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第50話 空を駈ける怪鳥

 リカインの号令でルシエールの飛兵部隊が一斉に飛び立つ。


 フレガータ率いる魔王軍の拠点の場所は斥候によって調べが付いている。

 それは俺達がフレガータと遭遇した場所より南西へ20キロメールトル程進んだ位置にある深い森の中にある。


 その森の中央には世界樹と呼ばれる天空まで聳える大樹があり、それはそのまま鳥型魔獣の巣となっていた。


 しかし原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドではこんな場所はなかったはずだ。

 一体何がどうなっているのやら。


 もしかして徐々に世界そのものがバグり始めている……?



 原作ではフレガータ軍との戦いは弾幕シューティングゲームになる。

 画面上を所狭しと飛び回る鳥型魔獣をかわしながら進んだ先にフレガータが待ち構えている。


 戦う場所が原作とは違っていても弾幕シューティングになる事自体は変わらないようだ。

 俺達の接近に気付いたフレガータ軍は、空を覆うばかりの大軍でこちらに迫ってくる。


 この鳥型の魔獣一体一体が弾幕シューティングの弾に相当する。


 空中戦では剣や槍のような近接武器ではまともに戦えないので、必然的に弓矢や魔法での遠距離攻撃が主要な攻撃手段となるが、この膨大な数の魔獣をいちいち倒していてもキリがない。

 ボス戦に向けて体力も温存しないといけないので、各自最小限の動きでかわしながらフレガータを目指して前進する。




「ぐはっ」


「ふ、不覚ッ」



 後ろを見ると味方の飛兵部隊がひとりまたひとりと被弾していく。

 幸い鳥型魔獣の一体一体はさほど攻撃力は無いので、ダメージを受けた味方は無理をしないように戦線から離脱させる。



 先に進むにつれてフレガータ軍の抵抗は激しくなり、ルシエール飛兵部隊は徐々にその数を減らしていった。



 やがて世界樹の付近に辿り着いた時にはその数は三十騎程になっていた。

 懐に潜られたフレガータ軍は態勢を整える為に一旦上空に退き、再度攻撃の機会を狙っている。




「バルザゴール隊長、味方の損害状況を知らせよ」


 リカインに呼ばれて前に出たバルザゴールという人物は、俺達をリカインの屋敷に案内した天馬騎士団の隊長だ。


「はっ、残っているのは僅か三十騎ほどです。それから。アレス殿下とそのご同行者は全員ご無事のようです。お見事です」


「そうか。さすがアレス殿下だ。S級の冒険者ともなるとやはり違いますな」


「いや、我らはリカイン卿の後ろをついて行くだけでやっとだった」


 アレス殿下とリカインはまだ余裕があるように談笑しているが、ユフィーアの背中に括りつけられている俺はそれとは対象的に完全にグロッキー状態だ。


「うう、気持ちが悪い……」


「マール様、大丈夫ですか? どこかお怪我でも……」


 ユフィーアは心配そうに眉をひそめるが、俺はどこも怪我をしていない。

 ただの3D酔いだ。


 原作では2Dの弾幕シューティングだったから特に気にもならなかったが、三次元で弾幕をかわし続けるというのは並の三半規管じゃ持たないという事を思い知った。



「ハーッハッハッハ、誰かと思えばあの時の小僧どもか!」


 聞き覚えのある声に上空を見上げると、多くの鳥型魔獣を従えた怪鳥フレガータの姿があった。


 そしてその傍らには鳥型魔獣に跨ってこちらを見下ろしているもう一人の影が見える。


「お久しぶりですね皆様。むざむざと殺されにやってきましたか」


「お前は……デメテル!? どうしてここに!?」


 先日レイフィス王国を追放されたはずの元聖女デメテルがそこにいた。


「おーっほっほっほ。魔王様は王国を追われた私を快く受け入れてくれましたわ。尤も、魔王様にとって聖女の力は喉から手が出る程手に入れたい魅力的なものですから当然ですけどね」


「貴様、仮にも王国の元聖女が魔王軍に力を貸すというのか!?」


「お黙りなさい馬鹿王子。私には元々王国の事なんてどうでも良かったのですよ。私は私を陥れたあなた達に復讐がしたいだけ」


 デメテルは悪びれもせずそう言ってのける。

 さすが善悪ポイントの初期値が2しかないキャラクターだけの事はある。

 原作でもプレイヤーに対するヘイトコントロールは芸術的とも評価されている。


 それにしてもやはり原作と展開が違う。

 一体何が起きているというのか。


「あなた達が次の聖女候補であるリーディアを迎えにルシエールに行く事は簡単に予想できましたわ。そこを襲撃する素振りを見せれば町を守る為にヘステリアを残してあなた達だけでフレガータ様の討伐にやってくる事もね。何もかも私の思い描いたシナリオ通りですわ」


「くそっ、短期間とはいえ貴様のような女を聖女として崇めていた事実は我らレイフィス王国の汚点だ!」


「さあフレガータ様、空の上ではあなた様に適う者はおりません。早く彼らの無様な死に様を私に見せて下さいな」


「ふっ、言われるまでもない、いくぞ!」


 フレガータは指揮官であるリカインに狙いを絞り上空から急降下する。


「まずは貴様からだ!」


「面白い、受けて立とう!」


 リカインはフレガータの挑戦を受け、スカイサラマンダーを駈って上空へ舞い上がる。


「貰ったぞ!」


 両者が激突する瞬間、リカインはフレガータに向けてほぼゼロ距離からの矢を放つ。


「遅い」


 しかしフレガータは超反応でそれを回避し、側面からリカイン目掛けて鋭い嘴を突き立てる。


「甘い、読み通りだ!」


 フレガータの嘴が突き刺さる直前、スカイサラマンダーの口からフレガータを目掛けて灼熱のブレスが吐き出された。


「やったか!?」


「それも遅い」


「な、何だと!?」


 フレガータはまたしても超反応でブレスをかわすとそのまま背後に回り、スカイサラマンダーの背中に嘴を突き刺し、その肉を抉り取る。


「ギャオオオオオオオオン!」


 この一撃で勝敗は決した。

 スカイサラマンダーは背中から大量の血を噴き出しながら力なく地上へ落下していく。


「リカイン卿、我々が受け止めます、スカイサラマンダーから飛び降りて下さい!」


 バルザゴール隊長は落下地点へ移動して懸命に手を伸ばすがリカインは首を横に振って言う。


「私は駆け出しの頃よりこのスカイサラマンダーと生死を共にしてきた。ここでこやつを見捨ててひとりだけ生き延びる事などできようはずもない」


「リカイン卿! いけません!」


「案ずるな。まだこんな所で死ぬつもりはない。そうだろう、スカイサラマンダーよ!」


「ギュオオオオオオオオオン!」


 リカインの言葉に呼応するようにスカイサラマンダーの咆哮が響き渡る。


「そうだ、お前はまだ力を出し切ってはいない」


 地上すれすれでスカイサラマンダーは最後の力を振り絞って翼を羽ばたかせる。

 その直後ズシーンという落下音と共に、地面が大きく揺れた。


「リカイン卿!」


 バルザゴール隊長が落下地点へ下り、確認をする。


「ははは、だからまだ死ぬつもりはないと言っただろう」


「おお、よくぞご無事で!」


 スカイサラマンダーとリカインは全身に大怪我を負いながらも生きていた。

 だがあの怪我ではこれ以上戦う事は不可能だ。


 俺達はリカインの介抱をバルザゴール隊長に任せてフレガータと対峙をする。




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