第49話 大空へ出撃
リーディアの予想外の返答に、周囲がざわつく。
俺もその中の一人だ。
原作では本人を含めてリーディアの王都行きを反対する者はほとんどおらず、せいぜい父親がゴネる事がある程度でシナリオはとんとん拍子に進む。
リーディアはヘステリア程ではないが善悪ポイントの初期値が高く、王国民の為となれば喜んで力を貸してくれるキャラクターのはずだ。
まず一番最初に正気に戻ったリカインがリーディアを怒鳴りつける。
「リーディア! 殿下直々の要請に対してお断りしますとは一体どういうつもりだ!」
それに対しリーディアは毅然とした態度で答える。
「お父様、魔王軍はここルシエールの襲撃準備を進めています。町の皆を置いて王都へは行けません」
「ぐ、ぐむう……」
町の為と言われればリカインもそれ以上強く言えない。
母ローゼの指導もあり、リーディアはこの時点で既に聖女の力の片鱗を見せている。
ヘステリア程ではないがリーディアは現時点でも封印の力、結界の力、破邪の力を使いこなす事ができる。
彼女がこの町からいなくなれば、この町の防衛力は一気に低下してしまう。
魔王軍は決してそれを見逃さないだろう。
だが逆にいえば、この付近から魔王軍がいなくなればリーディアは王都行きを断る理由がなくなる訳だ。
アレス殿下は椅子から立ち上がって言った。
「分かった、ならば一刻も早くこの付近の魔物どもを駆逐しよう。リカイン、すぐに戦支度をしてくれ」
「はい、ルシエールが誇る飛兵部隊でこの付近の魔王軍を一掃してみせましょう。誰か、殿下達に飛竜と天馬を!」
「ははっ」
屋敷を出て庭に出ると、リカインの部下達が竜と天馬を引き連れてきた。
「ほう、これは見事な……」
原作ではリカイン侯爵はレベル90相当のキャラだ。
クラスは竜騎士で、空中での戦いを得意としている。
そして彼が騎乗するのは飛竜と火竜の混血で、空を飛びながら炎を吐く事ができる珍しいドラゴンだ。
その名をスカイサラマンダーという。
リカイン侯爵ならば並の魔獣に後れを取る事はあるまい。
「殿下は飛竜の扱いにも長けておりましたね」
「ああ、問題ない。だがヘルメスとテーセウスは飛竜に乗って戦った経験はなかったな」
「はい、申し訳ありません」
「騎馬でしたら自信があるのですが」
俯く二人に対しリカインは天馬を指差して言う。
「ならばお二人はこちらの天馬にお乗り下さい。陸と空の違いはありますが、扱い方に大差はありません。上昇、下降時に通常の騎乗とは異なった脚による指示を行う必要がありますが、すぐに慣れるでしょう」
「承知した」
「どれ、やってみよう」
ヘルメスとテーセウスの二人は天馬に跨ると、リカインの指導通りに天馬を扱ってみせる。
「ほう、初めてにしては上手いものだな」
「リカイン卿の指導が良いんですよ」
これでヘルメスとテーセウスも戦えそうだ。
そしてヘステリアはルシエールの主力部隊が出撃している間、町全体に結界を張って市民を守る為にここで待機する事になった。
残るは俺とユフィーアだ。
「マール様、私達はどうしますか? 私も飛竜に騎乗しての戦闘経験はありますから、出撃しようと思いますが」
「俺は飛竜に乗った事はないな。かといってそもそも馬にも乗った事がないから当然天馬に乗って戦う事もできない」
「それではヘステリアさん達とこの町で待機していますか?」
「うーん……」
俺は原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドのフレガータ戦を思い出す。
原作ではフレガータの飛行速度についていく為に、主人公は世界最速といわれる彗星竜メッサーコメートを手懐け、それに騎乗して戦う。
メッサーコメートは世界の果てにある島に棲息しているが、今からそこへ向かったとしたら何ヶ月かかるか分からない。
ならばメッサーコメートなしでフレガータと戦うしかない。
しかしフレガータはスカイサラマンダーよりもずっと速く飛び回る事ができ、恐らく今の彼らではメッサーコメートの力なしでは奴の動きを捉える事すらできないだろう。
正攻法で勝てないのならバグ技を使うしかないな。
つまり俺の力が必要になるはずだ。
俺は意を決して自分も行く事を伝える。
「しかしマール様は飛竜にも天馬にも乗れないんですよね。どうされるおつもりですか?」
「そこが問題なんだよね。どうしよう」
「うふふ、じゃあこうすればいいですよ」
リーディアがニヤニヤしながら前に出てきて丈夫そうな縄を差しだす。
「これで二人の身体を括りつければ一頭の飛竜に相乗りできますよね?」
「は? いくらなんでもそれは無茶苦茶……」
「いいからいいから。ほらマールさん、ユフィーアさんの背中に掴まって」
「お、おい……」
リーディアは俺を無理やりユフィーアの背中に掴ませると、手にした縄で俺達を括りつけていく。
「痛い、強く縛りすぎだ!」
「これくらいきつく縛らないとダメです。振り落とされたらどうするんですか」
「うう……」
密着させすぎだろ。
息を吸うと、ユフィーアから良い匂いが鼻の中に入ってきた。
スーーーーー。
俺は思わずもう一度鼻で深呼吸をする。
「いい……」
……いかんいかん、これじゃただの変態だ。
俺はユフィーアに匂いを嗅いでいた事を気付かれないように、強引に話題を振る。
「悪いなユフィーア、きついと思うけど我慢して欲しい」
「い、いえ……私は一向に構いませんから。マール様はしっかりと掴まっていて下さいよ」
「お、おう……じゃあ失礼して」
よし、ユフィーアの反応は普通だ。
気付かれていないな。
俺は変なところを触ってしまわないように慎重にユフィーアの脇の下から手をまわしてお腹の辺りでしっかりと自分の両腕を掴む。
ユフィーアの身体はとても柔らかい。
少し油断をすると理性が吹き飛びそうだ。
落ちつけ俺。
無心無心。
「ヨシ、これで完了です!」
そう言ってリーディアは俺の背中をパチンと叩いた。
不意を突かれて俺の体勢が崩れる。
「な、何すんだお前!」
「うふふ、ごめんなさいね。お礼はいりませんから」
「何のお礼だ!」
リーディアは手をひらひらさせながら屋敷に戻って行った。
まったくもう、何なんだあの娘は。本当に彼女に聖女としての素質があるのか自信がなくなってきた。
「あの、マール様。掴むならもう少し下の方を……」
「え……うっひゃあ」
さっきリーディアに叩かれたショックでユフィーアの身体を掴む俺の手の位置が上の方にずれていた。
◇◇◇◇
ルシエール飛兵部隊の出撃準備も終わり、いよいよ出撃の合図を待つだけとなった。
「リカイン卿、空中戦の経験は貴様が一番だ。指揮は任せる」
「心得ましたアレス殿下」
リカインはスカイサラマンダーに騎乗すると兵士の前に移動して号令をする。
「全軍出撃! 目標は魔王軍四天王のひとり、怪鳥フレガータの首だ!」




