36、檜と楡の回想③
檜と楡の双子と5人の兄弟達は、子どもを助けに入った賭場の中の異様な光景に目を見張って驚いた。
大きな賭場の会場の中心に打ち拉がれた様子の下着姿の強面の大男が見える。あれがこの賭場の経営者に間違いはない。不思議なことに下着姿だったのは、その賭場の経営者だけではなかった。大男の傍にいる大勢の男達も、同じような下着姿で精魂尽き果てた様子でいる。異様なのは、それだけではない。普段は煩くて仕方がない喧噪の場であるはずの賭場の中が、大勢の客がいるのに誰も喋らず動かずに、シンと静まりかえっているのだ。
何が起こったのかと辺りを見渡し、自分達の店にも良く来る女性客達がいるのを見つけた彼らは彼女達に尋ねた。興奮気味に話す彼女達の話の内容を整理すると、こうだった。
賭場の経営者は自分の店に向かう途中、街の中を歩く、見慣れない少年に一目惚れしたのだという。経営者は少年を自分の傍に置きたくて、少年を借金まみれにしようと一計を企てたらしい。……しかし、その計画は上手くいかなかった。誰にも見破られることもなかったはずのイカサマをしているのに、何故か少年に勝てないかったのだ。賭場の経営者は何回繰り返しても勝てないことに驚き、賭け事の種類を変えてみたりもしたのだが、一度も勝てなかったので焦りだし、ついには露骨で悪質なイカサマを仕掛けたのだが、それでも勝てず、しかもそれを他の客達に見られて大騒ぎとなってしまったというのだ。
客達はイカサマに気づき、噂は本当だったのかと怒り出して、賭場の経営者を問い詰めようとしたのだが、少年が悪質なイカサマをされているというのに、された状態のまま正々堂々と勝利を収めてしまったので、それに驚き、喜び、歓声を上げだした。あくどい経営者を糾弾するのは後回しにした客達の中から、根っからの賭け事好きな者達が躍り出てきて、次々に少年に挑み出したのだと、彼女達は熱い視線を子どもに向けた。
「あの天使みたいに可愛らしい男の子が卑劣なイカサマをしてくる男達をね、正攻法で次々とやりこめていく姿が、最高にカッコいいのに可愛くて……私達のハートがキュンキュンしちゃったわ!」
彼女達はウットリとした表情で言った後、先程とは表情を変えて、床に転がる男達を軽蔑した表情で見下ろしながら言った。
「ここにる下着姿の男達はね、賭け金どころか自分の所有する家やら財産を賭けてたけど、あの男の子に負けてね。しまいには今身につけている身ぐるみどころか、自分の家族までも賭け金として、最後の勝負を持ちかけたのよ!本当に最低だわ!でもね、日頃の行いのツケが今日来たのね。あの姿を見ればわかるでしょう?彼らは全敗したの……」
項垂れ頽れる下着姿男達から会場に視線を移した7人は、噂の少年の姿を見ようとし……その少年の姿が見当たらないことに気がついた。7人は少年のいるところを彼女達に尋ねると、彼女達はお互いの顔を見合わせてから、いたずらを思いついたような表情になった。一人の女性が小悪魔のような微笑みを浮かべて、左手人差し指を唇に当てながら言った。
「五宝貝の北斗七星と呼ばれるイケメン達に問題です!……さて、この短い時間に億万の富を得た小さな少年は今、どこにいるでしょう?」




