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第69話 勇者の覚醒

 この部屋から玉座の間へ行くには、少し前の部屋に戻って扉を開ける為に必要な鍵を手に入れなければならない。


 焦る気持ちを抑えつつ鍵の回収に戻る俺達の前に魔物達が容赦なく襲いかかってきた。


 バグが修正された時点で俺は完全なお荷物となっているので、戦闘はアレス殿下達に任せて後方で隠れている。


 今の俺の情けない姿をユフィーアが見たらどう思うだろうか。

 もう好感度バグも修正されている筈なので、心底軽蔑されるんだろうな。


 ヘステリアの破邪の力があるとはいえパーティ内最強戦力だったユフィーアが抜けた穴は大きく、アレス殿下達も苦戦続きだ。


 気が付けば魔法の袋の中に大量にあったエリクサーも底をついていた。


「はぁはぁ……これが玉座の間への扉を開く鍵だな。マール、早くユフィーアを助けに行ってくれ」


 アレス殿下達が鍵を手に入れた時には既に満身創痍で身動きもままならなくなっていた。


「アレス殿下、皆さん、有難うございます。直ぐにユフィーアを助けて戻ってきます!」


 俺はアレス殿下から鍵を受け取ると玉座の間へ向かって走る。


 俺が救援に向かったとしても共に戦う事はできないが、扉さえ開けばユフィーアは玉座の間から脱出する事ができる。


 ここはひとまず撤退し、態勢を立て直してからまた挑戦すればいい。


 俺は玉座の間への扉の鍵を開け、中に飛び込んだ。


「ユフィーア無事か!?」


「う……マール……様……? 来ては……駄目です……」


「ふははははは、噂に聞く竜殺しの勇者とはこの程度か」


 玉座の間には血まみれで床に横たわっているユフィーアと、漆黒の12枚の翼を広げ、高らかに嘲笑している巨大な怪物の姿があった。


 魔王イブリースだ。


 ユフィーアは息も絶え絶えに声を絞り出す。


「マール様……無念です……私の力では魔王には届きませんでした……」


「すまないユフィーア、来るのが遅くなってしまった」


「何かトラブルがあったんですよね……でもきっと来てくれると信じていました……」


「傷が開く、もうしゃべるなユフィーア。とにかくここは一旦退こう」


 俺はユフィーアを背負い玉座の間からの脱出を図るが、それを易々と見逃してくれる魔王イブリースではない。


「ほう、ネズミがもう一匹紛れてこんでいたか。焼却処分をせねばなるまいな。インポッシブルメテオ……!」


 イブリースは侮蔑の眼差しで俺達を見下ろしながら呪文を詠唱すると、その周りに拳大程の炎の弾丸が無数に現れる。


「余の視界から消えよ!」


 次の瞬間、炎の弾丸は流星のような勢いで俺達を目掛けて飛翔する。


 まるで弾幕シューティングの敵の弾が味方の弾と同じ速度で飛んでくるようなものだ。

 とても避けられない。


 俺は甘かった。

 そもそもラスボスから逃げられるはずがないのだ。

 俺が玉座の間に入った瞬間に運命は決まっていたのだ。


 人は死ぬ間際に周囲がスローモーションのように見えるという。

 ゆっくりと近付いてくるあの炎の弾丸が俺に届いた時に間違いなく俺は死ぬだろう。


 あの時と同じだ。


 俺はユーリンとミーリャに捨石にされ、オークチーフに殺されかかった時の事を思い出す。

 だがあの時俺を助けてくれたユフィーアは今俺の背中でぐったりしている。


 もう俺を助けてくれる者はいない。


「俺を助ける……?」


 いや、俺は今何を考えていたんだ。


 違うだろう、俺がユフィーアを助けに来たんだ。

 その俺がこんなところで諦めてどうする。


 せめてユフィーアだけでも逃がしてみせる!


 俺はスローモーションのように飛んでくる炎の弾丸の射線上から回避を試みる。


「くっ!」


 炎の弾丸は俺の身体を掠めて背後の壁に激突した。


「かわせた……!? いや、まだだ!」


 空中を飛びまわる無数の炎の弾丸は、俺が避けた先に向かって軌道を修正する。


 しかし俺は更にその軌道から外れる様に身をかわす。

 次も、そのまた次に飛んでくる炎の弾丸も俺の身体には全く当たらない。


「なんだ、この感覚は……?」


 どうやら炎の弾丸がスローモーションのように見えていたのは錯覚ではなかったようだ。

 自分の反応速度が異常なまでに上がっており、相対的に周りの動きがゆっくりに見えているのだ。


「新しいバグか……? いや、これはまさか……」


 この世界で散々猛威を奮ってきたバグの数々は先刻のアップデートによって修正されている。


 という事は直っているはずだ。





 俺、マール・デ・バーグのレベルが10までしか上がらなかったというバグが。






 今まで戦ってきた経験値分まとめてレベルが上がったとしたら、俺の今のレベルは100以上になっているのは間違いない。


 いや、敵を倒した時に入ってくる経験値は自身のレベルに反比例する。

 ずっとレベル10で戦ってきた俺は一緒に戦ってきたユフィーア以上のレベルになっていてもおかしくはない。


 さらに原作の設定ではマール・デ・バーグは剣と魔法を使いこなすユーティリティプレイヤーという事になっている。

 レベルが同じ状態なら他のどのキャラよりも強い。

 それこそユフィーアよりも。


 ならば魔王とだって戦えるはずだ。


「アイスシールド!」


 俺は足を止めると目の前に氷の盾を作りだす魔法を唱える。


 アイスシールドはレベル100以上のキャラクターが使う事ができる防御魔法だ。

 特に炎に対して効力を発揮するが、ある程度敵の攻撃を受けると破壊されてしまう。

 その耐久力は魔力に比例する。


 炎の弾丸は次々と氷の盾に当たり消えていく。


 全ての炎の弾丸が消えるのと氷の盾が砕け散るのは同時だった。


 つまり今の俺の魔力と魔王の魔力は互角という事だ。


「馬鹿な……余の魔法がこんな小僧に凌がれたというのか……」


 俺の事をただの雑魚だと思い込んでいたイブリースも動揺を隠せない。


 その隙に俺はユフィーアを玉座の間の外に連れ出してそっと寝かせる。


「血が止まらない、何とかしないと……ヒール!」


 俺は治癒魔法は得意ではないが、今の魔力ならばそれなりに効果があったようだ。

 ユフィーアの身体中に付けられた傷口から止め処なく流れていた血は止まったが、あくまで応急処置に過ぎず立ち上がる事ができない。


「マール様申し訳ありません。最後の最後で足を引っ張る事になってしまって……」


「ユフィーア、直ぐに終わるからここで休んでいてくれ」


「はい、マール様……ご武運を!」


 俺はイブリースに追撃をさせない為に玉座の間に戻り、再びイブリースと対峙をする。


「貴様は一体何者だ。ただの冒険者ではあるまい」


 もうイブリースには先程のように俺を見下す様子はない。

 俺を強敵として認めたからだ。


「俺の名はマール・デ・バーグ。王国では(ことわり)の勇者と呼ばれている!」




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