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第18話 無い物は頂戴しよう

 クルー達は港をぐるっと回って探すが、貨物船は見当たらない。


「一体どういう事だよ……俺達が余所見をしている間にクラーケンに沈められたとでもいうのか?」


 トリトン船長はショックのあまり放心状態になっている。

 他のクルーに話を聞くとほんの10分程前までは間違いなくそこに停泊していたそうだ。


 そんな短時間で船が一隻丸々消えるはずがない。



 ……いや、あったわ。



 原作でひとつ思い当たるバグがある。

 オブジェクト消滅バグだ。


 ゲームではメモリ容量の都合上、一つの画面に表示できる物体(オブジェクト)の数には限界がある。

 その為、オブジェクトの数が限界に近付いた時に()()()()()()()()()()()()()()から順番に削除されていくのだ。


 その際オブジェクトの大きさは考慮されない。

 ポーションの瓶だろうが巨大な貨物船だろうが、それぞれ一つのオブジェクトと見なされる。


 これだけ見るとゲームの仕様でありバグではないと思われるかもしれないが、厄介な事にゲームの進行に影響する重要アイテムですら平気で消滅するからたまったものではない。

 削除されるのはあくまで()だけであり、生き物が消える事はないのがせめてもの救いだ。


 使用中のアイテムだったり、誰かの視界に入っているオブジェクトは消滅する事はない。

 船長を含め、クルー達が全員船から目を離したタイミングで消滅しているので、原因はこのバグで間違いはないだろう


 クラーケンの出現によりラマーゼン諸島へ向かう便はめっきり減っている。

 普段なら数回に分けて運ぶ量の荷物をまとめて船に詰め込もうと一ヶ所に集めた事でオブジェクト数の限界に達してしまったんだろう。


 原因が分かっても、船がなければこのクエストは始められない。

 折角ここまで来て手ぶらで帰るのも嫌なので、俺は一つの提案をする。


「トリトンさん、そんなに気を落とさないで下さい。俺が新しい船を用意しますから」


「新しい船って……あんた船一隻がいくらするか知ってるのか? あんたら冒険者が一生働いたって届く金額じゃないぞ」


 もちろんそんな事は知っている。

 原作でも船を買うには王族や豪商などのスポンサーを見つけなければならない。

 俺が陛下から貰った旅の資金では全然足りないし、俺に金持ちの知り合いもいない。


 だからただで手に入れようと思う。


「今から船を調達してくるので、皆さんはここで休んでて下さい」


 俺はクルー達にここで待っているよう言いつけると、ユフィーアを連れて港の北にある人気(ひとけ)のない海岸へ向かう。


「この辺りがよさそうだ」


 俺は海岸の目立つ場所に金貨やエリクサーの瓶をばら撒くと、物陰に隠れて様子を見る。

 その行動の意図が分からないユフィーアは当然の質問をする。


「マール様、何をしているんですか?」


「しっ、静かに。これは釣りだよ。大物が釣れるといいな」


「?」


 ユフィーアはますます分からないといった表情で首を傾げるが、俺の言いつけどおり黙って事の成り行きを見守っている。


 少しして、沖から大きな船が近付いてきた。

 その船体は鮮やかな桃色に輝いている。


「やった! 大物がかかったぞ!」


 間違いない、あれは大海賊シュガーネイ船長のピンクパール号だ。


 原作では船を手に入れる方法が二つある。

 先述したスポンサーを見つける方法と、もう一つは海賊の船を奪う方法だ。

 後者の方が一般的だが、海賊にもピンキリで大抵はボロボロのしょぼい船しか手に入らない。

 しかし偶にピンクパール号のような一国の軍艦にも引けを取らないレベルの船もある。


 海賊はその鼻で財宝の在り処を嗅ぎつけてそこへ寄ってくる性質がある。

 シュガーネイ船長は俺が海岸にばら撒いた金貨やエリクサーに反応してここへやってきたという訳だ。


「マール様。あの光り輝く船体、まるで宝石のようですね」


「そうだね、海賊達には勿体ない。俺達が頂戴しよう。いけるか?」


「はい、民の生活を脅かす海賊を斬る事に何の躊躇いもありません」


 シュガーネイ船長が海岸に上陸した瞬間を見計らってユフィーアが襲撃する。


「な、なんだてめえら!? うぎゃっ」


「て、敵襲ーっ! ぐはっ」


 海賊達は自分が何に襲われているのかを理解する間もなく次々と斬り捨てられていく。

 何百人といた海賊達はあっという間に半分程になる。


「てめえら何やってんだ。こんな小娘ひとりに泣く子も黙る桃色海賊団がなんてザマだ」


「お、おかしら! でもこいつとんでもない化け物でさ!」


「もういい、俺がやる!」


 桃色の海賊帽を被った髭面の大男がゆっくりと船から降りてきてユフィーアの前に立ちはだかる。

 右目を覆う眼帯と左腕に付けられた鈎爪。

 この特徴的な容貌は間違いない、こいつがシュガーネイ船長だ。


 シュガーネイ船長は海岸に転がっている子分の屍を踏みつけながら言う。


「俺の子分達が世話になったな姉ちゃん。海賊に喧嘩を売ってこのまま無事に帰れるとは思うなよ」


「あなたのお世話も必要でしょうか」


「嘗めやがって、死ねい!」


 シュガーネイ船長は手にした剣を下に構えたかと思うと、その脚力で一瞬にしてユフィーアの懐に飛び込み、逆袈裟に切り上げる。


 大海の桃色鮫と呼ばれるシュガーネイ船長の必殺剣技だ。


 しかしその剣は空を切る。


「遅いですね」


 いつのまにか背後に回っていたユフィーアが侮蔑の目でシュガーネイ船長を見下ろす。


「くっ、ならばこれならどうだ! 食らえ、桃色大津波!」


「もう斬っています」


「なん……」


 シュガーネイ船長が振り向いて大技を繰り出そうとした時には既に勝敗は決していた。

 その身体が裂けて鮮血が飛び散る。


 降り注いだ赤い血は白い砂浜と混ざり合って辺りは鮮やかな桃色になっていた。


「おかしらがやられた!」


「もうだめだ、逃げろ!」


 海岸に上陸していた海賊達は我先にとピンクパール号に戻り、錨を上げて沖へ逃げようとする。


 しかし残念ながら俺達の狙いはそのピンクパール号なんだ。

 それにユフィーアは海賊に対する一切の情けを持っていない。

 ユフィーアはピンクパール号に飛び乗ると、海賊達を手当たり次第斬り捨てていく。


 憐れにも海賊達はひとり残らず魚の餌になってしまった。


「ユフィーアは容赦しないな……」


 さすがの俺もちょっと引いた。


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