まれてきた。


 海の国で生まれた陸の者……それが沙胡蝶と名付けられた赤ん坊の本性であり、()()()()というのが、その証だったのだ。いくら竜王の()()()()は、母親の種族に生まれるとはいえ、海の者としては鱗が少なすぎると、人間を嫌う後宮の他の寵妃や兄弟姉妹達に馬鹿にされ嘲笑したが、彼らはそれが意味することを知らなかったのだ。


 陸の者が、鱗を3枚持つ。


 これは白蘭とミス・オクトの考えた思惑以上の加護が、沙胡蝶に与えられたことを意味していたのだ。


 一枚の鱗は、水中で息をするために。

 一枚の鱗は、水流に流されないように。

 一枚の鱗は、水圧で体が潰れないように。


 陸の者として生まれた赤ん坊が、海の国で生きるために最低限必要な枚数だけの鱗を持っている。それはつまり、陸の者にとして生まれた沙胡蝶は、その身に三枚の鱗を持っているおかげで、海の国で死ぬこともなければ。陸の者となっているため、竜王に魂を支配されることもないのだ。おまけに四海竜王の海の結界を()()()()並に出入(ではい)りが出来る力も得ていたのだ。


「なんと!?」


 東海竜王は、そこまで聞いて驚愕の声を上げ唸った。確かに海の者なら鱗が()()()()()()のは出来損ないだ。しかし陸の者なら鱗が()()()()()なら、その意味は変わってくる。何故なら陸の者が海中界で過ごすには一部例外の者を除き、通常は海の国の者の加護が必要なのだ。


 しかし、どれだけその相手を気に入って加護を与えても、竜王でさえ鱗2枚が限界なのだ。鱗3枚を与えられるのは、()そのものくらいだ。海中界において海とは、地上界における大地であり、天界における空と同義語であった。竜王の支配が及ばない陸の者が、海に()()()()()に得た物が3枚の鱗なのだ!つまり沙胡蝶は……と考えた東海竜王は冷や汗が止まらなくなった。


「海の国に生まれた陸の者ということは、陸の加護のおかげで海の国の支配から逃れ、海の加護のおかげで陸の国の支配から逃れられるということだ。つまり、沙胡蝶は……両方の加護のおかげで、両方から守られながらも両方からの支配を受けない特異性を持った子どもなのだな!」


 そんな子どもは、今までに存在したことは一度もない。東海竜王は生唾を飲み込んだ。もしも、この特異性のある子どもが、竜王の正式な後継者となったのなら、その子どもは海中界と地上界の二つの世界の覇者になれる可能性が出てくるのだ。背中に冷たい汗が流れた。


「二人が願ったのは、海の王の結界から出て『陸に帰りたい』という白蘭の夢を叶えることだけだった。こんな特異性など、普通ならば狙っても得られなかっただろうよ。二人の子を思う気持ちが純粋だったのが、()()()()()に触れたんだろうな。……とにかく名付けられた時点では、沙胡蝶は二つの加護を持つものの、水の中で生きられるだけの魔力を持っていない普通の人間の赤ん坊だった」


 一旦、言葉を切り、孫悟空は沙胡蝶の3つめの幸運を話す。


「一つ目の幸運は沙胡蝶の母親がミス・オクトと大親友だったことで、沙胡蝶の味方に海の魔女がついたこと。二つ目の幸運は白蘭の陸の知識とミス・オクトの機転により、沙胡蝶は陸の者に生まれたため、竜王の名付けの効力が、沙胡蝶には通じないようになったこと。そして三つ目の幸運は、その名付けにより、海の王の支配下から外れたことに、浅はかで愚かだった海の王が気づかなかったことでした。何故なら海の王は、人間の生態を知らなかったからです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。