come across Schwarz Ⅱーほんの少しの前進
「それで、要件は?」
食後、一旦ロゼリエと別れ、二人は支部の近くを散策していた。
「要件は?って、五年も連絡放置してそっちこそ言うことないん?………まぁ、気持ちは分からなくもないけどね」
毎年連絡らしい連絡は無かったが、10月になればいつも喪中はがきだけは同じデザインではあるが紫苑の方から送られてきた。
きっとこいつはまだ縛られ続けているのだろう。否、縛り付けていたいんだろうなと紅音は隣の幼馴染を伺った。
そうじゃ無ければ、生きていけないから。
こいつも紫暮も相手を自分のように思っていた。
だから半身の欠けたこいつにとって生きるのは楽しい事でも何でもなくて、ただ自分を罰する為に、相方を守れなかった自分を許せないから生きている訳で。自分を許してしまえたら、縛りを解いてしまったら生きる理由《意味》なんて彼にはきっと存在しなくなるだろう。
話を振った先、彼は紅音の方を振り向いてバツが悪そうな顔で口を開いた。
「悪かった、やり取りする気力も無かったけど、今年からはちゃんとするから、まさかお前がこんなとこくんだりまでわざわざ来る程、気にしてるなんて思ってなかったし」
心配してたのなら悪かった、と紫苑は彼女の方を見て謝る。
それに今はもう少し前を向けるようになったから。
いまの相方でもある狙撃手の為に前に立つと約束したから、死ぬ訳にはいかないとそう思えるようになったから。
「もう………まだほんの少しかもしれないけどさ、後ろばっか見てちゃいけないって、思えるようになったんだ、だから今年からはちゃんと連絡寄越すよ」
まだ自分のことを認める気にはなれないけど、紫暮の事を忘れる事は出来ないけれど、それでも紫暮が生きていたとして、あんな自分は見せられないから。
だから。
「そっか、ならまあ良かった」
見つめ返した深蒼の瞳は前に見た時より明るく澄んでいてだから紅音はそっと微笑んだ。
「なら、今度蒼馬ちゃんにも言っとくよ」
「あ───それは勘弁、あの人に合わせる顔は俺持ってないって」
「このへたれが、大丈夫よ、あの人別にアンタのこと恨んでもなんともないから、あの人うちが悪戯しても何も言わないし」
「お前一体何やらかしたんだよ?」
「お昼に蒼馬ちゃんがデパ地下で買ってきた鰻重全部食べてかわりにコンビニ弁当詰めといたわぁ、もちろん食べ終わってから一回容器洗ってから詰めたけど」
「ひでぇ」
にしても無駄に手が込んでいる。
閉口するも何も言えない好青年の姿が脳裏に浮かび思わず紫苑は吹き出した。
それから少し心配気な顔をして訊く。
大侵攻《あの時》、自分が倒れた後自分の代わりに戦って片手と片足を一遍に失ったと聞いていたから。
「あの人、元気にしてるか?」
「アンタが直接聞いたらええやない、もう戦うのは出来そうにないってゆうて今はレストランで働いてるよ、一度自分の店持ってみたかったって、アンタも今度行ってみぃや」
「あぁ。因みにそこ外周地?」
「あっ、ごめん………内地。だからアンタは連れて行かないか、だけど宅配はしてるから、今度たのんでみな、すんっごく美味しかったから」
道の端にある寂れたバス停のベンチに座って少女は隣を見遣る。
傍に腰掛けた少年の体は、大侵攻の時の怪我でいくつか内臓を失い、それを、異能で制御する型の人工臓器で補っているから、もう彼は異能無しに生きていけない。だから一般人の居住地であり、防犯と安全のため異能の行使ができないようにされている内地には彼を連れて行く事は出来ない。
昔見舞いに行った時に内地の桜が綺麗に咲いてるからと、何も知らずに車椅子に紫苑を乗せてこっそり連れて行って、彼を危篤状態に陥らせたから、あんな事はもうしないけど、それでも少し知って欲しくて紅音はシェアサイトに保存してある写真をいくつか送る。
「あ、すごい、懐かしい。日本料理屋なんだな」
「そそ、内装綺麗でしょ、蒼依さんの家思い出しながら作ったってゆうてて、だからアンタには一度見てもらいたかったってゆうてた」
「昔を思い出すほどだってゆっとかなきゃな、まぁ今度の休暇にでも話すよ、連絡先ありがとう」
貰った写真を大事にフォルダーにしまい紫苑は帰ろうかと紅音を促した。