第三十八話 ひまわり
みーんみんみんみん。
セミが鳴いていた。
夏のおひさまは、今日も元気いっぱいだ。
空は青いく雲は白くてもくもくしてる。
ユウトは、縁側へぺたんと寝そべった。
「あついぃ」
言いながらも、ごろーん。
ごろーん。
なぜか転がる。
でも暑い。
◇
ひゅるる。
風が吹いた。
お庭の隅っこの方でゆらり。
ひまわりが揺れていた。
「おぉ」
ユウトは、顔を上げる。
今年咲いた三本のひまわり。
とても大きかった。
「おっきいねぇ」
ひまわりは、おひさまの方を向いている。
まるで空を眺めているみたいだった。
◇
みーんみんみん。みんみんみん。
セミが鳴く。
風が吹く。
ひまわりが揺れる。
なんだか、それだけだった。
でも。
ユウトはそれをぼーっと見ていた。
「ひまわりさん、あつくないのかなぁ」
お水も飲まない。
日陰にも行かない。
ずっとおひさまの下だ。
「すごいねぇ」
ユウトは、少し感心した。
◇
その時。
ぶぅぅぅん。
「ん?」
何か飛んできた。
大きなハチだった。
「わっ」
ユウトは、ちょっとだけ身構える。
でも。
ハチはユウトのところには来なかった。
まっすぐ、ひまわりへ向かう。
ぶぅぅん。
ぶぅぅぅん。
花の周りを飛び回る。
「なにしてるの?」
もちろん返事はない。
でも。
忙しそうだった。
あっちへ行って。
こっちへ行って。
また戻って。
「おしごとかなぁ」
なんとなく、そう思った。
◇
しばらくすると。
今度は、ちょうちょが来た。
ひらひら。
ひらひら。
白い羽が、風に揺れる。
「おぉー」
ちょうちょは、ひまわりの周りをぐるりと回った。
それから。
ふわり。
花びらへ止まる。
「こんにちはー」
ユウトが言う。
もちろん返事はない。
でも。
ちょうちょは少しだけ羽を開いた。
なんだか挨拶してくれたみたいだった。
◇
みーんみんみん。
夏の音。
ぶぅぅん。
ハチの音。
さらさら。
葉っぱの音。
ユウトはまた縁側でごろんと転がった。
すると。
ひまわりの影が見えた。
長い。
大きい。
地面へ伸びている。
「かげもおっきい」
ひまわり本体も大きいけれど。
影まで大きかった。
◇
ひゅう。
また風が吹く。
すると。
影が揺れた。
ゆらり。
ゆらゆら。
ゆらり。
まるで黒い水みたいだった。
「おもしろーい」
ユウトは、その影へ手を伸ばした。
ひまわりの葉っぱの形。
茎の形。
花の形。
全部、地面へ映っている。
風が吹くたび。
ゆらゆら揺れる。
なんだか不思議だった。
◇
だんだん。
まぶたが重くなる。
暑いけど。
風は気持ちいい。
セミの声も遠くなっていく。
みーん。
みんみん。
みーん。
「……ねむい」
ごろん。
タオルケットを抱きしめる。
ふかふかだった。
◇
最後に見えたのは。
ゆらゆら揺れる、ひまわりだった。
青い空。
白い雲。
黄色い花。
夏の色が、そこにあった。
「ちょっとだけ……」
ぽそりと呟いて。
ユウトは、すぅっと目を閉じた。
◇
みーんみんみんみん……。
セミは、まだ鳴いている。
ひまわりは、おひさまを見上げている。
風が吹く。
葉っぱが揺れる。
そして。
縁側では。
ユウトが、気持ちよさそうに眠っていた。
夏は、ゆっくり流れていた。




