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58、沙胡蝶、水簾洞の回想⑤

沙胡蝶の回想部分長くなってしまいました。沙胡蝶の回想は⑤で終わります。

 沙胡蝶に話し終わった孫悟空は筋斗雲を呼びつけて、四海竜王達から沙胡蝶宛に別れの餞別を預かったと言いながら、何かがぎっしりと詰め込まれたような大きな布袋と金で出来た冠と鎧と靴を沙胡蝶の目の前に並べ置いた。


「こっちの袋のは、お前の父親の全身の鱗だ。ほら、本人の性格がどれだけ醜悪でも()()以外の、竜の鱗は問題なく綺麗だろう?一枚の大きさが大体直径で150センチほどの黄緑色の鱗が80枚ある。この鱗一枚あれば一生食べていくことが出来るほどの大金に換金できるほどに、竜王の鱗は陸では希少価値が高い宝なんだ。というのもな、竜王の鱗は難病を治すことが出来る霊薬になるからなんだ。……まぁ、汚らわしい欲望を持つ海の王の鱗なんて、お前にとっては悍ましいものでしかないだろうが、これから生きていく上で金は無いよりもある方がいいからな。それはこれは、お前達母子に対する海の王の慰謝料代わりなんだから受け取っておけ。……で、こっちの防具一式はお前の大叔父達からの贈り物だそうだ。この防具はお前には重いかも知れないが竜王達の秘蔵の防具だから、きっとお前を守る力となってくれるはずだから、何とか身につけてお……!?」


 孫悟空の言葉が言い終わらない内に、沙胡蝶の頭に被せられた真珠が光ったと思ったら、沙胡蝶の目の前に置かれた品々は瞬時に消えた。


「うわー、収納も出来るなんて俺でさえ気づけなかったぞ!お前、沙胡蝶に関することなら何でもするんだな」


 沙胡蝶は孫悟空が、何も語らない真珠と意思疎通できていることに密かに驚き、またミス・オクトが、この真珠にこんな芸当が独りでに出来る魔法をつけていた事実に驚嘆していた。姿の変化の術と収納の魔法なんて、過保護すぎるのではと思いつつも、海の魔女の深い思いやりに心の中で感謝した。そこへ部屋の外から、しゃがれた声の女性の呼ぶ声が聞こえた。


「おーい!花果山の暴れ猿やーい!服を持ってきてやったから顔を出しなー!」

「おっ!やっと服が届いたみたいだな。よし、沙胡蝶も行こう」


 そう言った孫悟空に抱きかかえられ、沙胡蝶は外に出ると、そこには小山ほども大きな真っ黒い体の誰かがいた。沙胡蝶は、大きな誰かの足に目をやり、その足が8本あることを認め、目を丸くした。


 あっ!足が8本ある!……もしかしてミス・オクトの親戚か何かかしら?と沙胡蝶は思った。そう思うと沙胡蝶は目の前の誰かに急に親近感が湧いてきた。すると、沙胡蝶の期待のこもった視線に気づいた8本足の黒い誰かが、戸惑ったような声を上げた。


「?……っな、何だい、この子?こんなキラキラした目であたしを見る生き物に、あたしゃ生まれてこの方会ったことがないよ!?」

「あの、初めまして沙胡蝶と言います。どうぞよろしくお願いします!あの、あなたはもしかしてミス・オクトのご親戚の方ですか?赤くて可愛い目が沢山会って素敵ですね!」


 沙胡蝶は目の前の誰かの沢山の赤い目を覗き込みながら、私、こんなにも小さくなっていたのですねと感心し、改めて少し驚いた。黒い誰かは沢山の目を一斉に丸くさせて、面食らったような表情で言った。


「そりゃ、どうも……。所でミス・オクトって言うのは誰だい?」


 それに答えたのは孫悟空だった。


「ミス・オクトは海の魔女と呼ばれる程の魔力を持っている、外海の国の蛸族の姫君だ。そして、この子の育ての親なんだ」

「海の魔女だって!?聞いたことあるよ!海の国にいるという、8本足の魔女だろ!すごいんだってね!人魚を変化の術どころか、細胞レベルで本当の人間にしてしまえると聞いたことがあるよ!まるで神様かと思っちまうくらいのとんでもない魔力を持った魔女なんだってね!足が8本な所があたし達、蜘蛛の化生の眷属にも好印象で人気なんだよ!ああっ、そうか!暴れ猿の(つがい)は、その魔女の愛し子か!だから普通は怖がられるあたしの姿が怖くないんだね」

「へ?お、おい!俺の(つがい)って何だよ!?」

「おや?あんたの分身が言ったんだよ。孫悟空(本体)と、その三界一の花嫁に似合う特別の衣装をくれってね!」

「何だって?!」


 目を皿のように見開き驚く孫悟空に、小山のように大きな蜘蛛の化生は大きな足に似合わない慎重な動きで瓢箪に入る前に見た沙胡蝶の着物ドレスとそっくりな服を差し出した。


「いつもの片言が嘘のように流暢に喋って、()()細かい注文をつけるから大変だったんだよ!まぁ、ものすごく奮発してくれたから、こっちも張り切ってあたしの眷属(けんぞく)総掛かりで仕上げたけれど……。所で……あんたの番さ、ちょっとばかり(おさな)くないかい?あたしゃ蜘蛛だし、人様の年齢はわからないけど、それはちょっと道徳的にどうなんだろうかとか思うんだけど……」

「違う、誤解だー!」


 静かな水簾洞の庭に悟空の叫びが響き渡った。

※海の魔女が真珠に込めた魔法は2つどころではないことに、沙胡蝶は全く気づいていません。人間だった母親と同様、魔力を感じることも出来ないので、真珠は姿を変える魔法をつけた旅のお守りくらいにしか思っていませんでした。ちなみに悟空の分身の言っている三界一とは天界・地上界・海中界のことで、彼はどの世界においても一番美しく、好ましいと沙胡蝶のことを想っていました。

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