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エルフの山田さん(自称)~貰った盆栽を育ててたら、いつの間にやら世界を救っていたようだ~  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
第七章 転移者達の里へ行こう!

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これが新しい力です。

前回書き忘れていましたが、あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


 こういうとき、先に支払いまで済んでいるお店は便利だ。


 俺達は周りの奇異な目を避けるように大慌てでミユをリュックに詰め込み店を飛び出した。


 そのまま店の裏側にまで少し走り、今時珍しい井戸がある所まできて一息つく。



「はぁはぁ、こんなことなら外の席にしておけばよかったですかね」



 山田さんが珍しく息を切らしてそんなことを言っているが、この寒空の下でわざわざ外の席に座るとか別の意味で注目されただけだろう。


 とりあえず俺は蓋をされた井戸の上に一旦ミユの本体をリュックから取り出して置く。


 次にリュックの後ろのチャックを開け、そこに入れておいたいつものミニ世界樹取扱説明書を取り出すとページをめくる。



「あった、ここだ。呪文一覧」



 俺は目的のページを見つけ声を上げると山田さんたちがその手元を覗き込んでくる。



「あっ、そうだ田中さん」



 山田さんが謎の四次元胸ポケット(田中命名)から何やら緑色の四角い小さな紙束を取り出して、一番上の一枚をペロッと剥がした。



「いちいち毎回ページめくって探すのも手間でしょうから付箋でも貼っておきましょう」



 たしかに毎回毎回このページを探すのは効率が悪い。


 今までそんなことにも頭が回ってなかったのかと我ながら少し恥ずかしくなった。


 といってもこの説明書、このページ以外ほとんど見ることもないし、よく使う『空気清浄魔法』は既に本を見なくても覚えてしまっている。


 疲れ切ってる時に使う『世界樹の雫』も、副作用として眠れなくなるので余程のことでもないと使わないし、そんな余程のことなんて日常生活では起こらない。


 クーラーの魔法も秋以降使い道はない。


 いっその事暖房魔法でも使えるようになってないものかと俺は魔法一覧ページに改めて目をやる。



「これが新しい魔法?」


「魔法……なんでしょうかね」


「魔法と言って良いかどうか微妙ですです」



 そこに新たに浮かび上がった魔法の名は『繋がれし絆』。


 説明文を要約すれば、世界樹の五感で得た情報を他者と共有することが出来る能力なのだそうな。


 他者がどこまでの範囲かわからないけれど、その相性は契約者、つまり俺か世界樹『ミユ』が指定できるらしい。


 共有する五感も選べるらしいので、これで『味覚』だけを共有すればコノハの願いがほぼ叶うのではなかろうか。


 しかし広範囲、複数に同時発動出来るなら色々使えそうな能力ではあるが実際使ってみないことにはまだまだその力は未知数だ。



「絆……ネクサ……」



 山田さんが何かを言いかけたが、それに被せるように高橋さんが声を上げる。



「ああっ! 凄い! この魔法を使えばさっきコノハちゃんが言ってたことが実現出来るですです!?」



 彼女は目をきらめかせ出した。


 やばい。研究者のスイッチが入ってしまった。



「それはまことか!?」


「そうなの?」



 高橋さんの言葉にコノハとミユが反応する。



「所でさっきワシが言ったこととはなんなのじゃー?」



 コノハが頭の上にはてなマークを浮かべて高橋さんに尋ねる。



「食べ物の事ですよね?」



 山田さんが助け舟を出す。


 食べ物というと、さっき参道テラスでマカロンを食べた時にコノハが自分は食べられないと言っていた、あの話だろうか。



「ですです! 実際まだ物が食べられる素体を作ることは出来ないですですが、味だけならミユちゃんのこの新しい力を使えば伝えることが出来るかもですです」


「なるほど、ミユちゃんがコノハさんの代わりに『食べ』て、その味を新しい力でコノハさんにフィードバックすれば……」


「たしかに、そうすれば『食べた』のと同じような体験をコノハも出来るというわけか」



 実際に物を食べる訳ではないから満腹感等はないかもしれないが、そもそもコノハは『世界樹』だ。


 人とは食物摂取に関しては全く別物の生物なのだから味さえわかるならなんの問題もないと思う。


 そもそもミユ自身もケースの上に置かれた食物をそのまま摂取しているわけじゃなく、ケースによって変換されたエネルギーを摂取しているだけにすぎない。


 ミユの反応からするに、きちんと味なども解かっているようだが、逆に言えば味だけなのだ。


 別に歯で噛んだりするわけでもないので味以外の食感等は世界樹たちにとっては必要なものではないのだろう。



「ワシにもマカロンが味わえるのじゃな!」



 俺達の話を聞いたコノハは大はしゃぎで井戸の蓋の上を飛び回っている。



「良かったねコノハちゃん」


「嬉しいのじゃー」



 ちっちゃな世界樹二人が手を取り合いながら喜んでいる横で俺は高橋さんに「早く呪文を唱えるですです」と詰め寄られていた。



「高橋さん、少し落ち着いて。ここじゃ人目がありすぎるからっ」



 道から少し入った場所とは言っても少し先には沢山の人達が歩いているのだ。


 そんな所で中二病全開な呪文なんて唱えられるわけがない。


 それが許されるのは小学生までだ。しかも低学年ならまだ問題はないだろうけど。


 流石に高校生は色んな意味でやばい。


 最悪通報対象じゃなかろうか?



 きらきら目のまま俺に迫ってくる高橋さんをいなしながら俺は必死に周りを見渡す。



「あっ、あそこなら」



 今いる場所から少し離れた建物の陰にひっそりと人の流れから取り残された公衆トイレを見つけてしまった。


 迫ってくる高橋さんを手で押しのけながらもう一方の開いた手でトイレを指差す。



「あそこのトイレの所なら誰も居なさそうだし、あそこで呪文を唱えてくるよ」



 俺はそれだけ言うと急いでリュックにも入れずに盆栽状態のままのミユを手に持ってトイレに向かった。


 本来ならトイレの個室まで行きたいところだが、一応ミユは女の子(?)なので男子トイレに連れ込むのは気が引ける。


 しかし思った通りこのトイレは人の流れから微妙に離れている上に、さらに建物の陰という好立地なので周りを見渡しても人影はない。


 俺は前に備え付けられている簡易的なベンチに腰を下ろし、隣にミユをケースごと置く。


 なお、ミユの素体はコノハと共に井戸の蓋の上だが、この程度の距離なら接続は切れないので問題ないだろう。


 呪文自体は本体の方に唱えれば効果が出るから問題はないはずだ。


 俺はもう一度周りを見渡して人の気配が無い事を確認してからノートに書かれた呪文を唱える。



「絆を繋ぎし見えざる糸よ! その願いを持って力を顕現せよ!」



 呪文を唱え終わると同時に一瞬ミユの樹の体が輝いたかと思うと、次の瞬間目の前の景色が変わった。


 いや、正しくは目の前に今まで見ていた景色と重なるようにもう一つの景色が見えるんだ。



「うわっ、なんだこれ」



 俺は慌てて周りを見渡すが、新しく浮かんだ景色は動かないまま、もとからの風景だけが動くという不思議な状況になっている。



「ミユちゃん、どうかしたですですか?」



 何故か離れた場所にいるはずの高橋さんの声がすぐ近くから聞こえた。


 声のした方へ顔を向けるが当然そこに高橋さんは居ない……のだが、突然重なっていたもう一つの景色が動いたかと思うと高橋さんの姿が現れた。



「うっ……気持ち悪い」



 別段、高橋さんが気持ち悪いといった訳ではなく、重なり合った二つの世界。特に勝手に視点移動する景色の処理に脳がついていけずに吐き気をもよおしてきたのだ。


 わかりやすく言うとVR酔いの様なものである。



「もしかしてこれって……」



 俺は一つの可能性に思い至る。


 そうこれはミユとの感覚共有のせいだ。


 今重なって視えているのはミユの視界なのだろう。



「だとしたら」



 俺は吐き気に耐えながら意識を集中する。



 プツンッ。



 まるでテレビの電源を切ったかのように脳内からもう一つの視点が消え去る。


 今回覚えた新しい呪文の説明にこう書いてあったのを思い出し、実行してみたのだ。



『対象は契約者と世界樹が自由に指定できる』



 つまりミユから送られて来ていた感覚共有を契約者として遮断したわけだ。


 多分送信側のミユは今回のことについて意識して俺に感覚を送ってきていたわけではないだろうけど正直かなりやばかった。



 俺は一分ほど目を閉じて吐き気が収まるのを待ってからミユたちのいる井戸の側へ戻ることにした。


 共有した時にミユはどう感じたのかも興味がある。


 完全に一方通行なのか、それとも……。



 ミユの新しい力について色々考えながら俺はゆっくりとベンチから立ち上がると、隣に置いてあるミユの本体を抱え上げた。



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