第39話 決着
「リリィ、私はここです」
突然リリエーンの背後に現れたユフィーアは、彼女を羽交い絞めにする。
「なっ、いつの間に!?」
「これだけ密着していれば燃える斧による攻撃はできませんよね。自分も焼いてしまいますからね」
「くっ」
リリエーンは何とか抜け出そうと暴れるが、ユフィーアの馬鹿力の前に振り解く事ができない。
「解説のマールさん、ユフィーア選手はどうやってリリエーン選手の背後に回ったんでしょう?」
「そうですね……恐らくぬかるんだ足元に魔法で穴を開け、そこを掘り進んだのでしょう」
「なるほど、まるでモグラ……いえ、ムツゴロウのようですね。ユフィーア選手はこの後どのような攻めを見せますでしょうか?」
「ユフィーア選手としてはここでリリエーン選手を逃がす訳にはいきません。距離を取ったらまた燃える斧の攻撃に晒される訳ですから。このまま一気に勝負をつけるつもりでしょう」
「はい、ありがとうございました。それでは闘技場の二人に注目しましょう」
ユフィーアはリリエーンを羽交い絞めにしたまま後退りをする。
「先程電撃魔法は効きませんでしたね。炎魔法や冷気魔法では自滅の恐れがあります。ならば……」
「な、何をするつもりじゃ!?」
「しばらく付き合ってもらいますよ。えいっ」
次の瞬間、二人の姿が沼の中に消えた。
「解説のマールさん、あそこにユフィーア選手が掘り進んできたトンネルがあるんですね」
「その通りです。ユフィーア選手は水没したトンネルの中でリリエーン選手を溺れさせるという作戦でしょう。ユフィーア選手は潜水も得意ですので20分は潜っていられます。あそこから脱出できなければこれで決まりでしょう」
「それはまたえげつない作戦ですね……」
「ええ、ユフィーア選手は味方にすると頼もしいですが、敵に回すと本当に恐ろしい人ですからね」
俺は原作でのユフィーア関連のイベントを思い出す。
冒険者ギルドの調査不足により、受注した護衛クエストの対象が実は犯罪組織の幹部だった事がある。
それを追っていたユフィーアと激突する事になるのだが、ユフィーアはホラーゲームに出てくる殺人鬼のように、四六時中ありとあらゆる手段で護衛対象の首を獲りに来る。
最後にユフィーアの追撃を振り切って一安心、依頼達成……というところで突如上から現れたユフィーアに護衛対象は斬られてしまうというオチなのだが、その恐怖心を煽る演出も手伝ってユフィーアの事がトラウマになったというプレイヤーも多い。
試しにとあるホラーゲームの怪人の3Dモデルをユフィーアに差し替えてみたというプレイヤーもいたが、全く違和感がなかったそうだ。
二人が沼の底に沈んでから1分、2分と時間が過ぎていく。
まだ二人は浮上してこない。
そろそろ危険だ。
闘技場脇で待機している医療スタッフと回復魔法使い達も飛び出す準備をしている。
その時だった。
コロッセオ中に爆発音が響いたと同時に、闘技場の地面が吹き飛んだ。
闘技場の中央にはぽっかりと穴が開き、飛び散った泥水がその穴の中に流れ込んでいく。
そしてその中央にぷかりと浮かんでいるユフィーアとリリエーンの姿があった。
二人は全く動かない。
「解説のマールさん、これは一体どういう事なんでしょう?」
「状況から判断すると、ユフィーア選手を振り解く事は不可能と悟ったリリエーン選手が、一か八かで爆裂魔法を放ち、自分達もろともトンネルの天井をぶち破って脱出を試みたみたいですね。結果はご覧の通りです」
レフェリーが泳いで二人に近付き状況を確認すると、二人は完全に気を失っている。
レフェリーは立ち泳ぎをしながら両手でバツ印を掲げる。
ダブルノックアウト、試合終了だ。
二人は直ちに医療スタッフに担がれて医務室へ送られた。
彼女達が闘技場から退場した後もしばらくは観客席から熱闘を称える惜しみない拍手と声援が送られた。
俺は実況席を後にして医務室へ移動する。
医務室では泥まみれの二人がベッドの上で仰向けに横たわっていた。
ベッドの横では回復魔法使いが二人に回復魔法をかけている。
俺は魔法の袋からエリクサーを取り出しながら二人の容態を聞く。
「命に別状はありませんよ。気絶しているだけですね」
「そうですか、よかった」
あの爆発で気絶してるだけとか、この二人どれだけ頑丈な身体をしてるんだ。
あれか、筋肉か?
筋肉は全てをソリューションしてくれる的な?
もちろん二人は見た目的にも特別筋肉質という事はない。
リリエーンに至っては見た目は何処にでもいる普通の少女だ。
どさくさに紛れて二人の二の腕辺りをそっと触ってみたが、柔らかい普通の人間の肌触りだった。
「今から泥だらけのお二人の身体を綺麗にしますから、殿方は席を外して下さい」
「あっはい」
俺は女性スタッフに医務室から追い出され、待合室で二人の目が覚めるのを待つ。
ユフィーアは王家の墓での雪辱を晴らす事に全てを懸けていたようだけど結果は引き分けだった。
ああいう事を結構気にする性格なので、この引き分けという結果をどう受け止めるのか全く予想できない。
もしもの時は俺がうまくフォローしてあげないと……
そんな事を考えていると、フェイバーレインら人化した魔獣達が待合室にやってきた。
「これはマール殿。先程は素晴らしい試合でしたね。あのお身体が弱かったリリエーン様もあんなにお強くなられて……。サブナック王家の秘術によって眠りについた者が目覚めた時の状態は、その時詠唱した覚醒の呪文に左右されます。よほど強力な呪文を使われたのですね」
「ああ、俺が知る限り一番強力な覚醒の呪文を唱えさせて貰ったよ」
本当はあの覚醒の呪文しか覚えてなかっただけだけどね。
「マール殿には大きな借りを作ってしまいましたな。我ら108名、このご恩はいつか必ずお返しすると約束しましょう。我らの力が必要な時は声を掛けて下さい」
「それは助かる。もしもの時は宜しく」
魔獣達とおしゃべりをして時間を潰していると、医務室の扉が開いて二人が出てきた。




