65、喧嘩はいつも先手必勝が信条の悟空
※往生際の悪い敵の復活です。孫悟空と敵の戦闘場面により、暴力表現があります。不快な方は、お控え下さい。
沙胡蝶を担ぎ、走り出した牛魔王を、孫悟空が林まで見逃したのは、先ほどの反省をしていた結果故であった。また店の中で暴れて、修理費をお師匠さんに払わせるわけにいかないからなぁ……そう考えた孫悟空は、思う存分暴れられる場所に牛魔王を誘導したのだ。
時は逢魔が時を迎えていた。林の中まで追い詰めた牛魔王は、ユラリと立ち上がった。孫悟空は牛魔王とは500年ぶりの再会だったが先程店内にいたときに見た牛魔王とは何かが違うと感じた。牛魔王は強い牛の化生ではあったが、根は臆病で単純だが、純粋な所もある気の良い妖怪で、こんな堂々とした悪意など持てる奴ではなかったはずだった。
ニヤリと口元を歪め笑う牛魔王は、何かを言おうと口を開いたが、孫悟空は構わずに如意棒で牛魔王を牽制し、左足で奴の足を払うため、低い位置で回し蹴りをした。
{な!口上もしていないのに、いきなり蹴ってくる奴があるか!}
頭の中に直接響くような声を発し、慌てて飛び退く牛魔王の体は2倍に膨れあがっていて、骨を鳴らせる勢いでさらに大きくなっているようだった。孫悟空は牛魔王自身の声ではないと気づくと、奴の言い分を全く無視し攻撃の手をさらに強めることにして、如意棒を使った激しい突きの応酬を喰らわせていく。
{お、おい!?孫悟空!こいつが大きくなることを不思議に思わないのか!?こいつを乗っ取っている者の正体がきにならな……}
孫悟空は相手が話すのも構わずに大きくなる一方の牛魔王の体を足場に駆け上がり、そのみぞおちに、重い拳をゴスィッッッッッ!……と叩き込んだ。
「全く興味ないな!」
{グフッ!お、おい、少しは人の話を……}
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!
{うぅ!!人の……話を!}
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!
{だからっ!人の!}
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!
{うっ!ぐっ!だ……から、人の}
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!
{人の話を聞け-!!}
サンドバック並に連続パンチを喰らわせ続ける孫悟空をなぎ払った牛魔王から一旦離れた孫悟空は、如意棒を持ち直してからキッパリと言ってやった。沙胡蝶を攫った時点で、牛魔王は孫悟空の敵だった。喧嘩はいつだって先手必勝が孫悟空の信条である。それに今では小山のように体を巨大化していっている牛魔王の白い体を鱗を剥いだような傷痕が体中に浮かび上がって来た時点で、牛魔王の体を乗っ取っている者の正体なんて容易くわかるし、だからこそ、そいつの口上など絶対聞いてやるものかと孫悟空は思った。
{わ、わかった!じゃ、私の子の……}
孫悟空は、如意棒を巨大化させると、ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!と奴の足の脛を思いっきり打ってやった。
「無理!俺は屑の要望はさらに聞かないことにしてるから!」
孫悟空は、そいつの視線がそこに行かないように気をつけながら、奴に言ってやった。
先手必勝の孫悟空、当然名乗らせる暇なんて与えません。




