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女神がきたりて  作者: 阿能比等
最終章
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43/53

days still continue 女神がきたりて

駅。

 駅だ。

 薄暗い鈍色の空の下、雨でも降りそうな雲が空を覆ってる。どこかの山か森の中の、さほど古くも新しくもない駅だ。

 ふと気付いたらここにいた。

 疲れ切って、うなだれたようにホームのベンチに座っていた。

 線路は無く、代わりに水路の様に水が溜まっている。

 

 電車が来る訳じゃないのかな。


「…………」


 人は疎らにいるが、皆して下を向いている。


 俺も……下を向いてた方がいいのかな……。それで何かがどうにかなる事はないってのはわかってるけど。


 そんな事を考えていると……



『間もなく電車が参ります。十字煉獄駅行きの方は1番ホームでお待ち下さい』



 知らない駅だな。

 水を割いてゆっくりとホームについた電車には誰も乗っていなかった。


「近所走ってる電車かよ。……え? ここ近所?」


 そういや俺、どうすりゃいいんだ? 下を向いてた人達の何人かは電車に乗り込んでる。

 スマホ……は無い。金は……ポケットに百円玉が三枚……だけ。

 

 切符も無いのにホームに孤立かよ。


 ……そうだ、窓口。窓口窓口……どっかに窓口ねぇかな。

 お、改札口あった!


 ……けど…………

 改札口に併設された窓口には駅員の代わりに真っ黒な着物を着た長い黒髪の、異様に青白い女性がいた。


「あのー、すみません、気付いたらここにいて……ここってどこら辺なんですかね?」


「お金」


「情報料、みたいな……?」


「お金」


「あの……三百円しか持って無いんですけど……」


「切符」


「いや電車に乗りたいとかじゃなくて、ここってどこなんです?」


 質問は無視され、切符が差し出された。


「…………」


 切符の行き先には、地獄と書いてあった。


「お金」


「…………」


「お金」


 俺は、ポケットの三百円を渡してその場を後にした。



 俺、死んだのか。

 いつ? どうやって? 何があって?

 

 地獄?


 人並みに生きてただけ。人の道から外れるような事なんかしてない。

 虫とか殺したのがいけなかったかな……。肉食べた事とかも……?


 もうわっかんねぇや。

 なんだこれ。ただただ普通に生きてただけで地獄って。


 行く当てもないし、何も考えずにさっき座っていたベンチに戻ってしまった。

 ここが唯一の居場所な気がした。


 地獄か……鬼とかいるのかな。

 天国がよかった、と声を大にして言いたい訳ではないが、納得いかない。


 むしろ地獄に納得する奴なんかいるのだろうか。


 電車に乗らなかったら……どうなるだろうか……


 待っていても状況は変わってくれない。無言の我儘も通してくれる程、優しい世界ではないらしい。


「なりた‼」


 …………期待していた声が聞こえる。

 刑務所に入った人間が、初めて身内と面会する時の気分ってこんな感じなのだろう。


 声は左から聞こえた。だが、俺は下を向くくらいしかできなかった。

 足音が近付いてくるにつれ、心が軋んでいく。


「こんな所にまで来るのかよ……」


「ええ。あなたに会いたいと思ったから」


「これ、切符……地獄だってさ」


「ええ、知ってる。……電車が来るまで、少し話しましょう?」


「…………」


 隣に座る女神が随分と懐かしく感じた。


「ねぇなりた、地獄ってどんな場所だと思う?」


「鬼が山盛り」


「鬼なんていないわ。地獄ってね、『現世で生きていなかった者』と『寿命を捨てた者』、それから『他の生を妨害した者』が現世と天国のループからつまみ出されて落とされる隔離場所よ」


 女神は、こんな場所でもどこか楽しそうに語り続けた。

 

「刑罰とか殺し合いで死んだ者とか自殺者みたいな、寿命を無駄にした者は地獄へつまみ出されるの」


「俺は……」


「現世で生きていなかった者」


「…………」


「人間って我儘な生物よ、神や運命でさえ自分の都合の良いものを選ぼうとするの」


 定期的にやってくる電車を見送りながら、まるで散歩の道中のちょっとした雑談のように語る女神。

 その話は、こんな状況の俺の頭にも何故か容易く入ってきた。

 

「でもね、それはそれでいいのよ。自由に生きて好き勝手喜んで、後悔して、また好き勝手して……そんな風に生を楽しんで欲しかったから自由に生きられるようにしたの」


 ダメだ、何か言い訳したいのに考えがまとまらない。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、女神は俺に止めを刺した。


「どんなカタチであれ、日々を懸命に生きてる人々の近くで堕落して……つまみ出されて当然よ。邪魔だもの」


「……別に……堕落してたつもりはないんだけどな。だって俺……」


「なら、どうして何もしなかったの? なんで何をするにも妥協だったの? なんで好きでもない、同じ毎日を繰り返そうとしたの?」


「……なんか嫌なんだよ、色々変わってくの。何かにつけて前の方がよかったとか、昔の方がマシだったとか……。怖ぇもん、後悔する事が増えてくの」


「そう……。でも、毎日が少しづつ劣化していく事には気付かなかったのね」


「……悪ぃ」


 結局、こんな情けない謝罪しか出てこない。他にもごちゃごちゃと頭の中に言い訳は湧いたけど、自分の頭が先に論破して口から出る事はなかった。



days still continue 女神がきたりて2 へ続く

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