↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/108

52、三蔵法師は沙胡蝶に深く詫びる

 玄奘は、まずは状況を把握していないだろう沙胡蝶と二人で話したいからと人払いを求めた。そこで檜と楡は二人をVIP席に案内した。檜は沙胡蝶と三蔵法師が目線が合って話し合えるようにと考え、羽毛が入った、フワフワのレースのクッションをどこからかいくつも出してきて、沙胡蝶が座るソファの席にそれを敷き詰めてから孫悟空に沙胡蝶をそこに座らせるように声掛けをした。


 悟空は沙胡蝶を片手で抱き上げたまま、もう一方の片手でクッションの具合を確かめてから、そっとそこに沙胡蝶を座らせた。楡はテーブルに焼き菓子が入った菓子鉢を置き、果実水の入った2つのグラスをコースターの上に置く。


「お代わりが欲しいときは遠慮せずに声を掛けて下さいね」

「では、ごゆっくり。ささ、孫悟空さんはこちらに……」

「え?何だよお前等?……って、何すんだよ!」


 檜と楡は孫悟空の両脇を二人して持ち上げると、自分達の兄弟と玄奘の2人の供が待つ所まで孫悟空を運んでいった。玄奘の望む、話し声が聞こえない所の席まで彼らは移動すると、今まで沙胡蝶と一緒にいた孫悟空を尋問しだした。


 鉄扇公主は三蔵法師の話が終わるまでに自分の話を終わらせようと、先ほどからの不毛な話し合いを続けることにした。腹を割って話してみれば、妾の玉面公主は気さくな性分の持ち主で、鉄扇公主の意見を尊重してくれたが、牛魔王の方は、どうあっても鉄扇公主との離婚に応じず、身勝手な言い分ばかり言う牛魔王に鉄扇公主は元より、妾である玉面公主まで次第に苛立ちと怒りを持ち始めたことに牛魔王は気づいていない様子だった。


 玄奘は、その様子を見て、一つため息をついてから沙胡蝶を見つめた。沙胡蝶は、大量のクッションでお尻の位置が安定しないのか、モゾモゾして何度も座り直していたが、ようやくいい位置を見つけられたのか、ホッとした表情で玄奘を見上げてきた。沙胡蝶の視線に、中身まで幼児のような退行を感じなかった玄奘は、少しだけ安堵し、沙胡蝶に深く頭を下げて謝った。


「沙胡蝶さん、すみませんでした!」

「?どうして玄奘様が謝っているんですか?」


 12才の姿だった時のボーイソプラノの声が、さらに幼さを増した可愛らしい声になった沙胡蝶に、三蔵法師は語り出した。


「実は私が三蔵法師なのです。私は釈迦如来から三蔵法師の名前を賜ったというのに、気後れして旅の間も名乗るのを避けていたんです。だからあなたが私と勘違いされて攫われてしまったのです。本当に申し訳ありませんでした」


 玄奘は自身の使命の事を沙胡蝶に説明した後、翠こと鉄扇公主の話や、檜と楡の正体や試練のことを沙胡蝶に話した。


「こんなことになってしまって何と償えば良いか……。その体では、あなたは一人旅を続けられない……」


 本当に何と詫びれば良いのかわからないと玄奘は思った。元の姿の時さえ、ほっそりとした美しい少年の一人旅に、内心とても心配していたというのに、例え中身が賢いままでも、外見が幼児ではとても一人旅は続けられないだろうと密かに玄奘は思ってしまった。沙胡蝶は玄奘の心配げな様子に何かを言いたげな表情となり、言うのを躊躇っているような躊躇いをみせた。


「?どうしました?」


 三蔵法師の声に、ようやく決心しただろう沙胡蝶は、眉をキュッとしかめて顔を上げた。そして口元に両手を添えて、小声で玄奘に話しかけた。


「あの……お耳貸してもらえますか?」

「?いいですよ」


 沙胡蝶の口元まで近づいた玄奘に内緒話をするように、沙胡蝶は話し出した。


「あのですね、玄奘……三蔵様。実は私は、こう見えても16才なんです。もうすぐ成人の身なので自分の行動には自分に責任があると私は考えていますので、三蔵様が気に病むこともないし、償われる事なんてないんですよ。


 むしろ謝らないといけないのは私の方なんです。今朝、流砂河で朝ご飯をいただいているときに、私は海の国の王の末子だと言いましたよね?それで実は……海の王っていうのは竜王のことでして、私はこう見えても半分だけ海の化生なんです。陸の人間は、海の化生のことを怖く思うかもしれないって思ってて、あなたを怖がらせたくなくて、今まで黙っていてごめんなさい。


 あの、げんじょ……いえ、三蔵様?私のこと怖いですか?でも私は怖い妖怪ではありませんよ!半分だけ化生といっても、後の半分は人間なんです。人間の母と同じで私自身には魔力はないし、早くも泳げないんです。鱗も3枚しかないし、人魚の姿も持たなくて、ただ水の中で息が出来るだけの私は、後宮の人達には出来損ないと呼ばれているほどでして……。えっと話が逸れてしまったので戻します。それで何が言いたいかというと、私は半分だけ化生だから出来損ないでも普通の人間よりかは鱗3枚分だけは丈夫なんです。だから一人旅も心配いらないんですよ」


 心底申し訳ないという表情で眉毛をシュンとさげて沙胡蝶は内緒話を終えた。玄奘は目を丸くさせたものの無言のままだった。黙ったままの玄奘に、やっぱり人間は海の化生が怖いのかもしれないと沙胡蝶は思った。


「ほら、三蔵様!私は怖くない妖怪ですよ-!」


 何とかして敵意はないと示したかった沙胡蝶は両手を横に広げ、上下に腕を上げ下げして、とりあえず危ない武器は持っていないアピールをしようとしてバランスを崩し、クッションの上でひっくり返った。


「きゃう!」


 沙胡蝶は小さいうめき声をあげた。レースの沢山着いたスカートがめくれて真っ白くて細い子どもの足が、丸見えになってしまった。沢山のクッションがお尻を隠してくれたのは不幸中の幸いだった。


「大丈夫ですか、沙胡蝶さん?」


 玄奘はいくつものクッションをかき分けて、クッションの山に埋もれた沙胡蝶を救出しようと抱き上げた。失敗しちゃった……とひっくり返ったことを恥ずかしく思った沙胡蝶は、頬を赤らめて照れ笑いをした。


「ありがとうございます、三蔵様!」

「大丈夫ですよ。私は沙胡蝶さんのことを少しも怖いとは思いませんので安心して下さい」


 自分の腕の中という近距離で、沙胡蝶の照れ笑いを間近で見ることになった玄奘は、ニッコリと笑顔で言った。そして沙胡蝶を抱き上げたまま、自分が座っていたソファに戻ると、自(・)分(・)の(・)膝(・)の(・)上(・)に座らせた。


「?あ、あの?三蔵様?」


 玄奘の膝の上に座らせられた沙胡蝶は、後ろを振り向こうとしたが、玄奘にテーブルの菓子鉢から焼き菓子を一つ取って渡されながら、こう言われてしまった。


「あのままじゃぁ、又ひっくり返ってしまいますし、このままお話を続けましょうね」

「え?えっ!?」


 遠くの席で何かを羨ましがる悲鳴が聞こえた気がしたが、玄奘はそれも笑顔で無視をした。玄奘の有無を言わせぬ笑顔に沙胡蝶は下りたいとは言えなくなってしまった。

羽毛の入ったフワフワのレースのクッションは、檜と楡達がいつか沙胡蝶とパジャマパーティーをしたときに枕投げをしたいと思って用意していたものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。