Prologue
毎日20:00に投稿していきます!
なお、カクヨムの方では二章が全て投稿されておりますので気になる方はそちらをどうぞ!
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「もうそろそろ着くわね」
輸送ヘリの中でバタバタうるさいロータの音に潜むように彼女は呟いた。
窓からその深紅の双眸が見遣るのは、抜けるような冬の蒼穹と常緑樹の緑と落葉樹の枯茶。
そしてその中に隠れるように建てられている建物の白亜。
片目に入れたコンタクトの拡張現実が建物の上に矢印とその上でくるくる回る北斗七星の徽章を映し出す。
それを見て少女はそっと口角を持ち上げた。
「さ、て可愛いかわいいうちの従弟はんに会いに行きますかっと」
高度を下げたヘリはその建物の屋上へと着地する、彼女は自分の《《黒檀色》》の髪をふわりと翻してそっと輸送ヘリから優雅な挙措で降りた。
§
上を見上げれば抜けるような蒼穹、一面に続く青の中に雲の姿は一欠片として無く、今日の天気は完全なる快晴だ。
そして足元にはブーツに踏みしだかれた霜柱の欠片がそこかしこに転がっている。
「にしても、非番だから今日はゆっくり休めると思ったのに、なんで俺たちこんなことしてんだろ」
消炭色の髪に、空より蒼い蒼金石の瞳が印象的な東洋人の少年が上を見たまま疲れたような溜息を吐く。彼がもたれかかるのは軽トラの荷台の縁、そこには鹿やら熊やらがたくさん積まれていた。
狩猟場に仕掛けている罠にかかった今日の食料達である。
「今日が交換派遣の日だからだろ、紫苑。聖誕祭も近いし、九官鳥はこの辺りじゃ狩れないから諦める他無いけどさ」
「レイ、九官鳥は文鳥みたいなちっこい奴だよ、食べんのは七面鳥だ、ペットショップの店員さんに怒られんぞ。こいつは食用じゃありませんって」
大体数字が付くとこしかあっていない。
それにしても交換派遣か、と紫苑は再び嘆息した。同室の相方は割と楽しみなようで足取り軽く作業しているが、自分からすれば気が重い。
その様に気付いたのか、レイは運転席の窓からこっちを見遣って聞いてくる。冬だっつーのに白児だからと掛けているグラサンの奥、こちらを伺ってくる深紅の瞳、少し長めの初金色の髪が小首を傾げる動きにしたがってふさりと揺れた。
「どうしたの?人見知りって柄じゃなさそうだけど、お前」
「知り合いが来るらしいから嫌なんだよ」
「黒髪さん?」
「ああ、俺の従姉。5年間、没交渉だから気不味いのなんの」
積荷を固定し、紫苑はバタンと軽トラの扉を勢いよく閉める。
不機嫌さを反映して割と大きな音がした。
「へぇ、じゃあその人五年前のお前のことを知ってるってわけだ」
「そんなの聞こうものなら、お前を氷漬けにした上で氷柱製のアイスピックで串刺しにしてるよ」
嫌そうにそういう紫苑の手の上では威嚇か感情的な物なのか、局地的に冷やされた空気中の水分がダイヤモンドダストの如くチラチラ舞っていた。異能と呼ばれる力である。
他愛もなく馬鹿げたことを話しているそのうちに、軽トラックの正面に白い建物が現れた。彼らの居城である。
「決めた、俺今日は、部屋に籠るから、お前間違っても、俺の従姉に俺お部屋教えるなよ?」
「えーと、それってGo⚫︎gle先生に、押すなよ絶対に押すなよって日本語を英訳させるとPush meって出て来るやつ?」
「違 う か ら !」
積んできた哀れな食材達を厨房に運び入れつつ言い合う二人の声、それを聞いていた黒檀色の髪の少女はそっと口角をきり、と持ち上げた。