先祖代々受け継がれた餅焼き竿です。
「マカロン美味しいのじゃー」
満面の笑みでコノハがベンチの上で頬を押さえて跳ねている。
感覚共有を使って今のところ一番の利用方法と思えたコノハにも食べ物の味を感じてもらう計画は見事に成功した。
「ヤマダー、ありがとうなのー」
「いえいえ、私も興味深い事案でしたので」
俺が戻った後、魔法がきちんと動作しているらしい事を伝えたら、直ぐに山田さんはさっきまでいた参道テラスに駆け戻りマカロンを3種類コンプして買ってきてくれたのだった。
ミユのお礼に返事しながらも、何時もの手帳に何やら一生懸命にメモを取っている山田さんと、こちらはメモを取らずにコノハとミユを一生懸命な目で『観察』している高橋さんの二人は傍から見たらかなり異様な雰囲気を漂わせていただろう。
それを予想して先程の観光客の死角ことトイレ前のベンチに皆を移動させた俺、マジグッジョブ。
それから約30分ほど掛けて3つのマカロンはミユの中へ吸収されて行った。
もちろんその間ずっとミユとコノハは感覚共有を続けていたが、俺と違ってコノハは視点酔い等は感じていないようだった。
そもそもコノハの本体はスペフィシュにあるわけだし、そこから更に母なる世界樹へもリンクしている状態だ。
元々複数の視点と感覚を共有しているのだから、一つくらい追加されたとして脳(?)が混乱する事はないのかもしれないな。
そう考えてるとミユもだが、この世界樹たちの処理能力には驚愕を隠せない。
山田さんたちが一生懸命研究してもまだまだ解らないことだらけというのも頷ける。
「ぷはぁー、満足満腹なのじゃー」
コノハが全く膨れていないお腹を擦りながらそんな事を言う。
「いや、食ったのはミユだからな」
「ぐぬぬ、想像満腹とかいうやつなのじゃ」
想像満腹ってなんだよと突っ込みたかったが話が長くなりそうなので俺は少しだけ肩をすくめてみせただけでコノハとの会話を終わらせると山田さんの方を見る。
まだ何やら一生懸命メモを取っているが、このままでは何時までたっても外宮に辿り着けそうにない。
「山田さん、もう出発するよ」
俺はそう言うとミユの本体をリュックの中にしまいこんで立ち上がると、少し急ぎ足で外宮参道の方へ歩き出した。
「えっ、ちょっともう少しだけ待ってください田中さん!」
「ですです! 後ちょっとだけお願いですです!」
必死に二人が懇願してきたがもちろん完全無視だ。
研究馬鹿の『少し』ほど信用出来ないものはない事はここ数ヶ月の付き合いで嫌というほど体験しているのだ。
もう騙されないからな!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
伊勢市駅から外宮へ向かう一直線の道を両肩にミユとコノハを乗せ、背中には猫耳尻尾リュックサックの俺はスタスタと歩いて行く。
途中、立派なお土産屋や、ノスタルジックなおもちゃを売っているお店等が有ったけど、そういうお店で買物をするのは帰る前にして一直線に外宮の入り口に建つ大きな灯籠を目指す。
「あっ、あそこが有名な赤福のお店ですです?」
横断歩道で立ち止まり、信号待ちをしていると高橋さんが真向かいを指差して声を上げる。
「そうですよ、一応外宮の前にもこの前の遷宮の時に支店が出来たんですよ。テレビとか雑誌とかでよく見る本店は内宮の方なんですけどね」
俺達は赤福に寄るのは帰りにする事にしてそのまま進み、もう一回横断歩道を渡るとやっと外宮に着くことが出来た。
なんだか無駄に長くかかった気がする。
大晦日を控えた外宮には、混み合うのを見越して一日早く参拝に来た人たちと、境内で様々な準備をしている人たちで賑わっていた。
「お父さん、あれなにしてるの?」
「ん?」
ミユが指し示した方を見ると、砂利で敷き詰められた境内に、それほど深さはないが数メートルほど円状に穴が掘られている場所がいくつかあった。
「なんだろう? 山田さんしってる?」
「あれですか。あれはですね大晦日の夜になるとあの場所で火を焚くんですよ」
「火を?」
「そしてですねここからが面白いのですが、天下の伊勢神宮でそんなことをやってるんだと思うでしょうけど、市内の人たちがあの火でお餅を焼くんですよ」
「まじか」
「まじです」
大晦日の夜。
外宮では参拝客に餅を配る風習が有るらしい。
特設されたテントに市長までも参加して行われ、そこでもらったお餅を自作の餅焼き機を使い、盛大に焚かれている火を使って焼いて食べるのだそうな。
「自作の餅焼き機って……」
「長い竿の先に金網を取り付けた物なんですけどね。それぞれ餅が落ちないような工夫をしたりしていて、毎年このためだけに家に常備している人もいるそうですよ」
「まじか」
大晦日の餅焼きのためだけにずっと家に常備されるアイテムとか半端ないな。
「あと、かなり大きな炎になるので餅焼きとかじゃなくても近くによりすぎると火の粉が飛んでくるらしいので最悪衣服に穴が開くので注意するようにと言われました」
「言われたって誰に?」
ガイドブックの知識じゃなかったことに少し驚く。
「もちろん転移者の里の方にですよ」
すっかり忘れていたけど今回の旅行の主目的は伊勢神宮参拝じゃなくて転移者の里参拝の方だった。
とりあえず外宮の中に歩みを進め、砂利道を歩きながら山田さんに聞いてみる。
「転移者の里ってもしかしてこの中に?」
「違いますよ。伊勢神宮の中にあるのはワープゾーンだけです」
「ワープゾーン?」
俺が首を傾げていると高橋さんが小走りで寄ってきて「ゲームの話ですです。実際にはそんな物無いですです」と教えてくれた。
「ドワドワ研の所長さんに勧められて半強制的にプレイさせられたのですよ。この国を知るのに良いと騙されまして……」
山田さんは昔を懐かしむように「こちらの世界にはじめてきた頃は本当にああいう風になっているものだと信じてました」と笑った。
「子供か!」
結局、転移者の里の場所については聞けずじまいのまま俺たちは外宮を一通り回った。
山田さん一押しである遷宮の記念に作られた『せんぐう館』にも寄りたかったが、夏の台風の折に浸水して以来未だに休館中とのことで諦めることにした。
「是非田中さんたちにも見せてあげたかったんですけどね……」
残念そうに休館のお知らせを見て山田さんは肩を落としていたが、自然災害じゃあどうしようもない。
残念がる山田さんを引きずりながら帰りに赤福に寄って赤福ぜんざいを食べる。
もちろん山田さんの奢りだ。
多分ユグドラシルカンパニーの経費で落ちるのだろうし大丈夫だと思う。
だって山田さん、きっちりしっかりレシートを受け取って大事そうに手帳の中に保管してるんだもの。
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ホテルに帰り、一度部屋に戻ってから着替えを持って大浴場で一日の疲れを落とす。
ちなみにミユとコノハは今高橋さんの部屋にいる。
流石に男風呂に連れていけないというのもあるが、高橋さんがミユの感覚共有魔法をもう少し調べたいと頼み込んで来たのだ。
ミユとコノハも何やら乗り気だったので任せることにした。
なんだか心配ではあったんだけど……。
風呂に入っている間も山田さんはエルフ耳を隠しながら頭を洗ったり、体を洗ったり微妙に大変そうだった。
最初に会った頃のように耳を隠す魔法でも使えばいいのに、何故だか彼はこの旅行の間、その魔法を使おうともしない。
アパートに居る時に使わないのは、すでにユグドラシルカンパニーの根回しが完了しているからと聞いているけど、今回の旅行ではまだ会社の影響力が及んでない地方だからと最初から耳を隠す被り物を手放さずに居る。
何か魔法を使わない理由があるのかもしれないが、目の前で必死に他の客の目を避けて頭を洗っている姿を見ると、そこまでして使わない理由が気になる。
そんな事を考えながら旅行の一日目は過ぎ行くのであった……。
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山田「言い忘れてましたが明日は朝五時起きですよ」
田中「えっ、早すぎない?」
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高橋「研究のためにコンビニでお菓子を買い込んできたですです」
コノハ「朝までお菓子食べ放題なのじゃー」
ミユ「食べ放題なのー」
高橋「うふふふ、今夜は研究が一段落するまで付き合ってもらうですですー」




