表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/108

33、水簾洞にて②

※このお話はフィクションです。本文中の孫悟空がしている行為は、あくまでも人助けですが実際の急性アルコール中毒の対処法ではありません。ご注意下さいますよう、よろしくお願いします。

 孫悟空は深く深呼吸を一つしてから、眠ったままの沙胡蝶の唇に自分の唇を押し当てた。あの瓢箪(ひょうたん)の中で、沙胡蝶が孫悟空に空気を分け与え助けようとしたように、今度は自分が沙胡蝶の体内から強い酒精を取り除いて助けようと自らの舌を使い唇を割り開けると、そのまま口吸(くちす)いを始める。


 ()く気持ちとは裏腹に口吸いは慎重に行わねばならない。何故なら孫悟空の肺活量なら、沙胡蝶の酒精どころか、唾液から胃液や腸液に(とど)まらず、全ての臓器や血液や髄液(ずいえき)等の諸々を全て吸い出せてしまうからだ。孫悟空は細心の注意を払いながら、ゆっくり少しづつ沙胡蝶の体内を巡る酒精を吸い出していく。


 孫悟空は口吸いで酒精を取り込みつつ、沙胡蝶の体の負担になっていないかを調べるために自分の片手を、沙胡蝶の左胸の膨らみのやや斜め上の(あた)りに乗せた。先ほど体を洗っているときに探して見つけた場所は沙胡蝶の膨らんだ胸でわかりにくかった、沙胡蝶の心音が唯一聞ける場所だった。心音が早くなるのは、体に負担をかけている兆候なので、それを確かめながら慎重に口吸いを続ける。


「……ん!」


 体内の中の酒精がほぼ取り除けた頃に意識のないままだった沙胡蝶が、くぐもった声をあげた。もうじき目覚めるだろう。その声は流砂河で会ったときの少年らしい美しいボーイソプラノではなかった。本来の沙胡蝶の声は、くぐもった声でさえ可愛らしい、少女のソプラノだった。


 孫悟空は酒精を吸い込む時に、沙胡蝶の唾液も多少吸い込んでいた。沙胡蝶の唾液も変身が解かれた沙胡蝶の体臭同様に爽やかな甘みがあった。口吸いをしつつ、孫悟空は内心、不思議に思った。それは沙胡蝶の唾液から蟠桃園(ばんとうえん)の不老の仙桃(せんとう)太上老君(たいじょうろうくん)金丹(きんたん)のような薬効を僅かに舌に感じたからだった。


 何故そんなものを感じるのだろうか?沙胡蝶の酒精を取るのに、孫悟空は薬などは用いていない。もしかしたら離れている間に沙胡蝶が病気か怪我を患って、薬を飲んだのだろうか?いや、そんなはずがない。先程体を洗ったときに外傷はなかったし、抱きしめた時の熱も心音も平常のものだったのだから。孫悟空は念のため、沙胡蝶の体内の気も探ってみたが、酒精以外の異常はどこにもなかった。


 暫くして孫悟空は、ああ、そうだったな!とその理由に思い当たった。沙胡蝶は半分とはいえ、竜王の血を引く者である。古来より()()()()()()()()()()()()()()()()になると言い伝えられている。半分は人である沙胡蝶の血液ならば不老不死にはなれないだろうが、それでも数年くらいならば無病でいられるだろう。


 ……でも、それだって、健康を望む者なら喉から手が出るほどに欲しいものに違いない。このことが露見すれば、沙胡蝶は大勢の者に狙われるだろう。丸ごと食べなくとも、その体液を数滴ずつ口にすれば、効果は得られるのだから攫って囲おうとする者が沢山現れるはずだ。


「……ん。……ん?悟空……さん?」


 酒精が取り除かれたことで、沙胡蝶の体内が正常に戻ったのだろう。ゆっくりと目を開かせた沙胡蝶は、目の前の孫悟空の名前を呼んだ。沙胡蝶の大きくて丸い目のエメラルドグリーンの色を見た孫悟空は息を呑んだ。孫悟空は大げさなほどの海の魔女の過保護の象徴として見ていた真珠への認識を改める。


 瞳を閉じている顔でさえ、とんでもなく美しいのに、その瞳の威力と来たら!それに……それに、この瞳の色は!?たった4本の足で、よくもここまで隠せたものだ……と海の魔女の底知れぬ魔力に、孫悟空は背筋が凍りそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ