第31話 壁はぶち破るもの
俺とユフィーアは屋敷の入り口まで戻ってきた。
「ユフィーア、食堂はここから見てどの位置にあった?」
「えーと……正面を20メートル程進んで、左の廊下をまっすぐ……この辺りです」
ユフィーアは食堂があった場所を方眼紙に赤ペンで囲む。
「なるほど、じゃあそこを目指そう」
俺とユフィーアは再び屋敷のダンジョンの中に入ると、食堂があった場所を目指して迷路を進む。
幸いこのダンジョンには魔物は出てこないようで、食堂があった場所の近くまではスムーズに進む事ができた。
しかし、肝心の食堂の内部に辿りつけない。
方眼紙に描かれた地図を確認するが、食堂だったスペースは完全に壁に囲まれている。
バグったダンジョンの中だ、食堂のスペースへの入口がない事も充分考えられる。
入口がないなら、バグ技を使えば良い。
俺は王家の墓で使用した壁すり抜けのバグ技を試してみる事にした。
食堂のある方角の壁に向かってジャンプをし、壁にぶつかる瞬間に装備している盾を外す。
その瞬間に位置座標がぶれて壁をすり抜け、向こうに出られるはずだ。
バコン。
鈍い音と共に、俺の身体は後方に弾き飛ばされる。
バグ技が失敗したのではない、この壁が厚すぎてすり抜けられなかったのだ。
「マール様、大丈夫ですか?」
「いたた……でも大丈夫、怪我はしていないよ」
それにしても壁抜けができないとなるとどうやって内部に入ればいいんだろう。
色々試してみるしかないな。
「ひょっとするとなにか仕掛けがあるかもしれない」
秘密のダンジョンは別名謎解きダンジョンとも呼ばれ、プレイヤーの行動によって隠し通路が出現する事もある。
目に見える形のスイッチがあれば話は早いが、その仕掛けが発動する条件は多種多様だ。
フロア内の敵を全滅させたり、並んでいる燭台に火を灯したり、一つ目の怪物の姿をした石像の目玉を矢で射ぬいたりと、様々なパターンがある。
俺とユフィーアは手分けをして近くに怪しいものがないか探してみたが、それらしきものは何もない。
どこまでも変わり映えしない石造りの壁が続く殺風景なダンジョンだ。
どうやら外れだったらしい。
仕掛けも見つからないのなら強行突破だ。
「ユフィーア、この壁を破壊できるか?」
「やってみます。……破壊魔法、ヘヴンズデストロイヤー!」
ユフィーアは壁に向けて魔法を放つと、爆音とともに辺りには爆煙が充満する。
「ごほっごほっ……やったか!?」
「いえ……ダメみたいです」
壁には傷一つついていない。
原作でも、ダンジョン内でどれだけ強力な魔法を放っても壁が壊れる事はなかったので予想通りではある。
魔法がダメなら物理で殴ればいい。
俺とユフィーアは魔法の袋からハンマーを取り出して壁を叩くが、ドンドンと鈍い音を立てるだけでひび一つ入らない。
どれだけ頑丈に作られてるんだよ。
諦めて他の方法を探そうとした時、ユフィーアがある違和感に気付いた。
「マール様、ここを叩いた時だけ音が違います」
そう言ってユフィーアが壁を叩くと、キンッと高い音が鳴った。
「ここだけ壁の材質が違う……? ひょっとして」
俺は魔法の袋から爆薬が詰め込まれた球状の魔道具を取り出してその壁の前に設置する。
所謂バクダンだ。
「ユフィーア、あの球に火をつけてみて」
「はい、危険なので後ろに下がっていて下さい。行きます、炎魔法セラフィムフレイム!」
俺はユフィーアが張った結界の後ろに退避しているので爆発に巻き込まれる事はない。
バクダンに火が付いた瞬間、爆発の閃光で目の前が真っ白になる。
ガラガラガラ……
テレレテレレレ♪
壁が崩れる音に続いて、原作で仕掛けを解いた時に鳴る効果音が響いた。
視界が戻ると、先程壁だったところにはぽっかりと穴が開いている。
どうやら正解だったらしい。
「さあ中に入ろう」
俺とユフィーアはがれきをかき分けて食堂の内部に進入する。
「お父様、お母様、どこですか?」
「う……」
微かに呻き声が聞こえる方向を松明で照らすと、数人の男女が床に倒れているのが見えた。
「お父様! お母様! それに皆さんも……」
「ユ……ユフィーアか。どうしてここに?」
「お父様、話は後です。まずはここから出ましょう」
ユフィーアは父と母、そして気を失っている使用人数人をまとめて担ぎあげ出口へ向かう。
「これ以上担ぎきれません。マール様、そちらの人を頼みます」
俺は残っているひとりの男性を背負って歩く。
ひとりでもこの重さだ。
いつもながらユフィーアの馬鹿力には驚かされる。
来た道を戻り地上へ向かって歩き続ける俺とユフィーア。
しかし、先行するユフィーアの足が曲がり角で止まった。
「どうした、ユフィーア。さすがにその人数を担いで歩くのは無理があったか?」
「いえ、それは全然大丈夫なんですけど、道が無くなっています」
「道が? 天井でも崩れて塞がってるのか?」
「いえ、そうではなくて、何も無いんです」
ユフィーアの言ってる意味が分からないので、俺は曲がり角まで進みその様子を見る。
「本当だ……道が無い」
ここから出口までは曲がりくねった道が続いていたはずだが、迷路を形成していた壁が一切なくなって広々とした空間が出来上がっていた。
その真っすぐ先には出口から外の光が差し込んでいる。
「な、何だこれ……」
その光景は、最初にこのダンジョンに潜った時に見た果てのない空間と同じだ。
「ダンジョンの形が変わったのか? これもバグ……? 待てよ、ひょっとして……」
「シャァァァァ……」
その時、何かの声が聞こえてきた。
「マール様、あそこに何かいます!」
「あ、あれはまさか……」
俺は視線の先にいる魔獣を攻略サイトの掲示板で見た事がある。
あるプレイヤーがゲームのデータを解析したところ、本編に登場しない双頭の蛇の姿をした魔獣のデータが見つかった。
ワールドイーターという名前が付けられたその魔獣は悪食で、文字通り世界そのものを食べつくしてしまう恐ろしい魔獣だ──という説明文がそのデータの中に見られたそうだ。
「そうか、このダンジョンの中に不自然に広がっている空間は、こいつがダンジョンそのものを食べながら徘徊していた跡か」
バグったダンジョンなら未登場の魔獣が出てきても不思議ではない。
「マール様、あの化け物がこちらに気付きました。……来ます!」




