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第52話 世界のアップデート


 フレガータが討たれた事で、残った魔王軍は大混乱に陥った。

 その好機を見逃すルシエール飛行部隊ではない。


 周囲を右往左往するだけの鳥型魔族に矢と魔法が降り注ぐ。

 さらには負傷して戦線を離れていた味方の飛兵達も合流し、戦いは一方的な展開となった。


「ちっ、鳥野郎も思ったより役に立ちませんでしたわね。あなたたち、覚えてらっしゃいませ!」


 形勢不利と見たデメテルはそう言い残すと我先にと逃走を始める。


「待て、この売国奴め!」


 アレス殿下が飛竜を駈って追撃するが、周囲の鳥型魔族に邪魔をされて追いつけない。

 気が付いた時には既にデメテルは視界から消えていた。


「くそっ、逃げられたか」


 アレス殿下は歯ぎしりをして悔しがるが、過ぎた事を悔やんでも仕方がない。

 直ぐにフレガータ軍の残党狩りに専念するよう頭を切り替える。


 その一方で、俺はリカイン卿とスカイサラマンダーの様子を確かめる為に地上へ降りていた。


「バルザゴール隊長、リカイン卿の容態はどうですか?」


「それが、墜落の衝撃で身体中が傷だらけで……骨も何本か折れているようです……ここではこうして木の枝で固定して安静にしていただくのが精いっぱいで……」


「そうですか、じゃあこれをどうぞ」


 俺は魔法の袋からエリクサーを取り出してリカイン卿に飲ませると、ボロぞうきんのようになっていた全身は驚きのツヤ肌に大変身だ。


 ついでにスカイサラマンダーの口の中にもエリクサーを流しこんであげると、フレガータに抉られた背中の傷もあっという間に塞がった。


 相変わらずエリクサーの回復効果はすごいな。

 古傷には効果は及ばないが、できて間もない傷なら一瞬で完治してしまう。

 量産しておいて本当によかった。


「マール殿、おかげで助かった。ルシエールに戻ったらこのお礼は必ずさせて貰う」


「いえ、それよりも今はフレガータの残党の討伐をしましょう」


「ああそうだな。いくぞ、バルザゴール隊長!」


「はっ!」


 リカイン卿とバルザゴール隊長が戦線に復帰した事で、ルシエール飛兵部隊はますます勢いづいた。



 この後一時間程続いた掃討戦は、俺達の大勝利で幕を下ろした。




◇◇◇◇




 ピピッ。


 ルシエールへの凱旋の途中、聞き覚えのある電子音が耳に入ってきた。


「マール様、今何か音が鳴りませんでした?」


「ああ、この音はモバイルクォーツがメッセージを受信した音だな」


 俺達がいるこの世界が他の並行世界とすれ違ったようだ。


 俺は魔法の袋からモバイルクォーツを取り出し、メッセージを確認する。



 送信者、コンワーク。

 添付データ、特製マヨネーズ。

 メッセージ、ついに追加ダウンロードコンテンツがリリースされましたね。新エリアを回りきるのにどれだけ時間がかかるのかな。ってゆーかそんな事よりメーカーはさっさとバグを直せっつーの。皆で署名を集めない?



 ……追加ダウンロードコンテンツだって?

 という事は、今回の戦場になった世界樹の森も新たに追加されたエリアという事か。

 道理でこんな場所記憶になかったはずだ。

 デメテルが生きてたのも追加されたシナリオのせいか。



 それにしてもまずこの世界に溢れる膨大なバグを直せっていうコメントには同意せざるを得ない。

 メッセージを見る限り、どうやらメーカーに早くバグを直してもらうように署名を集める運動が進められているようだ。


 デメテルは原作プレイヤーの間でも「こいつどちらかというとレイフィス王国よりも魔王軍側のキャラじゃない?」とか「俺が魔王ならゲーム開始直後に引き抜くわ」とか「呂布とか松永久秀みたいに忠誠度MAXでも見返り次第で平気で敵に寝返りそう」とか散々ネタにされていたキャラクターだ。


 メーカーがプレイヤー達の意見に耳を傾けた結果がこの追加シナリオだというのなら、プレイヤーの声が届かないはずはない。


 あとはメーカーにバグを直す気があるのかどうかだけどね。



 難しい顔でモバイルクォーツを眺めている俺を、ユフィーアが不思議そうな顔で見ていた。


「マール様、どんなメッセージが届いていました?」


 この世界の人間に、追加ダウンロードコンテンツについて話しても理解して貰えるとは思えない。

 俺は咄嗟にそれらしい嘘の説明をする。


「どうも新しい魔族の呪術が発見されたみたい。ひょっとすると近い内に世界で何かが変わるかも」


「何か……ですか?」


「俺も現時点では詳しい事は分からないな。独自に調べてみようと思う」


「そうですか。私にも手伝える事があれば遠慮なく仰って下さい」


「そうだね、それじゃあ……」


 俺はメッセージに添付されていた特製マヨネーズを具現化してユフィーアに渡す。


「これはマヨネーズといって、異世界で大人気の調味料なんだ。これに合った料理を考えてくれないか」


「料理ですか? 分かりました、お任せ下さい!」


 ユフィーアはマヨネーズを指先につけ、ペロッと嘗める。


「ふむふむなるほど、こういう味ですか。いいですね、色々とインスピレーションがわいてきましたよ!」


 ユフィーアもマヨネーズの味を気に入ったようだ。

 さすが全世界共通の万能調味料だ。



 この日から暫く、俺はユフィーアによってマヨネーズ漬けの食生活を強いられる事となったがそれはまた別の話である。





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