成長
御簾の隙間から差し込む日差しが、私の瞼を優しく叩いた。
意識の沼は深く、重く、戻ってくるまでにどれほどの月日が流れたのかも分からない。けれど、ようやく持ち上げた瞼の裏に映ったのは、逆光の中に浮かぶ、小さな、愛らしい後頭部だった。
「……紡……」
夢ではない。すぐ隣に、愛しい娘がいる。
紡は私が目覚めたことにも気づかず、物音を立てぬよう細心の注意を払いながら、一人で遊んでいた。小さな手でどんぐりや端切れを丁寧に並べ、声を出さずに何かを呟いている。その真剣な横顔は、私の知っている二ヶ月前の彼女よりも、どこか凛として大人びて見えた。
「…………つむ……ぎ……」
私の口から漏れたのは、二ヶ月分の想いを乗せた、掠れた吐息のような声。
紡が、弾かれたようにこちらを向いた。
目が合う。
熱の闇の中で彷徨っていた虚ろな景色ではない。
今は、はっきりと愛しい娘の姿を捉えている。私の瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていくのが分かった。
「……!……ひな……?」
紡は信じられないというように目を見開いた。
いつもの彼女なら、叫びながら私の胸に飛び込んできたはず。けれど、彼女は咄嗟に自分の口を小さな手でぎゅっと押さえた。溢れ出しそうな喜びを必死にこらえながら、大きな瞳からポロポロと涙をこぼしている。
「ひな……おはよ……。つむぎ、しずかに……待ってたよ……」
その言葉に、胸が震えた。
私のあずかり知らぬところで、この子はどれほどの寂しさを堪え、独りで戦ってきたのだろう。
私は震える手をゆっくりと動かし、紡の温かい頬に触れた。
「……えらかったですね……。……ずっと、側に……いてくれたのですね……」
指先から伝わる娘の熱が、私の止まっていた時間を動かしていく。部屋を満たしていた死の気配は消え去り、そこには静かで、確かな「春」が訪れていた。
「あのね……つむぎ……ひながずっと起きないんじゃって……悲しくて……」
紡は私の細くなった腕に顔を埋め、声を押し殺して泣きじゃくった。その小さな肩の震えが、私をこの世に繋ぎ止める何よりの絆となる。
「偉かったですね……。寂しい思いをさせて、ごめんなさい……」
言葉を交わすだけで体力が削られ、心地よい眠気が再び私を誘う。
「ひな、眠いの……? ねんねしていいよ」
寂しそうに、けれど私を気遣って我慢強く微笑む娘に、私は心からの感謝を込めて微笑み返した。
「また……起きた時に……たくさんお話をしましょう……」
約束を交わし、私は再び深い眠りへと落ちていく。
遠のく意識の中で、私の腕を丁寧にお布団の中へ押し込んでくれる、小さな手の温もりを感じていた。
直後、「ははうえ!」という、今まで我慢していた分をすべて吐き出すような大きな、元気な声が廊下へと駆けていく。
ああ、もう大丈夫だ。
愛する人たちが待つこの世界へ、私はようやく帰ってきたのだ。




