55、沙胡蝶、水簾洞の回想②
瓢箪の中で意識が途絶えた沙胡蝶は、気がつくと孫悟空に口吸いされていることに気がついて目をパチクリとさせた。沙胡蝶が目覚めたことに気がついた様子の孫悟空は安堵の表情を浮かべた後、どこか体が辛いところはないのかと尋ねる。沙胡蝶は大丈夫だと答え、周りに目をやり、自分がいる場所が檜達の店内ではないことを知り、不思議に思った。
「ここは俺の昔の住処だったところだ。心配しなくても誰にもお前の本当の姿は見られていない」
孫悟空の家だと知り、沙胡蝶は沢山の花が飾られていて良い香りがする部屋の中をもう一度見回し、良い家ですねと孫悟空に言った。孫悟空は沙胡蝶の濡れた唇を指で拭いながら、瓢箪の中で沙胡蝶が溺れたことや、特殊な仕掛けがされた瓢箪のせいで、自分達の服が溶けてしまったことを話した。
沙胡蝶の姿が急に少女の姿になったため、何か訳ありだろうと考えた孫悟空は、誰にも沙胡蝶の姿が見られないように瓢箪から脱出をして、沙胡蝶の体に大量に取り込まれてしまった酒精を抜くために孫悟空の昔の家で処置を行うことにしたのだと話した。
「そうだったのですね。お手数をおかけしてしまいました。悟空さん、助けてくれてありがとうございました!」
沙胡蝶が起き上がって、お礼を言うと悟空は真珠の乗っかっていない沙胡蝶の頭を撫でた。悟空の手は、とても温かいと沙胡蝶は思った。
「こっちこそ助けに来てくれてありがとな!すっごく嬉しかった。ホントだぞ!……でもな、今後はこんな無茶なことをしてはダメだ。俺は仙術の天才でな、海だろうが空だろうが、どこでも生きてられるし、どこでも一番早く動けるんだ。それに俺はすっごくすごく超強い!ま、お釈迦様の次に、だけどな!だから俺を助ける前に、お前は自分のことを守ってくれると、俺はとても嬉しい。それに、このへしゃげた真珠はお前の物だ。海の魔女は、これを他の奴らに使わせる気は全くない。他の奴らがお前から奪って、これを被ったって、ただのハゲ頭の鬘を被っただけにしかならないからな」
孫悟空の言葉に沙胡蝶は、孫悟空が沙胡蝶の頭に乗せられた真珠が、海の魔女のお守りだと言うことや。海の魔女が沙胡蝶の旅の安全を慮って、沙胡蝶の姿形や性別や年齢を全て変えていたこともわかっていたのかと焦った。孫悟空は焦る沙胡蝶の姿に苦笑しつつ、沙胡蝶の頭を撫で続ける。
「ん?黙ってたことを怒っているのかを心配してるのか?黙っているのは身を守るのに当然なんだから怒るわけがないだろう。沙胡蝶は、こんなにも綺麗な女の子なんだから一人旅は危険すぎると考えた海の魔女の意見に俺も大いに同意している。まぁ、変化の魔法がかかった状態の少年姿も可愛いから、すごく心配だけどな。沙胡蝶はこれからも誰にも言わなくていい。俺も言わない。海の魔女と沙胡蝶と俺だけの秘密だ。それに俺は沙胡蝶のことは、人づてだけど大体のことは知ってるつもりだし、協力できることは何でもやってやるからな」
沙胡蝶は孫悟空が海の国まで行って、父である海の国の王や東海竜王の大叔父様やミス・オクトにまで会いに行って沙胡蝶のことを調べたという話を聞いた。それを聞いた沙胡蝶は孫悟空は分身の術が使えて、ほぼ全ての海の国の住民に声かけして調査したという話に、こんな短時間で海まで行って調べて帰ってくるなんて。なんて速く行動出来る人なんだろうか!と驚いてしまった。
「こんなの斉天大聖孫悟空様にとっちゃ簡単なことだよ。それより、もう体は大丈夫か?水は飲めるか?腹は空いていないか?」
沙胡蝶は空腹ではなかったので、水だけをもらうことにした。孫悟空は、お昼を食べていないからと果物に手を伸ばした。沙胡蝶は孫悟空が桃をそのまま食べようとしたので慌てて止めた。
「あの、桃は産毛がありますし、食べるなら剥きますから、少し待っててもらえますか?」
「え?……あ、ああ」
沙胡蝶は目を丸くさせた孫悟空から桃を預かると、テーブルに目をやった。テーブルには小刀と小さいまな板が置いてあったので、それで沙胡蝶は桃の皮を剥き、一口大に切り、まな板の横に小さめの器も置いてあったので、そこに桃を入れて匙を添えて孫悟空に差し出した。
「あ、ありがとよ……」
目を丸くさせたまま、孫悟空は沙胡蝶が差し出した器を受け取った。沙胡蝶は孫悟空の口が桃の産毛で痒くなる前に気づいて良かったと思いながら、湯飲みで水を飲んだ。冷たくて、とても美味しいお水だと沙胡蝶は顔を綻ばせた。




