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母さんは、満面の笑みで、力強く、両手で中指を突き立てていた。

初めまして。初の投稿となります。

キタローです。本作を開いて頂きありがとうございます。

大昔、全然別の作品を新人賞に応募したことがありまして、その際「キャラ同士の掛け合いはそれなりに書けてるね。でも世界観や主人公たちの目的がよくわかんない」

そんな総評を頂いて、次はとにかくテンポのいい、わかりやすいものを書こうと思い、本作を執筆しました。

そこで目を付けたのが、多くの人がルールや世界観をなんとなく理解している(フォー〇トナイトのような)サバイバルデスゲームです。

これなら世界観や描写等がド下手くそな私でも、読者さんがなんとなく、補完してくれるだろうと思いました。(他力本願)

未熟で拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

「お兄遅い! 男の子なんだから、もっとシャキシャキ走れるでしょ!」


「今のご時世、大切なのは自分らしさだ! 男の子だって、足が遅くてもいいじゃないか!」


「その潮流に甘えて、自分の不甲斐なさを正当化するのは違うでしょ! あたしにならいくらでも甘えていいから足を動かして!」


 握られた手を無理やり引っ張られるようにして、僕は悲鳴を上げる足を必死に動かす。

 肺は焼け付くように熱く、心臓は激しく胸を叩いていた。


「妹よ……お兄ちゃんは最期まで勇敢に戦って、誇りに満ちた死を遂げた……って、ことにしてくれるか?」


「一回も戦ってないでしょ! ほら、体力がないんだから口じゃなくて足を動かすのに使って!」


 なぜ、愛する妹がここまで僕を急かすのか。答えは簡単だ。

 背後から、文字通りの“死”が迫っているからである。


 ――世界が凍り付く音が耳を打つ。


 吹き荒ぶ氷の嵐。肌を刺す冷気が、逃げているはずの僕たちの体温を容赦なく奪っていく。

 視界の端で、さっきまで青々としていた木々が、一瞬で真っ白な氷像に変わっていくのが見えた。


 飲み込まれれば、生命は静かに停止する。説明不要の絶望。

 立ち止まることは、即ち、死を意味していた。


「……真面目な話をするぞ、妹よ」


「そんなの聞かな、い!」


 妹――カレンは急に足を止め、僕の方を力強く振り返った。そのまま彼女の腕に強く引き寄せられ、僕のくたくただった足はもつれ、彼女の胸に飛び込む形となった。

 小振りだが、驚くほど柔らかく、甘い香りが鼻腔をくすぐる。


(そうか……カレンは、最愛の兄を抱きしめて、共に最後を迎えることを選んだんだな)


 ならば、僕も兄として答えよう。

 僕は静かに目を閉じ、妹の温もりに包まれながら、その時を待つことにした。



 暗闇の向こうに、柔らかな光が差し込んだ。

 見渡す限りの花畑。穏やかな風が吹き、遠くには小川がせせらいでいる。


 その川の向こう岸に、一人の人影が立っていた。


 あれは、母さんだ。

 遠い日に亡くなった、僕にとっての安らぎの象徴。

 母さんは優しく微笑み、こちらに向けて何かハンドサインを作っていた。


(ああ、母さん……。今、カレンと一緒にそっちに行くよ)


 あのサインは何かな? ピースかな? お茶目な人だったもんな。それとも、サムズアップかな? 意外と男気のある人だったもんな。


 ……いや、違う! 中指だ!

 母さんは、満面の笑みで、力強く、両手で中指を突き立てていた。


(あのクソババア……! 息子が死にかけてるのに、ファッ〇だと!?)


「――絶対そっち行かないからなああああああ!!」


「うわっ、びっくりした。そっちってどっち? 嵐の方?」


 目を開けると、すぐ目の前にカレンの顔があった。吐息が当たる距離。

 脚と背中に腕を回され、僕は宙に浮いていた。それも、ただの抱っこではない。

 完璧なフォームの「お姫様抱っこ」だ。


「……あれ?」


「手持ち無沙汰なら、あたしの髪でもいじってて。脇腹は触らないでね。くすぐったいから」


 カレンは僕を抱えたまま、絶望的な氷の壁を背にして、爆発的な勢いで地を蹴った。

 さっきまでの僕の全力疾走が、赤ん坊のハイハイに思えるほどの速度。


「……大人しくしてます」


 情けないが、今の僕にできるのは、それこそ赤子のように小さくなり、振り落とされないように彼女にぎゅっとしがみ付くことだけだった。


 しかし、いいのか? お兄ちゃんなのに、妹にお姫様抱っこされていて。いや、いい訳がない。


 “責任と矜持”。それは兄にとって“義務と権利”のようなもの。

 責任とは義務であり、矜持とは権利なのだ。

 そうして兄としての“威厳”は構築される。


「降ろしてくれ、妹よ。僕は、自分の足で立って、前へ進む」


「ダーメ。あたしが走った方が百倍速いもん」


「ですよね」


 責任と矜持は一秒で崩れ去り、威厳は霞と消えた。


「おほん、真面目な話をするぞ」


「お姫様抱っこされながら?」


 妹がいたずらっぽく笑う。否めない。

 言葉とは内容以上に空気が重要だ。楽しい空気なら、なにを話しても楽しい。その逆も然り。

 今真面目な話をしても、説得力がまるでない。


「ぐぬぬ……」


 開き直ろう。妹にお姫様抱っこされながら、偉そうな事を言う兄がいたっていいじゃないか。


「僕は兄として――」


「それ以上続けたらちゅーする」


「…………」  


 ――僕は兄として、お前を守る。もしもの時は迷わず僕を置いて逃げろ。

 それが、僕が言おうとした言葉。あるいは、約束。


 妹にとって、僕はどうしようもないお荷物だ。

 何度も言おうとしているが、結局いつも言えていない。

 カレンは今回もそれを察知して、最も効果的な脅し文句で封殺しに来たのだ。


 いや、脅しに屈してはならない。今言わないと今回も言えないままだ。


「お前をまも――」


「ちゅ~~」


「ストップ! ストップ! 続けないから! 続けないから目を開けて前を見て走ってくれ!」


 目を閉じ、本当に顔を近づけて迫ってきたため、有言実行しようとする妹を慌てて止める。


「って前! 前! 崖! 崖!」


 正面に灰色の岩肌が天を突く、断崖絶壁が立ちはだかった。

 嵐との距離は充分に開いているが、未だ止まる気配はない。


「うん。登るよ。しっかりしがみ付いてて」


「無茶だ! 登るには、まず登山届を提出して、滑り止めのチョーク粉と専用のクライミングシューズを用意しないと!」


「テンパるとバカになるお兄も好きだよ!」


 カレンは勢いを殺さないまま、僕を抱えた状態で垂直な絶壁へと突っ込んだ。

 それは「登る」というより、もはや「重力に対する暴力」だった。


「ええぇーーー!」


「へへー。すごいでしょ」


 得意げに言う妹。

 それは卵焼きを上手に作れた時とかに言うものであって、物理法則を足蹴にしながら言うことではない。

 だが、そんな妹も可愛いと思うのは兄バカだろうか。


「まずい。嵐が止まらない」


 背後からは、相変わらず嵐が迫りくる。

 もたついていたら岩肌と挟まれてしまう。


「……上もやばいかも」


「上? ――いてっ」


 見上げると、硬いなにかが顔に当たった。鳥の糞などではない。それならどれだけよかったか。


「落石!?」


 大きな岩が真上から、明確な殺意を伴って転がり落ちてくる。

 登山届を出さなかったことへの山の怒りか? だとしたら即決審判すぎるだろ!


「伏せて!」


「伏せるってどこっ――」


 言い終わる前に、顔を強引に彼女の胸に抱き寄せられる。


竜咆りゅうほう……」


 妹の胸がぐんと、大きくなっていく。命の危機が急速に発育を促した!?

 いや、違うだろ。胸は急に大きくなったりはしない。


 肺だ。密着した胸元で、肺が限界まで空気を吸い込むのが伝わる。


灰滅かいめつ!!」


 直後、妹の口元から放たれた火炎の猛烈な光が、僕の顔を覆う彼女の髪を通して周囲を灼熱の赤に染め上げた。

 鼓膜を破らんばかりの轟音と、妹の体を通して伝わる激しい振動。

 次々と体に降り注ぐ小石は、大きな岩が粉々に砕け散ったことを意味していた。


 火球だ。妹は口から紅蓮に煌めく火球を放ち、大岩を爆散させたのだ。


「よし! 頂上! ちょっとだけ危なかったね」


「言うほどちょっとだけだったか……?」


 背後を振り返れば、世界を削り取っていた白い嵐が、崖のふもとでピタリと動きを止めている。

 間一髪、生存領域セーフエリアへの滑り込みに成功したらしい。

 見上げた空は、先ほどまでの絶望が嘘のように澄んでいた。


(……お母さん。見ていますか。妹は、垂直の壁を走り、口から火を噴く、立派な人外へと成長しました)


 三途の川で中指を立ててきたクソババア……もとい、最愛の母への報告を脳内で済ませ、僕はようやくカレンの腕から地面へと降りる。

 膝が笑っていて、生まれたての小鹿のような足取りだ。


「ありがとう。それから……ごめん。また足を引っ張ったな」


「いいって。そんなことより、どう? あたし凄いでしょ?」


 カレンは反省など一ミリも求めていない様子で、期待に満ちた目を向けてくる。

 褒めて、撫て、愛でて、と。


「ああ。世界一可愛くて、世界一頼りになる自慢の妹だ」


 さらさらとした黒髪を撫でてやると、カレンは上機嫌に目を細めた。


 この過酷な島に放り込まれて以来、僕が彼女にしてやれるのは、せいぜいこの程度の「報酬」だけだ。  「えへへ~。でしょ~」


 ……不甲斐ない。お兄ちゃん心としては、複雑極まりないのだ。

 僕だって、何か一つくらいは妹に目に見える形で貢献したい。


「言っとくけど、頼りっぱなしだからって変に張り切るのはやめてよね。あたしは頼られて、あたしがいないと何もできないお兄が、死ぬほど愛おしくて嬉しいんだから」


 それは、優しさと独占欲が絶妙に混ざり合った、毒入りの砂糖菓子のような言葉だった。

 無茶をして失敗すれば余計な負担をかけることになる。それはわかっている。

 でも、いつか来る「本当のピンチ」の時。矛にはなれなくても、彼女を守る盾にだけはなってみせる。


「わかってる。無理なことはしないよ」


「よろしい。じゃあ行こ! お兄」


 自然に差し出された、僕よりも小さなその手を握る。

 温かい感触が伝わってきた。


 きっとこの先も、多くの苦難が牙を剥いて待ち受けるだろう。

 この世界が僕らをどこまで追い詰めても、僕は諦めない。


 妹を絶対に生きて返すと、兄としての誓いを、誰にも悟られないよう胸の奥に刻み込んだ。


第1話を読んでいただきありがとうございました。


今回のお兄ちゃんは妹にお姫様抱っこされ、生き残ることができました。

あれ、今回柔らかな胸に顔を埋めていただけ……? 嘘だろ……。

次回は他の勇者とのバトルが展開されると思います。

お兄ちゃんは活躍するのか!?(しません)


本作はドタバタイチャコラ、たまにシリアスバトルを挟みながら進行します。

「お兄ちゃん情けない」「妹可愛い」「作者自我出すな」「続きが読みたい」

そう思った方は活動の、もの凄い励みになりますので、高評価やブックマーク、アドバイスや感想を是非是非よろしくお願いします。

本当です。こういった活動をしている人は、例外なく孤独なものなので非常にチョロいのです。


後、前書き、後書きになにを書けばいいのか正直わからないです。(小声)

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