37、檜と楡の回想④
檜と楡のお話、続きます。
7人が分からないと答えると、彼女達は目をキラキラさせて頬をバラ色に染めた。そうでしょうとも!と興奮気味に正解を口にした。
「あの子はね、食堂にいるのよ!どうしてか、わかるかしら?あの大男があの子を騙して、賭場を食堂だと偽ったでしょ?だからあの子は賭場の軽食を取る場所の洗い場で今、お皿洗っているのよ!誰かがね、億万の富を得たのに何で働くの?と、あの子に聞いたの!……そしたらね、彼!『働かざる者食うべからずでしょ』……と言ったのよ!ああ、あの子の10年後が、とっても楽しみよ!」
少年は外の国から来た者だったらしく、賭け事で大金を得られることが心底、理解出来なかったらしい。何度説明しても、冗談でしょうと取り合わず、賭け金を受け取ろうとはしないという。
金額を指定する会話のやり取りをしていただろうと指摘する周りの者達にも少年は、そういう盛り上げ方をする遊びなのでしょう?と平然と答えた。どうやら少年は、そのやり取りが遊びを盛り上げるための、演出方法の一つなのだと信じ切っているらしかった。何でも少年を乗せた船にいた冒険家達が。彼にそう教えたらしい。
冒険家達は長い船旅の合間に賭け事遊びを少年に教えてくれたというのだ。彼らも、言葉だけでお金のやり取りをして、スリルというものを演出していたが、いつも一番多く勝つ者に細やかなご褒美をくれるだけで、本当のお金のやりとりなどはしていなかったと少年は皆に説明をしてから、こう言った。
「だってお金は大変な苦労をして、お仕事をして得られるものでしょ?(ミス・オクトに、後宮の外の人達のことを教わったから間違っていないはず)そうやって働いて得たお金は、自分や自分を支えてくれる大切な家族が幸せな生活を送るのに必要な、大事な物なのでしょ?(後宮の外の普通の人達は、そうやって生きていると聞いたもの!)そういう大事なお金をこんな遊びで、自分や自分の家族の人生を左右させるような事に、大人が使うはずないもの!冒険家の皆も、私の言うとおりだと言っていましたよ!』
冒険家の皆は、細やかなご褒美だと言って、少年に玉葱で涙が出ないコツを教えてくれたり、夕飯のミートボールを一つおまけしてくれたり、夜眠る前に語ってくれるお話を二つにしてくれたり、甲板で散歩するときに転ばないようにと手をつないで一緒に散歩してくれたりと、少年が願ったご褒美を我先にと奪い合うようにして、それを叶えてくれたのだと少年は嬉しそうに言った。
遊んでいるときも細やかなご褒美をくれるときも、逆に他の冒険家の仲間達にするときも、皆も私もずっと笑って楽しかったのだと、真珠色の禿げ頭を撫でながら、懐かしそうに少年は語ったという。
「それにその言葉の通りに、そんな大金を支払ったら、支払った人や、その家族の人たちの生活が困ることになりますよ?遊びで誰かが苦しむことになるなんて……。それは遊びとは言わないと私は思います。遊ぶ事は自分や一緒に遊ぶ人達が、楽しい時間を過ごせる幸せを感じられることでしょ?働くのと同じくらいに生きるためには大事なことです。なのに、その遊びで誰かが苦しむなんて、あってはいけないでしょ?」
少年のキラキラと輝く黒い瞳に見つめられて、そこにいた大人達は何も言えなくなってしまったという。賭け金は、そっくりそのまま元の持ち主達に返却されることになった。
※もちろん海賊達も最初はお金を本当に賭けていました。でも沙胡蝶の言葉に、本当の事を言えなくなったのと、可愛らしい褒美を口にする沙胡蝶にメロメロ状態となった海賊達は、その後、とても健全な賭け事遊びをするようになりました。沙胡蝶の頭に被せられた真珠も、沙胡蝶の危機を感じない限りは能力を発揮しません。負けることも海賊船で、沙胡蝶はキチンと経験しております。因みに海賊達は誰が勝っても、勝者は沙胡蝶を喜ばせようと考えていました。




