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第71話 凱旋


 ゴゴゴゴゴ……。


 突然地鳴りと共に激しい揺れが襲ってきた。

 城内の壁や天井にひびが入り、柱が倒れる。


 アレス殿下はヘステリアを庇いながら叫んだ。


「こんな時に地震か!? 城が崩れる、早く外に出よう」


 アレス殿下達は出口へ向かって走り出す。


「マール様、私達も急いで脱出しましょう!」


 ユフィーアは俺の手を引っ張って出口に向かおうとするが、俺は原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドのこのシーンを覚えているので落ち着き払っている。


 魔王の撃破後に城が崩れるのはRPGではよくある事だ。

 崩れ落ちる城から自力で脱出しないとゲームオーバーになるゲームもない事はないが、ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドはただのイベントムービーであり逃げる必要は全くない。


「皆さん慌てなくても大丈夫ですよ。魔王が死んだ事で、その魔力によって作られていたこの魔界が崩壊していってるんですよ。ちょっと演出が派手なだけで危険はありません」


「そ、そうなのか……しかしこの揺れは……」


「慌てないで紅茶でも飲みながら落ち着いて下さい殿下」


「うわっ……天井が崩れる!」


 揺れはますます激しくなり、やがて目の前の風景は溶けるように消滅していった。


 そして俺達が次に気が付いた時には全員が町の広場に描かれた魔法陣の上に立っていた。


「おかえりなさい、魔王を倒したようですね」


 笑顔で俺達を迎えてくれたのはレイミルさんだ。

 どうやら無事に元の場所に戻って来れたらしい。


 皆は周囲を見回してお互いの無事を確かめ合う。

 全員が無事である事を確認すると、ある者は雄叫びをあげ、ある者は小躍りし、ある者は神に感謝の祈りをささげている。


 しかし何か忘れてる気がするな。


 何だったけ。

 とても大切なことだったような。


 ……思い出した!


「そうだ、シンディア姫は!?」


「マールさんお久しぶりです。ごきげんよう」


「えっ」


 振り向くと、そこには魔王城に捕らえられていたシンディア姫の姿もあった。


「シンディア、無事だったか! 良かった……」


 妹の無事を確認したアレス殿下が思わずシンディア姫を強く抱きしめる。


「お兄様、痛いです。人前で止めて下さい恥ずかしい。それにあまり私に近付くとお兄様の身に災いが……」


「妹の為なら俺の身に七難八苦が降り注ごうと構うものか」


 アレス殿下には意外とシスコンの気があったようだ。

 ヘステリア達も苦笑いしながらこの光景を眺めている。


 しかしもうバグは修正されているはずだ。

 シンディア姫に近付いてもバグに巻き込まれる事はないだろう。


 その証拠に、シンディア姫は俺に野球拳を挑んでこない。


 俺は呪術の根源である魔王が倒れた事で今まで起きていた不可思議な出来事はもう起こらないだろうと皆に説明をする。


「全部擦り付けちゃってごめんね、イブリース」


 俺は小声でイブリースに謝罪をする。


「マール様、何かおっしゃいました?」


「いや何も。それにしても俺はもうへとへとだ。早く宿で休みたい」


「はい、実は私もそろそろ限界です」


「シンディア、今日は町の宿に泊まる事になるが大丈夫か? 王宮と違って粗末なベッドで寝て貰う事になるが……」


「お兄様、要らぬ心配ですわよ。魔王城の汚い寝床よりも悪い環境という事なら話は別ですが」


「お、おう……いつの間にか逞しくなったな……」


 アレス殿下、シンディア姫が逞しいのは元からです。

 転移バグで王都の裏路地に飛ばされた時も普通にそのまま眠り続けていましたからね。



 俺達は宿屋へ移動すると俺とユフィーアの組、アレス殿下とヘルメスとテーセウスの組、シンディア姫とヘステリアの組に分かれて別々の部屋に入る。


 戦闘に参加していないヴェパルさんとレイミルさんは帰りの船を手配してくれている。

 明日にはレイフィス王国に向けて出港できるだろう。


 俺とユフィーアは順番に風呂で汗を流した後、それぞれのベッドに直行して横になる。

 今日はすぐに眠りに落ちそうだ。


 それにしても好感度バグも一緒に修正されたかと思ったけど、ユフィーアの様子がいつも通りなのが気になるな。

 あの時はゴミ虫でも見るような目で見られる事を覚悟していたが、これだけ普通に接されると逆に不安になる。


 ここは探りを入れてみよう。


「ユフィーア、まだ起きてる?」


「はい、マール様」


「無事に魔王も倒したし、ユフィーアは冒険者を引退して騎士団に戻るのかい?」


「いえ、ご迷惑でなければ今後もマール様にご一緒させて下さい」


「もう魔王の呪いもなくなったし、これ以上俺から学べるものは何もないと思うけど」


「そういう事ではなく……私がマール様と一緒にいたいんです……ダメでしょうか?」


「あ、いや、そういう事なら全然構わないけど」


「はい、これからも末長く宜しくお願いします」


 全然変わってないな。

 ということはもしかすると最初から好感度バグというものは存在していなかったのかもしれない。


 そもそも当時の彼女が民間の組織である冒険者ギルドを嫌っていたのは、民衆は弱者であり守るべき対象という騎士としての矜持によるものだ。


 あの時、民間人である俺に逆に助けられた事によってその考えが覆されたという事なら、好感度バグとは無関係に俺に対して好意を持ったという可能性もゼロではない。



 ん?

 バグじゃないなら、ユフィーアは本気で俺に対して……そういう感情を抱いているという事か?

 そう考えると、ユフィーアを見る目も変わってくる。


 今までのユフィーアの行動や言動は全てそういう意味だったのか。


「マール様、どうかなさいましたか?」


「い、いや、なんでもない。今日はもう寝よう。おやすみ!」


「はい、お休みなさい」


 一度意識をしてしまうと、とてもユフィーアの顔を見ていられない。


 俺は身体を90度横にし、ユフィーアに背中を向けながら目を瞑った。


 余程疲れていたのだろう、直後に襲ってきた強烈な睡魔に抗う術はなく、俺の意識は途切れた。



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