ERROR 05 名前のないドラゴン
「……で、お前ほんとについてくるのか」
ダンジョンの出口へ向かいながら、ルクスは後ろを振り返った。
黒髪の少女――ドラゴンは、当たり前のように後ろを歩いている。
「ついていくと言った」
「いや言ったけどさ」
即答。
迷いゼロ。
「俺、街戻るんだけど」
「問題ない」
「問題しかない気がするんだが」
ルクスはため息をついた。
だが追い返せる気もしない。
(……まあ、戦力としては破格だしな)
そう割り切るしかない。
しばらく無言で歩く。
その途中、少女がふと口を開いた。
「名前は」
「俺のか?」
「違う。我の」
「……ないのか」
頷く。
「必要なかった」
「まあドラゴンだしな」
ルクスは少し考える。
黒い雰囲気。
金の瞳。
どこか冷たい空気。
「……ヴェルカ」
「?」
「お前の名前。ヴェルカでいいか?」
少女は少しだけ考える素振りを見せたあと、
「……それでいい」
あっさり頷いた。
「気に入ったのか?」
「呼びやすい」
「基準そこかよ」
だが、どこか悪くない。
「じゃあこれからはヴェルカな」
「了解した」
⸻
ダンジョンを出る。
外の光が差し込む。
その瞬間。
「……」
ヴェルカが足を止めた。
「どうした?」
「……多い」
視線の先。
街の入口には、人が行き交っている。
商人、冒険者、子ども。
当たり前の光景。
だがヴェルカは、じっとそれを見ていた。
「人間、こんなにいるの初めてか?」
「……群れている」
「まあそうだな」
数秒の沈黙。
そして。
「……喰っていいか」
「ダメに決まってんだろ」
即答。
「なぜ」
「街壊れるわ」
「……なるほど」
納得したのかしてないのか分からない顔で頷く。
⸻
街の中。
ヴェルカは周囲を見渡している。
露店。食べ物。武器。人。
すべてが珍しいらしい。
「……あれは」
指さす先には、串焼きの屋台。
「食べ物だな」
「……魔物か?」
「違う」
「じゃあ何の肉だ」
「普通の家畜だよ」
ヴェルカはしばらく見つめていたが、
「……弱そう」
「まあな」
「なら興味ない」
「基準それかよ」
⸻
そのとき。
ルクスの視界に、違和感が走った。
屋台の肉。
ほんの一瞬、“ヒビ”が見えた気がした。
「……?」
思わず足を止める。
「どうした?」
「いや……今の」
ルクスは屋台に近づき、肉を鑑定する。
⸻
〈焼き肉串〉
効果:微回復
⸻
そして。
⸻
〈ERROR〉
状態:劣化
本来効果:中回復
⸻
「……やっぱりか」
小さく呟く。
ヴェルカが覗き込む。
「何を見ている」
「この肉、本来より性能落ちてる」
「……壊れている?」
「まあそんな感じだ」
ヴェルカはしばらく肉を見てから、
「直せるのか」
「たぶんな」
ルクスは“ヒビ”に意識を向ける。
軽く触れる。
⸻
〈ERROR 修正〉
⸻
再度鑑定。
⸻
〈焼き肉串〉
効果:中回復
⸻
「……変わった」
「だろ?」
ヴェルカは興味深そうにルクスを見る。
「お前、本当におかしいな」
「褒めてる?」
「観察対象として価値が高い」
「微妙だなそれ」
だがそのとき。
ヴェルカは肉を一口食べた。
「……」
無表情。
そして。
「……悪くない」
「そうかよ」
「でも」
ルクスを見る。
「お前の方が気になる」
「だから食おうとすんなって」
⸻
街の喧騒の中。
ヴェルカは静かにルクスの隣を歩く。
その瞳は、獲物を見るものではなく。
まだ名前のつかない“何か”を見るようだった。




