最終話
完結できていなかったので、再投稿します
「これは一体何なのでしょう?」
エリシアは内務卿に代わり教育担当となったメイド長から提示されたスケジュールを見て、呆然と呟いた。勉学、ピアノや乗馬等の稽古、礼儀・作法の講座、それらの予定がぎっしりと詰まり、代わりに睡眠時間は限りなく減らされていた。
老齢のメイド長は眼鏡を光らせ、有無を言わせぬような早口で捲し立てる。
「殿下、お心が乱れているようですね。お辛い時こそ、自らを厳しく律する時です」
「心身共にまだ万全ではないのです。せめてこの数日だけでも」
「甘えです。第1王子からの御命令なのです、このメイド長、心を鬼にして教育致します」
メイド長は彼女の前に分厚い課題集を叩きつけ、後ろの席に座った。どうやら、終わるまでは席を立たせる気すらないようだ。エリシアは歯を食いしばった。明らかに自分の学力からかけ離れた大学院レベルの課題だったが、どうにか終わらして、堂々と
自分の時間を確保しなければならない。
彼女の胸中にはどうしてもやらねばならないことがあった。
「ちょ、困ります!」
「退いてくれ」
その時、廊下の方がにわかに騒がしくなり、メイド長が怪訝な顔で立ち上がる。彼女が扉の覗き穴から外を伺おうとした瞬間、ドアが開け放たれた。
「ぐぁ!」
「おっと。これは失礼、何分急いでいたもので」
扉から現れたのは、ジョーとミリアだった。二人の顔を見て、エリシアの表情がぱっと明るくなる。一方、メイド長は悪魔を見た様な引きつった顔つきになる。
「お二人方!」
「そうですか!貴方たちが殿下を変えてしまった元凶……!」
「なんのことでしょう。ミリア、お連れしろ」
ミリアはエリシアの元に赴くと、小さく微笑み、手を引いた。
「何処へお連れする気です! 王室内務局として正式に抗議します! 私どもは第1王子殿下からの御命令を受けているのです」
「これは失礼した。これをご覧いただきたい」
メイド長の金切り声を完全に無視し、ジョーは彼女の前に一枚の書面を突き付けた。それを見たメイド長は眼鏡をずり落とし、掠れ声で呟いた。
「こ、これは……」
「先般の襲撃事件を鑑み、王室内務局を第2皇女の身辺に関わる一切の任務より解任する。以後、同任務は第一地上軍付属強襲大隊Cがこれを担う。本件は皇帝陛下の勅命によるものである」
陛下の勅命はこの帝国において最上位命令であり、何人たりとも逆らうことができないのだ。屈辱でへたりこむメイドに、一礼すると、ジョーは二人を連れて部屋から抜け出した。
「先日に続いて、何度もこの身を助けて頂いて、感謝の言葉もありません」
「いえ」
「エリシア様。私たちは今誇りを持って行動しています」
ジョーは一言だけ謙遜の言葉を告げ、ミリアは優しい笑みを浮かべた。それを見て、エリシアは意を決した様に足を止め、顔を上げた。
「殿下?」
「もう一度、私にお力を貸していただけないでしょうか?」
「何をするおつもりですか?」
◇
その頃、エキスパ国内は混乱に満ちていた。
国内の過激派により、帝国の王族である内務卿は殺害され、王女は連れ去られ、監禁された。王女は救助されたとはいえ、その救出作戦の大胆さと素早さは圧倒的というしかなく、帝国軍には逆立ちしても敵わないという戦慄を植え付けられた。
報復で帝国軍が攻めてくるのではないかと、人々は恐怖した。
一部の過激派がやったこととはいえ、エキスパが先に手を出してしまったのだ。
政府の説明は二転三転し、頼りの欧州連合もこれでは動くことが出来ない。帝国の女帝も押し黙り、融和派の第1王子も声明を発表しない。強硬派の第2王子はエキスパ侵攻計画を練り始めたという情報も入って来た。
誰も助けてくれない。大勢の国民が国から脱出しようと、国内は大混乱に陥った。
――誰もが最悪の結末を覚悟した。
だが、助けの手を差し伸べたのは、意外な人物だった。
事件発生から一週間後、エリシア当人がエキスパに電撃訪問した。
エキスパのみならず、帝国や世界の人々が驚きを隠せない中、エリシアはエキスパ議会にて、堂々とした演説を行った。
これは偏にこの国と帝国の長らく続いた友情を引き裂こうとする悪意のある者たちの仕業であり、エキスパの民には何の責任はない。長らく続く友情はこれからも永遠に続くと宣言した。
それを聞いたエキスパの人々は胸を撫で下ろし、拍手は鳴りやまなかった。また、被害者でありながら、民を庇ったエリシアに感激し、悪化していた対帝国感情は一気に回復した。
この訪問計画は第1王子や議会に事前通告されたが、エキスパとの緊張を和らげるためとの大義を掲げられては誰も邪魔できなかった。
◇
演説を終えたエリシアはエキスパに用意されたホテルのベランダで、護衛としてついてきたジョーとミリアと共に夕日を眺めていた。
「エリシア様、演説感激致しました! 偽善ではなく、責任を持った発言で世界と帝国に平穏を取り戻したのです。私は殿下に一生着いていきます」
「ありがとう、ミリア」
ミリアはエリシアに手を握られ、感動のあまり、涙が溢れ出した。彼女は顔を洗ってくると告げ、ベランダに残されたのはジョーとエリシアだけになった。
「殿下。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「はい?」
「見事な演説でした。両国に平和が戻った……しかし、貴女のお望みはそれだけだったのですか?」
「どういう、ことでしょう」
エリシアは分からないという風に小首を傾げ、上目遣いでジョーを見上げる。しかし、彼はいつものように無表情でその大きな瞳を見つめ返す。
やがて、彼女は溜息をつき、目を伏せた。
「やはり、私ではあなた様には敵いません。ですが、言いたくないのです。私は演じたほど良い子ではないのです」
「殿下。お言葉ですが、彼女ミリアと違い、自分はあなたを遥かに凌駕する程悪い男です」
エリシアはその言葉に目を丸めた後、くすくすと微笑みを見せた。
「では、お話致します。――私はこの国エキスパを私の王国にするつもりです」
彼女は訪問と演説の真意を語った。
エキスパは彼女に対し、大きな罪を背負った。だが、その大罪を彼女は赦した。それはエキスパにとって一生ものの恩だった。
そう、『長らく続く友情はこれからも永遠に続く』その言葉はすなわち、帝国が得た領土は今後も変わらず、永遠に維持されるという宣言だった。
あるいは、その真意に気づいた者もいたかもしれない。だが――今この状況で、領土返還を口にできる者など存在しなかった。それでいて、事態を防げなかった政府の代わりに国を庇ったエリシアはこの国の国民の中でもヒロインである。世論として、帝国に歯向かおうという機運が高まることはまずなくなった。
これから、帝国の姫でありながら、エリシアはエキスパに絶大的な影響力をもつことになる。
内務卿が失敗したその地をエリシアは完全に掌握した。王家だれもが、手を出せない彼女の聖域になるのだ。
「これが私の計画です」
「素晴らしい」
ジョーの賞賛を受け、エリシアは夕日をバックに微笑んだ。
「……秘密にしていただけますか?」
「ええ」
彼女は身をかがめると、手を差し出し、小指をジョーに向けた。
「殿下、これは?」
「二人だけの秘密を守るための指切りげんまんという東洋のおまじないです。嘘をついたら、針を千本呑ませますのよ?」
「お戯れを」
彼は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべながら、小指を差し出した。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます、指切った!」
彼女の小さな指が絡んで、離れた。
丁度、その時、背後で足音が聞こえた。ミリアが戻ってきたようだ。
エリシアは年相応の少女らしい無邪気な顔を浮かべた。
「私達、悪友仲間ですわね。ジョー!」
ここまで読んでくださった皆様、本当に申し訳ありませんでした。
本作はここで完結とさせていただきます。
2022年以降目立った作品を出すことが出来ず、出す度に反応がなくなり、ついにはここまで来てしまいました。
このような作品も結果も、作者、読者様にとって誰が望んだものでもありません。
この作品こそが活動を終了すべき理由に他なりませんを
活動についても終了とし、来月初旬に小説家になろうを含めたアカウントは完全に削除いたします。
途中での改稿・削除などで混乱を招いた点、申し訳ありませんでした。




