15話 あの、怒ってます?
MaiMai ≪ねぇAlice≫
Alice ≪なんだよ≫
MaiMai ≪ぶひゃっひゃっひゃ・・・≫
このMaiMaiが、僕のクラスメートの四乃森麻美だ。早速DEWを一緒にプレイしたんだが、予想の通り大爆笑だ。まったく酷いったらないや。
しかも予想を超えたのは、最初だけかと思いきやずっとこの調子だ。
Alice ≪MaiMaiだってどうせ、麻美⇒Mami⇒≫
Alice ≪mを取ってMai⇒MaiMaiとか、安易な考えだろ≫
MaiMai ≪うっさい。Aliceには言われたくねー≫
Alice ≪もういい加減にしろよなぁ・・・≫
ゼット ≪そうだ、狩りに集中しろよお前ら≫
よし祐二、もっと言ってやれ。いい加減名前の話しからは解放されたい。って僕も混ぜるなよ、被害者なのに・・・
ゼット ≪狩りは今しか出来ねーんだぞ≫
MaiMai ≪そうだな、ゼットの言う通りだった≫
嫌な予感・・・
ゼット ≪名前の話しは学校でも出来る≫
MaiMai ≪うむ≫
うむじゃねぇぇぇぇぇっ!やっぱりそう来たか・・・こいつら意気投合しやがって。
Alice ≪もう、勘弁して・・・≫
酷く疲れた。
ゲームでこんな疲労感は滅多にない。しかも今日は平日だよ?
日曜日ぶっ通しでゲームやってもこんなには疲れない。
これ、明日学校に行くのが嫌になるパターンだ。
だって絶対言われるだろ・・・
『あいつ、悪いやつじゃないな』
水奈月莉菜は、一行だけ書かれた文を見て嬉しくなっていた。
水奈月莉菜の文章に、なんとなく柔らかさを感じて。
「ありがと、莉菜・・・」
胸にノートを抱きしめるように持つと、そう呟いてノートを机の引き出しに仕舞った。
「やっぱ人数多いと面白いよな。」
「そうだね。」
名前の話しが無ければな・・・。
朝、教室で祐二が話しかけてきた事に対して、そう思った。口にするとまた始まりそうなので言わないでおく。
「水奈月も入ったら四人になるから、狩りも楽になんじゃね?」
「そうだねー。四乃森さんは慣れてるだけあって、昨日は楽だったね。」
「確かにな。」
水奈月さんはゲーム慣れしていないので、死ぬことも多いが、四乃森さんはやっているだけあって楽だった。
僕としてはやっぱり、水奈月さんと一緒にやるのが楽しくて好きだ。普段、ろくに話せもしないくせに、我が儘だと思うけど。これで水奈月さんが慣れたら、もっと楽しいだろうな。
祐二は放っておいて、二人で遊べたりするかも。
「今度やってみるか。」
うん、とは素直に言えない。僕の敵が三人になるじゃないか。
そこで水奈月さんが入って来るのが見え、笑顔を向けて来たので、今日はちゅ・・・
いや、ここで思い出すな。
祐二に悟られたら死ぬ。
まぁ、日曜日にデートをした方の水奈月さんだな。
その後に、四乃森さんと空井くんが話しながら入って来る。その四乃森さんが僕と祐二に気付くと、こちらに近づいて来た。
「おはよ。いやぁ、昨日は面白かったね。やっぱ知ってる奴とだと、楽でいいわ。」
そりゃ楽だったけどさ、僕は酷く疲れたんですが。
主に精神が。
と思っていたら、四乃森さんが顔を近づけてくる。
「またやろうな、アリス。」
んなっ!
「あっはっはっはっ。」
小声でそう言ったあと、四乃森さんは笑いながら自分の席に移動していった。
くっそー。絶対どっかで言ってくるだろうなと思ってたけどさ。
自分はカタツムリのくせに。
>次からカタツムリって呼んでやる。
何マイマイ?って聞いてやる。
マイマイの画像を用意して、MaiMaiと書く。
PKする。
いや、そんな嫌がらせしたいのか僕は?それだけストレスになっているのか?毎回、何の根拠で出て来るんだこの選択肢。
しかもDEWにPKは無いっての。
>マイマイ属クロイワマイマイ種群イブキクロイワマイマイですか?
・・・
いや知らないって。言ったら二乗返しで仕返しされそうだ。
「まあ気にするなよ、アリス。」
「煽ってんのは主にお前だよ祐二。」
そうだ、こいつが諸悪の根源だ。こいつが煽らなければここまで、名前如きで盛り上がるわけがない。
現に二人でプレイしている時は、名前の話しにはならないんだから。始めた時も特に言及は無かったし。
まあいい、水奈月さんの笑顔で癒されよう。
と思って、見たけど、水奈月さんはこっちに顔を向けようとはしなかった。
放課後、帰ろうとしていた水奈月さんを、勇気を振り絞ってファミレスに誘った。
「何か話しがあったんじゃないの?」
誘って来たはいいけど、何を話していいか分からなくて黙っている僕に、水奈月さんが呆れたように言ってくる。
「あの、もしかして怒ってたりします?」
「別に怒ってないわよ。」
恐る恐る聞いてみるが、反応が冷たい。絶対怒ってますよね?僕何かしたんだろうか・・・
「僕、何か、しました?」
「何も。」
うー・・・どうしたらいいんだ。
「話しは変わるけれど、何時から四乃森さんと仲良くなったのかしら?」
乾いた笑顔で聞いてくる水奈月さんは怖かった。あっちの水奈月さんより。
「あ、昨日学校で祐二と、DEWの話しをしていたら、話しかけてきて混ぜて欲しいと。」
「それで。」
「祐二がOKしたので、僕もOKして、昨日一緒に狩りをしました。」
何これ、尋問?なんか僕、容疑者みたいな気分になってきた。よくドラマで見る警察が尋問しているシーン、あれに似ている。そうすると、容疑者ってこんな気分なんだろうか。
「それだけ?」
「はい。他になにもありません。」
「今朝、小声で何を言われたの?四乃森さん、随分と楽しそうだったじゃない。」
まだ続くんですか・・・。
それに四乃森さんが楽しいんであって、僕はまったく楽しくない話しだ。
「またやろうな、アリス。です。」
「ぷっ・・・」
羞恥に耐えて言ったのに、水奈月さんが軽く噴き出した。
どうせ・・・
あ、水奈月さんの笑顔。
今日、やっと見れた。
それに気付いた僕は嬉しさと安堵が一緒に込み上げてくる。もう、嫌われたのかと思い始めていたから、その笑顔を見れた事で、目が少し潤んでしまった。
「ごめんなさい。いじわるするつもりじゃなかったの。」
僕を見た水奈月さんが、慌てて言った。
「その、他の女の子と話しているのが・・・」
えーと、ヤキモチって事なのかな?僕みたいな奴でも、そう思われるの?
「私の我が儘ね、ごめん。」
「いえ、全然、僕は・・・嫌われたのかと、思っただけなので。」
僕に彼女なんて、次は無いだろう。その思いとは関係なく、水奈月さんの笑顔を、失くしたくないと思った。
「ねぇ、雪待くん。」
「なんですか?」
「私のこと、莉菜って呼んで。」
ええぇぇぇぇぇっ!?
突然何を言い出すんだ。女の子を下の名前で呼んだ事なんて。
ゲームならある・・・
「な、名前ですか・・・。」
「私も、数音って呼びたいの。だめ?」
いや、それは好きにしてくれていい。男友達は大体、雪待か数音の二択だし、祐二はいつも呼んでるから。
「あの、僕を名前で呼ぶのは、ぜんぜん構いません。」
「じゃぁ数音、私の名前も呼んで?」
・・・
何故だろう。呼ばれ慣れているつもりだった自分の名前。水奈月さんに呼ばれると、ドキドキした。
「莉菜・・・さん。」
うわぁっ!なんて恥ずかしいんだ!目の前の女の子の名前を呼ぶのがこんなに恥ずかしいと思わなかった!
「もう、さんは要らないってば。」
恥ずかしいけど、そう言った水奈月さんの顔を見ると、凄く嬉しそうだった。
「今はいいの。でも、何時かはちゃんと呼んでね。」
まさか名前だけで、自分の頭の中がこんなお祭り状態になるとは思わなかった。




