51、縮んでしまった沙胡蝶
4、5才位の姿になった沙胡蝶は、元々の12才位の姿の時の少年らしさが消え、より中性的な容姿となっていた。太上老君の瓢箪の中に少しの時間いたから、どうやら体が少し溶けて小さくなったらしいと、事情を知る者達は思った。
可愛い少年の姿から可愛い可愛い天使の姿に大変身を遂げた沙胡蝶は、檜と楡が用意した純白の着物ドレスまで沙胡蝶の今のサイズに合うように小さく縮み、少年らしさが消えた今の沙胡蝶の姿に本当に似合っていた。美少年による男の娘だった姿が、今は本物の美幼女にしか見えない。そうまさしく天使の容貌に檜と楡は、顔を真っ赤にさせて沙胡蝶に駆け寄った。
「さっちゃん、僕らのこと、パパって呼ん……」
双子が言い終わる前に、バキッ、ドゴッ!!と先手必勝を信条にしている孫悟空が足蹴を喰らわせ、双子は後ろに吹っ飛んでいった。倒れ込んだ双子を冷ややかに見据え、孫悟空は沙胡蝶を抱え直した。
「誰がパパだ!こいつに近づくんじゃねぇ!」
「そんなのずるいよさっちゃんは僕達が大事に育てるよ!」
「そうだそうだ!僕達がどこに出しても恥ずかしくない立派で可愛い大人に育てて、三国一の花婿にしてみせる!」
「黙れポンポコツインズが!お前らに子育てが出来るのか!?」
「僕一人なら無理かもしれないけど、僕達は7人兄弟だから、皆で大事に育てるよ!それに僕ら7人、資金が貯まったからそろそろ足を洗って違う街で、新事業をしようかって話してた所だし、丁度いいよ。ね、皆?」
7人兄弟達は頷き合って、小さくなった沙胡蝶を8番目の弟として、立派に育てると言い出した。もちろん、そんなことは出来るかと孫悟空が突っぱねると、今度は違う所から声がかかる。
「さっちゃん、私の事、ママって呼んで?」
孫悟空が振り向いた先には、泣き顔をキラキラ輝かせた鉄扇公主が胸の前で小さく拳を握りしめて、熱く沙胡蝶を見つめていた。どうやら夫と妾を交えて話し合いをしていたが、沙胡蝶の姿を見つけた途端、放り出してきたらしい。牛魔王は鉄扇公主に男達に近づくなとわめいたが、玉面公主の9本の尾で締め付けが強くなり、苦しげに歯を食いしばりだした。
「さっちゃん。攫ってしまった事、本当にごめんなさい。怖かったでしょう?辛かったでしょう?謝ってもすむことではないから、きちんと罪を償うわ。さっちゃんがこんなことになってしまったのは、元はといえば、私が人違いをしたことが原因だもの。どうか償わせて?私、離婚したけど、さっちゃんに不自由な思いはけっしてさせないわ!怖い思いをさせたお詫びに、さっちゃんが元の体に戻る日まで……ううん、ずっとお世話をさせて?あなたの傍にいたいの……。どうか傍にいさせて?」
この鉄扇公主の言葉に、目を剥いた牛魔王は慌てて叫ぶ。
「な!お前、こんな子どもに惚れたのか!?俺は離婚なんて絶対に認めな……フギャ!」
牛魔王を本性の9つの尾でさらにきつく締め上げた玉面公主は鉄扇公主に加勢をする。
「なんだってあんたはそんな風にしか考えられないのよ!鉄扇公主はママになりたいって言ってるじゃないの!ホント信じられない!あのね!鉄扇公主はあんたにはもったいない程の立派な淑女なの!だから、そこのイケメンズも!この子どもは彼女に任せてよ!私だって、こいつの妾をやめて鉄扇公主と一緒に子育てを手伝うわ!」
「ありがとう、玉面公主!……でも、いいの?あなたは牛魔王の本妻になりたかったのでしょう?」
「いいのよ、鉄扇公主!牛魔王が、こんなにも女を馬鹿にしている男だと思わなかったのよ!もう、うんざりなの!そんなことよりも、さぁ、この子の親権を掴むわよ!」
「負けるか!五宝貝の北斗七星と呼ばれた兄弟の結束力を侮るな!行くぞ、皆!」
「オウ!
悟空と五宝貝のイケメン7人兄弟ホスト達と、鉄扇公主と玉面公主による三つ巴の戦いの火蓋が、今まさに切って落とされようという緊迫感が漂い始めた中、この大混乱を治める声が響く。
「待ちなさい!どうしていきなり沙胡蝶さん争奪戦が始まるのですか!?」
唯一、冷静さを失わなかった玄奘の声が響く。
「まずはお互いの状況を把握することから始めなければいけないでしょう!」
玄奘の正論に誰も反論出来なかった。




