厳島の戦い―深い愛
祝宴の騒がしさが遠のき、東の空がわずかに白み始めた頃。
景と雫は二人で話していると赤川から聞いた。
そのためふらりと弟の天幕へと足を向けた。
「景、起きているか。明日の軍議のことで少し……」
声をかけ天幕をあけると、目に入ってきた光景に息を呑んだ。
そこには、天幕の柱に背を預けたまま眠る景と、その膝に頭を預け、子猫のように寝息を立てる雫の姿があった。
景の外套が雫の細い肩をしっかりと包み込み、景の手は、眠りの中でも雫を離すまいとするように、その背中に添えられている。
……ああ。お前たち二人とも、これほどまでに疲れておったのか。
二人の元へ一歩歩み寄り、その景色を永遠におぼえておこうと、腰を落とした。
そこには、戦場で見せる冷徹な将の顔ではなく、ただ愛する者を守り抜いた安堵に満ちた、弟の素顔があった。
そして、自分の小姓として望まぬことも受け入れ、死の淵を彷徨ってきた雫が、今はこれ以上ないほど穏やかな顔で、弟の鼓動を子守唄にしている。
景……。お前がこれほどまでに、誰かを欲し、誰かに魂を預けるようになるとはな。……それが雫であったこと、兄として雫の主君でもあり、子を成した人間として、それを良かったと簡単に言ってしまうのは、景に申し訳ないか。
二人の間に流れる「触れられぬほど純粋な空気」を壊さぬよう、彼は立ち上がらず、ただ静かにその寝顔を見つめ続けた。
「……雫を、頼んだぞ。そして雫……景を、現世に繋ぎ止めてくれて、ありがとう。」
雫に自分の外套をかけ、何もかけていない景に何かかけるものを持ってこようと、何か言いたげな顔で着いてきた国司に「……今は、起こしてやるな。だがこのままだと景が風邪をひく。何かかけるものを持ってきてくれぬか。」とだけ告げた。
国司がかけるものを取りに行く姿を見送りながら、朝焼けに染まり始めた厳島の空を、晴れやかな顔で見上げた。




