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【完結】妹として迎えた婚外子が、私から夫まで奪いました  作者: モーヒアス


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第一話 妹になったあの日

新しい連載始めます。

お付き合いください。

「お姉様、おはようございます!」


朝の光が差し込む侯爵家の食堂へ、小鳥のように弾む声が響いた。

振り向けば、淡い水色のドレスを身にまとった少女が、満面の笑みでこちらへ駆け寄ってくる。


「そんなに慌てると転びますよ、リリア」

「だって、お姉様と一緒に朝食を食べられるのが嬉しいんですもの」


そう言って私の腕へ抱きつく姿は、十年前と何も変わらない。


――リリア。


父が亡くなる直前、私へ託した腹違いの妹。

父が若い頃、一度だけ過ちを犯し、生まれた婚外子だった。

父は最期まで彼女の存在を隠していたが、病に伏したある日、震える声で私へ告げた。


「エレノア……あの子に罪はない。どうか……家族として生きられるよう力を貸してやってほしい」


母は激しく反対した。


「愛人の娘など、この家へ入れるつもりはありません」


当然だと思った。

正妻である母にとって、リリアは夫の裏切りそのものだったのだから。

それでも私は父の願いを受け入れた。


「悪いのは父です。この子ではありません」


そう言って幼いリリアの手を取った日のことを、今でも覚えている。

怯えきった瞳。

ぼろぼろの靴。

抱き締めるしかなかった小さな荷物。


「リリア、今日から家族よ」


そう言った瞬間、彼女は声を上げて泣いた。

あの日から十年。

読み書きを教えた。

ダンスを教えた。

礼儀作法も。

季節ごとに新しいドレスを仕立て、誕生日には宝石を贈り、一緒にお茶を飲み、笑い合った。

血は半分しか繋がっていなくても、私にとってリリアは紛れもない妹だった。


「お姉様?」

「ごめんなさい。少し昔を思い出していたの」

「またですか?」


リリアは困ったように笑う。


「私はあの時からずっと幸せです。お姉様のおかげで、今の私があります」

「そんなことないわ」

「あります」


真っすぐな瞳だった。

疑う理由など、一つもなかった。

食堂へ夫のアレクシスが入ってくる。


「二人とも、もう揃っていたのか」


バシード侯爵であり、私の夫。

三年前に結婚した彼は、穏やかで誠実な人だった。

少なくとも、私はそう信じていた。


「あなた、おはようございます」

「おはよう、エレノア」


彼は私へ微笑み、それからリリアにも視線を向ける。


「リリアも元気そうで何よりだ」

「はい、お義兄様」


義兄。

そう呼ぶたび、私は少しだけ嬉しくなった。

本当に家族になれた気がして。

三人で囲む朝食は穏やかだった。

最近収穫された果実の話。

来月開かれる夜会。

領地で採れた葡萄の出来。

他愛もない会話が続く。

食事を終えると、夫は仕事部屋へ向かっていった。


「今日もお忙しいのですね」

「ああ。王都での貴族会議が近いからね」

「無理はなさらないでください」

「ありがとう」


その背中を見送る。

その時だった。


「お姉様、少しよろしいですか?」


リリアが私の袖を引いた。


「どうしたの?」

「実は……」


少し言いづらそうに目を伏せる。


「最近、お義兄様がお疲れに見えるんです」

「そうかしら?」

「はい。お姉様には心配を掛けまいと無理をされているのかもしれません」


私は少し胸が痛んだ。

確かに最近、夫は帰りが遅い日が続いている。

仕事が忙しいのだと思っていた。


「今度、お好きなお菓子でも焼きましょうか」

「きっと喜ばれます」


リリアは嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、私は安心した。

優しい妹だ。

夫のことまで気遣ってくれている。

本当に、父の願いを叶えてよかった。

そう思った。

その日の午後。

私は執務室へ夫の好物の紅茶を届けようとした。

扉の前まで来ると、中から声が聞こえる。


「義兄様、こちらの書類です」


聞き慣れた声。

リリアだった。


「ありがとう。助かるよ」

「お疲れでしょう? 少し休まれてください」

「君は本当に気が利くな」


私は微笑んだ。

仕事を手伝ってくれているのね。

ありがとう、リリア。

そう思いながら扉をノックしようとして――やめた。

忙しそうだから、後で渡そう。

静かに踵を返す。

その時、部屋の中でふっと笑い声が重なった。

楽しそうだな。

それだけ思って歩き出した。

この時の私は、まだ何も知らなかった。

あの笑い声の意味も。

そして、自分が最も信じていた二人に裏切られていることも。


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