6がつ7にち 晴れ (相対性理論とかそんな日)
6がつ7にち 晴れ (相対性理論とかそんな日)
「た、高い・・・」
思わず呟いてしまう。
私の趣味は一つに、インスタントコーヒーをブレンドして飲むというのがある。
ネスカフェ、ブレンディ、マキシムなどの有名所から、特定のコンビニや商店にしか置いていないような無名品まで、その日の気分でブレンド。
『味なんか分かんないくせに』とか『ミルクと砂糖を入れないと飲めないくせに』とか言われるけど、気にしなーい。
ブレンドして飲むという行為にこそ意味がある。
そうゆうのが好きなら、焙煎とかドリップをやってみたらとも言われるが、分かってはいない。
そうした本格的な事をやっている人は多数いる。
私はあえて、誰もやらないようなインスタントコーヒーのブレンドをやるのだぁ。
これこそ、マイノリティ。
そんな趣味というか生き様に、物価上昇が直撃したわけですよ。
ちょっと前はセールをよくやっていて、300円台半ばだったのに、品薄からか安売りせずに500円台。
「はふぅ・・・」
手に取り、棚に戻し、手に取って、ひっくり返し、棚に戻し、ガッと掴んで、ちょっと振ってみちゃったり―――
「こんにちは」
「うわぉぅ」
自分でも怪しげな行動をしているかなと思っていたところに、突然声を掛けられ奇声をあげてしまった。
乙女に恥ずかしい声を上げさせたぬしは、親しげな口調から顔見知りかと思ったら、見ず知らずの・・・犬。
「・・・・・・・」
「こんにちは」
こちらが黙っていたら、再度挨拶してきた。
「犬・・・だよね」
「ええ、見ての通りです」
「ミニチュア・ダックス?」
「よくご存じですね」
「犬がシャベッタアアア」
「・・・話してはいけませんか?」
「いや、別に。テンプレのセリフを言う場面かなと思って」
「?」
理解できなかったのか、不思議そうに首をコクリと傾けている。
犬は普通話さないけど、話しては駄目かと問われれば、そんなことは全くない。
「飼い主さんは?」
「僕は、誰かに飼われているペットではありません」
「えっ、そうなの」
首輪こそ付けていないものの、服を着せられリュックまで背負わされた姿はノラには見えないが・・・。
「マロと申します」
「あ、沙奈です」
変なタイミングで自己紹介され、こちらも慌てて名乗る。
完全に、イニシアチブを握られているな。
「良い名前ですね」
ナンパみたいなセリフだな。
まぁ、いくら妙齢の独身とはいえ犬に口説かれても仕方ないけど。
「ありがと。由来はしょーもないんだけどね。それで、どうしたの?」
「すみません。手を貸していただきたいのですが、お時間はありますか」
ふむ。
用事はあるにはあるのだが、喋る犬の頼みを断ってまでこなすほど大事ではないな。
「大丈夫だよ。何をするの?世界を救うとか?」
「えっ。お姉さんにはそんな力があるのですか?」
「ございません。ただのフリーターです」
ちなみに犬と話しているからといって、ブリーダーと掛けて上手いこと言ったわけではないです。
「それで、頼みというのは何かな?先に言っておくけど、ウチはアパートだから飼ってあげられないよ」
「そうだったら、もう少し人を選びます」
「なっ―――」
「そうではなくてですね。ボース猫を捕まえるのを、手伝って欲しいんです」
「坊主?」
「いえ、お坊さんは関係ありません」
「ふーん。あんまり可愛くない名前ね」
「いえ、名前というか種類です」
シャムとか三毛みたいなもんか。
「ボゾンの性質なので、そう呼ばれています」
ボース?
ボゾン?
性質?
えっ、それって・・・
「フェルミオンとボゾンのボゾン?」
「そうです」
量子力学において、この世界のモノは二つに分けられる。
フェルミオンとボゾン。
通常の物質はフェルミ粒子、フェルミオン。
空間を占有する性質を有している。
えーと、つまり部屋に冷蔵庫が置かれていると、そこと同じ場所にはタンスを置けないよね。
一つの空間に、2つのモノは同時に存在できない。
まぁ、当然の話なんだけど。
これはフェミニオンの性質で、これをパウリの排他律というの。
それに対して、ボゾンは一つの空間にいくらでも詰め込めるモノ。
代表的なのは光。
そう聞くと当たり前の話みたいなんだけど。
ではなにがフェルミオンでなにがボゾンの性質を決定しているのかというと、それぞれの粒子のスピンが半正数倍(1/2、3/2,-1/2など)か整数倍(1,2,0など)かという違いなのだが、とりあえずその話は置いておこう。
「ボゾンで出来た猫を捕まえられるの?網とか使ってもすり抜けちゃうでしょ」
「方法はありますから、大丈夫です」
おっ。
今までのややオドオドした感じと変わって、ちょっと胸を張って自信ありそうだ。
「ふーん。、まぁいいや。それで、ボース猫はどこにいるのカナ?」
「どうやら、店内にはいないようですね。出ましょう」
「それじゃあ、買い物してくるね」
「エッ―――」
「買い物。その為に来たんだから」
「あの、猫が逃げ―――」
「今日の特売品、現定数少ないから」
バッグから、折り畳んだ広告を取り出し改めて赤丸を付けておいた商品をチェック。
ちゃんと研究しているんだよ。
良い奥さんになりますよ、まだ見ぬ未来の旦那さま。
「そ、そう・・・ですよね。あの、なるべく早く買い物してきてください」
文句を言って、手伝うのやめたと言われるのが怖いのか、弱気だ。
シッポも股の間に入り込んでいる。
落ち込んでいる表情もなかなか可愛いけど、さすがに可哀想。
希望通り早めに買い物を済ませる為に、店の入り口で待っていてもらい、一人で買い物を再開。
「お待たせーっ。んもう、大収穫」
両手一杯の買い物袋を提げホクホク顔の私を出迎えたのは、正反対の呆れ顔。
「・・・あの、お姉さん・・・」
「ん。何かな、何カナ?」
「・・・いや・・・いいです」
ごめんね。買い物に夢中になりすぎて、気付いたら一時間以上経っていたよ。
心の中で謝りながらも、朗らかな表情で受け流す。
あんまり見つめてくれるな。
目が泳いでしまうじゃないか。
「さてさて、ボース猫はどこにいるのかな?バンバン捕まえちゃうぞー」
「・・・・・・・」
開き掛けた口を閉じ、なにかを諦めた表情をして顔を右に向けた。
「あっちに公園があるんですが、ボース猫はそこにいます」
その公園なら良く知っている。
近所だから、気分転換したいときなどにちょくちょく出かけている。
それ程大きくはないけど、周囲には木々が植えられて都会・・・ではないな、田舎の喧騒から隔離されたオアシス。
静かにボーッとしていられ、居心地が良い。
以前、あまりにも通いすぎていたため、公園の主と呼ばれていたのは内緒だ。
「ところでさ、どうやってボース猫を捕まえるの?」
公園へと向かいながら、やや前方を歩くマロ君に問いかける。
傍目には、犬の散歩をしているように見えているかな?
近所のおばちゃんとかに、ちゃんとリードを繋げなさいとか言われたらどうしよう。
紐みたいなのは何一つ持っていないからなぁ。
抱いて移動しないといけないかも。
私、飼い主じゃないんだけど。
ところで、先程からマロ君がジタバタしているんだけど。
身をよじったり、仰向けになったり。
あ、やっぱり男の子だね。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・リュックを降ろしていただけませんか?」
うん、何しようとしているか薄々気付いていたけど、藻掻いている姿が面白―――もとい、可愛かったので黙ってみてた。
「よいしょっと」
足を引き抜き取り外す感じで、手の中にすっぽり入ってしまう小さなリュックを降ろすと、マロ君の前に置いた。
チャックを口にくわえ、前足で押さえつけて開けると、中に顔を突っ込み何度かブルブル振っている。
まるでゴミを漁る野犬。
やがて、目的のモノを見つけ引っぱり出してきた。
棒?
長い。
既にリュックの大きさを越え、まだまだ伸びているが驚くには値しない。、
猫型ロボットでさえ四次元ポケットを持っているのだから。
喋る犬が四次元リュックを背負っていたっていいじゃない。
それはともかく、姿をあらわしたのは長さ120cmの棒の先に直径30cmほどのわっかの付いた代物。
人はそれを、虫取り編みと言う。
違うのはわっかの部分に透明の膜みたいなのが張ってある事。
それとネットが黒いビニールみたいのに代わっている事。
「こんなので捕まえられるの?」
「ええ、その膜みたいなのがシュバルツシルト障壁です」
「シュバルツ・・・って、事象の地平線の?」
「そうです」
ブラックホールはご存じでしょう。
巨大な質量が引力によって限界以上に凝縮され『重力崩壊した領域』で、宇宙にあるなんでもかんでも吸い込んじゃうシロモノだ。
その吸引力は凄まじく、光さえも飲み込んでしまう。
有名すぎるので、あらためて説明するのもなんだか恥ずかしいが。
ではでは、今話題にのぼっているシュバルツシルト障壁はなんぞ、と。
アインシュタインの一般相対性理論は、時空の歪み、重力などの理論。
ちなみに相対性理論には、一般相対性理論と特殊相対性理論がある。
文字だけみると、一般よりも特殊の方がなんか凄そうだけど。
簡単なのは、特殊の方。
重力変化などを考慮しない特殊な空間での理論に対して、様々な要素を考慮し現実に即したものが一般だから。
一般相対性理論の中でシュバルツシルトという人が、質量が大きく回転をしていない天体の周囲に適用される解を導きだしたの。
シュバルツシルト解によると、ブラックホールの中心からある距離まで近づいたところで光すら脱出出来なくなる。
さらには、時間すらも停止する地点が導きだされる。
それが、シュバルツシルト障壁。
光すら抜けられない、そこから先の空間から情報の伝達が不能なことから『事象の地平線』とも呼ばれる。
えーと。
事象の地平線についても、もうちょっと説明するね。
まず前提として、この宇宙で光が一番早いということを知っておいてね。
光が最速。
光よりも速い物など存在しない。
相対性理論による、物理学の常識。
科学の世界は日進月歩で、もしかしたら今後新たな発見や理論が見つかるかもしれないけれど。
光が最速。
こう言ったりネットなどに書き込まれると、たまにドヤ顔で『タキオン』と言って反論してくる人がいるけど。
確かに、タキオンは光よりも速い粒子・・・とされている空想の産物。
物理学者のジェラルド・ファインバーグは理論上ありえる光速を超える粒子にタキオンと名付けた。
もし、光よりも速い物があったらどういう現象がおこるのか。
実際にはありえないので、器具など使った実験などは出来ないけれど。
人には想像力がある。
世界中の学者や様々な人達が、理論を踏まえたうえで思考実験を行っている。
その際、光よりも速い物に人それぞれに名前を付けるのは混乱するだけなので『タキオン』という名前で統一した。
タキオン=光よりも速い物というお約束。
想像の産物である。
だから光が一番速いという話をしている時に、知識自慢をするかのようにタキオンと言われるとね。
例えるなら大谷翔平選手はメジャーリーグでも二刀流で活躍していて凄いなという話題の時、「でも孫悟空が野球をやったらもっと凄いし」と横入りしてくるようなもの。
話が脇道に逸れてしまったけれど。
しつこいようだが、光が最速だと理解してね。
さて、当然ながら情報伝達速度もMAXで光速。
真空中だと秒速299792458m。
どんな手段を講じようとも、これより早く情報を伝えることは出来ない。
そして、その光でさえもどれだけ時間をかけても到達しえない地点が幾つかある。
その一つが、ブラックホールの中。
光すら脱出しえない、異常な重力場。
つまりは、ブラックホールの中の情報は絶対に外に洩れない。
ブラックホールに近づいていくと、そこから先に進んだらあらゆる物質が引き返すことが出来なくなる地点。
ポイント・オブ・ノーリターン。
そこが、シュバルツシルト障壁だ。
そして、情報も遮断される。
故に、事象の地平線。
ブラックホールの中はどうなっているのという質問されたら、答えは『分からない』が正解。
ちなみに、事象の地平線となる現象はブラックホールだけではない。
だからシュバルツシルト障壁は事象の地平線だけど、
事象の地平線はシュバルツシルト障壁ではないよ。
ミニチュアダックスフンドは犬だけど、犬はミニチュアダックスフンドではないのと一緒。
目の前にこちらを見上げている、本当に犬なのか疑わしいミニチュアダックスフンドが居るけど。
「にゃるほど。どおりで膜のところが変な感じに見えると思った。空間が90度ねじ曲がっているんだね」
「触らないでくださいね」
「怖いなぁ。この黒い袋の中にブラックホールが入っているの?」
「ブラックホールの極々一部、一番はじっこを切り取って入れてあります」
「ちなみに、元のサイズは超巨大なブラックホールですから潮汐力は弱く、使い方を誤らなければそれほど危険ではないですよ」
「そっか。たしか潮汐力は距離の3乗に反比例するから、半径が大きければ大きいほど安全なんだっけ」
これだけ近くでもあまり影響を感じないなんて、めちゃくちゃでかいけど。
ボソンを、シュバルツシルト障壁に張り付けようという作戦ですか。
シュバルツシルト障壁なら、フェルミオンだってボゾンだって捕らえられる。
10分ほど歩くと、目的の公園の入り口に着いた。
途中、殆ど人とは擦れ違わなかったが、一度だけ小学生の群に遭遇。
犬が珍しい地域ではないが、好奇心旺盛の子供達にとっては恰好のおもちゃに見えるのだろう。
あっという間に囲まれた。
はてさて、どんな反応をするのかなと興味本位で見ていたが犬のふり―――犬なのだが―――をしてワンワン吠えシッポをブンブン振り、手を嘗めたりして乗り切っていた。
演技なのか本性なのかは分からないけど。
公園は、あまり人気はない。
ちょうどお昼時なので、公園デビューした奥様方も家にかえっているのだろ。
都合が良い。
公園の主と呼ばれる程度ならまだしも、網持ち猫追う奇異な人と見られるのはなんとか避けたいからねぇ。
「今、ボース猫はここから右奥の方の遊具エリアにいるようです」
「分かるの?」
公園は中央に向かうほど、盛り上がっている。
ヤンヤヤンヤと喝采があがっているとかではなく、もの凄く小さな山のようになっているという意味ね。
だから、中央まで行くと公園内を一望出来るが、入り口付近である今の位置からだと奥の方は見通せない。
「ニオイで分かります」
「おぉ、犬っぽい」
「・・・・・・」
「えっと・・・これからどうするの?ワーッて追いかけていって捕まえればいいのかな?」
「いえ、仮にも猫ですからすばしっこいですし。そうやって捕らえるのは困難かと」
「ふむふむ」
「公園を回り込んで反対側の入り口から入り、追い詰めてきますので、お姉さんはその辺の木立に隠れて待ち伏せしていてください」
「りょ~かい」
「ところでですね。お姉さん、運動神経は良い方ですか?」
「むっふっふ。なにを隠そう、学生時代ラクロス部―――の練習場に遊びに行き、『布団叩きの沙奈ちゃん』の二つ名を欲しいままにしたのだぁ」
「・・・期待していいのか悪いのか・・・」
「頑張るよ」
シャキン。
網を構え、格好良くポーズを決める。
「・・・・・・」
いささか不安気な顔のまま走り去っていく姿を見送った後、付近に植えてある木に歩み寄った。
買い物荷物は、入り口そばのベンチに置いておく。
置き引きなど滅多にない日本は平和だ。
比較的太い木を選んだけど、余裕をもって身が隠れるほどではないので、背筋を伸ばし横向きになり木と一体化する。
網を、甲子園の開会式入場の時にチーム名が書かれたプレートを持つ女子校生のように持つ。
うん、アヤシイ人物このうえないなぁ。
人に見られたくないなぁと考えていたら、子供が数人遠目で見てた。
小さく手を振ったら、ワッと叫んで逃げていった。
しばらく、この公園に来るのはよそう。
私の憩いの場が、一つ消えた。
ところでラクロスをやっている娘って、体育会系でありながら良いとこのお嬢様っぽいイメージがあるのはなぜだろう。
そんなたわいのない事なぞ考えていると、遠くから吠え声が聞こえた。
始まったみたい。
最初は徐々に、すぐに急速に近づいてくる。
ヒョイと覗いてみると…追いかけられているのはトラ猫。
しかも子猫。
カ~ワイイな~。
足は、マロ君のほうが速いみたい。
しかしボース猫はその特徴を存分に発揮し、障害物もなんのその。
すべてすり抜け直進してくるので、距離は縮まない。
再び隠れる。
手鏡だけをそっと出して、様子をうかがう。
スパイみたいだ。
うぅ、緊張してきた。
うわっ、きたきたーっ。
このままだと、右横2m位の位置を通り過ぎることになる。
目測3秒前から、心の中でカウントダウン。
3・・・
2・・・
1・・・
「とりゃあ」
叫んで木の陰から飛び出す。
タイミング、ドンピシャ―――だったのだが。
私のを目撃し方向転換、左脇をすり抜けようとしている。
「逃がすかぁ」
右方向に飛んでいた身体を反覆横飛びのように左に戻そうとして―――足下が滑った。
「うひゃぁ」
コケるぅ。
その時倒れていく目の前を、猫が通過しようとしているのが見えた。
必死に網を伸ばしながら、倒れ込んでいく。
「むげぅ」
地面との衝撃で肺がつぶれ、雑魚キャラがやられたような声が出た。
あいたた・・・
「大丈夫ですか」
走り寄ってきたマロ君が、心配そうに・・・網を覗き込む。
おぃ。
「ちょっとぉ、先に私の心配してよ。怪我はないですかとか、美しいお顔は無事ですか、とか」
埃を払いながら立ち上がる。
スカートじゃなくてよかったよ。
網は、と―――
「成功ね」
そこには、ボース猫が立体映像のように張り付いている。
コケる瞬間は目を瞑ってしまい、正直上手くいったのか分からなかったので一安心。
「やりましたねー」
ハイタッチをして喜び合いたいところだが、お手になってしまった。
祝杯をあげようと、荷物を置いていたベンチに網を立て掛け、横の自販機でコカコーラ・ゼロとマロ君用にアルプスの天然水を購入。
「えっと・・・ペットボトルから直接は飲みづらいよね。なんか受け皿・・・」
「あ、持ってます」
再びジタバタとリュックを降ろし、中から取りだしたのはフリスビー。
ひっくり返せば、お皿代わりになるね。
「もしかして、このフリスビーも秘密の機能が搭載されてたり」
「いえ、普通のフリスビーですが」
なんかリュックから出てくる品物は全て、ひみつ道具みたいなのかと期待してしまっていたので残念。
実はこれ、UFOです言ってくれると面白いんだけど。
どちらにせよ、容赦なくドボドボ水を注ぐけど。
ピチャピチャと飲み始めるのを横目に、コーラを開けベンチに腰を降ろそとした時、網に触れた。
ゆっくり、倒れていく。
倒れていく。
買い物袋の上に、倒れていく。
パサッ。
「ア~~~~ッ!!」
「ど、どうしたんですか?」
水を飲んでいたマロ君が、私の大声にびっくりして顔を上げた。
目がまん丸になっているが、そんなことはどうでもよろしい。
「か、買い物袋が、買い物袋が・・・」
「買い物袋が?」
「ブラックホールに吸い込まれたぁ」
「ええっ。あ、本当だ」
「うわーん。どうしよ、取り出せないの」
「事象の地平線からの脱出は、絶対に不可能ですから・・・。もしかしたら、ワームホールを通ってホワイトホールから出てくるかも」
「おぉ、光速よりも速く移動してタイムトラベルして、ってバカーっ」
私が嘆いたりボケツッコミをしたりしている間に、マロ君はいそいそと網を仕舞いリュックを背負う。
「今日はありがとうございました」
「私の食材・・・」
「ボース猫も、無事捕まえられました」
「1週間分の食材・・・」
「何も御礼が出来ませんが、せめてフリスビーだけでもお受け取りください」
「ポテチとポッキー・・・」
「とても楽しかったです。では、さようなら」
「晩酌用のわさび漬けと野沢菜ー!!」
マロ君は、とばっちりを避ける為にそそくさと姿を消しているし。
私の悲痛の叫びを聞く者などいなかった。