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EDEN's LOST  作者: 蓬松
2/3

Log2

Side.M



 少し時を遡る。


 私は、夢を見ていた。


 嫌にはっきりとした夢だ。


 目が醒めるほど真っ白な空間に、女性が一人。



 その女性、宙に座っている。


 周囲と同化した色の椅子に座っているのかと思いきや、その下にはしっかりとした影が落ちていた。


 私には目もくれず、ひたすらに目元のコンソールとおぼしき立体映像を操作していた。


 身に纏う白衣も相まって、まるでSF映画に出てくるオペレーターのような出で立ちだ。



「……あのぅ」

「ちょっと……」


「「……!?」」


 私達 は同時に座る女性へと声をかけ、互いの存在に驚いた。


 まるで声をかけることそのものを切っ掛けに、互いの存在が確定したかのように


 もう一人、金髪を兎の耳のような赤いリボンで結った女の子がそこに居たのだ。


 驚いている、ということは向こうとしても同じ感覚で自分が現れたのだろう。


 いよいよもって、私は白衣の女性の正体に感づき始めていた。



 そんなところで、白衣の女性は口を開いた。


「晶水・まるこ」


 私の名を。


「西原・とまり」


 金髪の女の子の名を。


 そして、スイッチを切るようにコンソールを消した白衣の女性は立ち上がった。


「済まない、時間がないので君達の主観軸をずらし……声をかける時点に出現時点を合わさせて貰った

しかし思ったより状況の理解が早いようで此方としても助かる限りだ」


 なんだか心底面倒くさそうに、女性は眼鏡を持ち上げた。


「あ……」


「ど、どうも」


 誉められた私達は、同時に頭を下げた。

 次に、私はほぼ確信に近い質問を彼女に投げ掛けた。


「えっと……あなたは、『魔術師』さんですよね?」


「ほう」


「えっ?」


 私の問いに、女性は感心したような声を、とまりさんは驚いたような声をあげる。


「う、うそ?私、現実世界で寝てたはずなのに……」


「それは君の時間軸での常識だ、西原・とまり。君が知らないことも無理はないが……まぁ座りたまえ」


 とまりさんの疑問を打ち消すように女性は、私達の背後に椅子を出現させる。


「まぁ、科学者を自称したい処なのだが……哀しいかな、私はそう魔術師に分類される存在だ。


目的のために世界の仕組みを解き明かし、目的のために神ならぬ身にして神の力を欲する者


梓刃傳(しじんでん)神楽(かぐら)、博士号と創世級の階位を持つ黒魔術師だ。」


 神楽、そう名乗った女性が魔術師を名乗るや否や。


 私達は理解の程は違えど行動は同時だった。


 どんな理由であれ──魔術師の領域に私達は閉じ込められている訳なのだから!


『我が魂に哀れみを!!』


『凱旋詩に祝福を!!』


 叫びと共に、私達の身にそれぞれ飾られたブレスレットとペンデュラムから光が溢れ……




「まだ早いよ」



 神楽博士がそう呟くと、驚くべきことが起こった。

 私達の光がなにも起こすことなくかき消えたのだ。



「あ、あれっ!?」


「可笑しいことはない、此処はガイアからも独立した私の領域。


君達の世界とは根本的に異なるから『あり得た世界』を引き出すには時間がかかる


そしてその次元干渉を逆算し対抗干渉を出力するには1/1000000000000秒あれば十分だ」


「……掌の上って事だよね」


 とまりさんがいうように、神楽博士の言葉の意味を理解した私達は椅子に座り黙ってその次に来るであろう説明を待った。


 実力を発揮できる場であるならばこの魔術師の人から優位性を取り戻して、訳を聞くこともできる確信があった。


 しかし、それは此処では無理だ。

 なら話は一つしかない。


「私達に、何をするつもりなの?」


 とまりさんが、恐る恐る神楽博士に尋ねた。


 以前にそういう経験があるんだとおもう、その表情は凛としているものの手の震えは隠せていなかった。

 私も知り合いの魔法使いの事情から、魔術師が自分達を捕まえて録な事をする筈がないと言うことはわかっていた。


 しかし──絶対的優位にある神楽博士は、私達に頭を下げた。


「助けて欲しい」


「「──へっ?」」


 ほんの数秒──頭を下げた神楽博士は頭を上げると同時に両の手を翻した。



 すると真っ白な空間の床から泡のように複数の──数えきれないほどの球体が浮かび上がっていく。


 光沢を帯びたそれはまさしくシャボン玉のように淡く揺らめいて、内部に存在する様々な景色を写し出していた。


「此処は『モノリス』、霊子式高次元圧縮濃淡コンピューターの内部空間。

私はこの中で、私の『楽園(エデン)』を創造するため──基底現実時間にして2270592000秒間、私の主観時間にして63072000000秒間もの試行を繰り返してきた。

これらはデータとして複製し保存した世界の一部、私の望むパターンを抽出するためにあらゆる可能性を繰り返す小世界『試行楽園(エデンプロトタイプ)』」


「この一つ一つが、世界!?」


「すご……」


 そのうちの一つがこぶし台の大きさとなって、神楽博士の手元に引き寄せられた。

 それを見下ろす神楽博士はまるで、子を見る母のように穏やかだ。


「主観604800秒──たった一週間の生を繰り返すこれでも中々いとおしくなるものだ」


 しかし、手元の試行楽園はその表面に黒いノイズを走らせ、神楽博士の表情は険しいものになった。


「だが、これが何者かの手によって汚されようとしている……っ」


 その時──手元の試行楽園は真っ黒に染まり、弾けるように黒い触手が延びた。


「「!?」」


 触手はあちこちの試行楽園……そして、神楽博士の眉間に突き刺さった。


「がっ!、ガガが……Ggggdddd……!!」


『我が魂に哀れみを!!』


『凱旋詩に祝福を!!』


 神楽博士が苦しげなノイズを発したその瞬間、前提を無視して私達は行動を開始した。


 再び黄金の輝きが二人を包む、私は皮のような材質のプロテクターで固めた若草色の衣装が


 とまりさんもまた意匠は違えど若草色の衣装がその身を覆った。


 そしてとまりさんの周囲には七色に輝く二つの宝石が舞い、私の腕には黄金の腕輪が備え付けられた。


「エリヤ!!」


 相棒を呼ぶと、何処からともなく黄金の剣が飛んできて手に収まった。

 その剣で黒い試行楽園から神楽博士の眉間に延びた触手を切り払う。

 その瞬間黒い試行楽園は、外敵を察知したかのように私達に触手を伸ばした!


「シルマリル!!」


 とまりさんの眼前に来た宝石がその内に宿した炎を瞬かせる。

 すると宝石から熱を感じない不可思議な白い炎を触手に目掛けて噴出した。

 しかしやはりそれは炎なのだ、触手は確かな熱をもつ白い炎に包まれ一瞬にして灰塵と帰した。


挿絵(By みてみん)


『やっと呼ばれた!!

夜中にいきなり消えて心配したんだから……って何処よ此処!?』


「魔術師さんを助けるよ、エリヤ!」


 黄金の剣(エリヤ)──天使兵装サンダルフォンに答えになってない事を言うと、腕輪から欠片を放って腕輪の分身たる輪が3つ作られた。


「アステロイドロック!!」


 輪は輪ゴムのように自由に大きさを伸縮しながら触手を伸ばそうとする黒い試行楽園の回りを取り囲み、錠前を閉じるような音と共にその動きを空間ごと封じた。


「戦闘能力には問題がなさそうだな」


 眉間に突き刺さった触手を平然と引き抜く神楽博士。

 その様子を見てぎょっとしたとまりさんは手を伸ばす。


「ちょ、ちょっと。そんな無理な抜きかたしたら血とか色々……っでてない?」


「当然だ、私はこの空間を構成するデータそのもの、肉体などとうに捨てている

この代理構成体(アバターラ)もオリジナルデータ本体を隠すためのデコイの一つだ」


 さも当然の事のように言う神楽博士が掌を黒い試行楽園にかざす、その手を握りしめると黒い試行楽園はめきめきと潰れて輪ごと消滅した。


「でも、今の泡が黒く染まったときは凄く苦しそうだったよ?」


「……」


 私の問いかけに、神楽博士はゆっくりと答えた。


「それは、私がモノリスそのものでもあるからだ……

私の全概念構成データは既にその14%を別の存在へと変換されつつある。

基底現実世界の異なる三つの時代軸からの侵入者に、私は攻撃を受けている」


「どうして……」


 とまりさんは疑問を隠さずに口にすると、ふと見た私に違和感を覚える。


「それは呼び出された君たちこそ自覚するべきだろう、『西原とまり』『晶水マルコ』」


 神楽博士がゆっくりと言った言葉の意味を反芻し、とまりさんはぱくぱくと口を開閉しはじめる。


「……?とまり、おねーさん?」


 私はその様子が気になって首をかしげる、するととまりさんはまさかまさかと詰まって出せずにいたものを押し出すように私を指差して言った


「あ、あ、晶水センパイ!?バレンタイン女学院中等部3年の……!?」


「ふぇっ?私、小学3年生ですよ?清銅欄第3小学校の……」


 そこまで言ったところで、カチリと察した。


「えっと……とまりおねーさん、未来から呼び出された?いや、私が過去から呼び出された?」


「うやや……おねーさんなんてそんな……ってそれって、タイムスリップ!?」


「いいや、攻撃の来ている時代から私のところへ二人をスライドさせただけだ。

もっとも、君たちが紛れもなく異なる時代に有る『王国(マルクト)の魔法使い』ということは事実だが」


 神楽博士の言葉に、私達は互いを見やる。


──この人が、違う時代の『王国』──


──先輩が、私の知らない『王国』だったなんて……──


「私の敵はこの時間因果律に干渉する演算能力を求めている。

私は私の世界(じっけん)を守るために直接手を加えることが出来ない


だから君達を呼んだ、異なる時代にあるそれぞれの敵と同じ時代に生きる君達ならば試行楽園の内側から侵入者を攻撃することが可能だ


どうか、私と、私の世界を助けて欲しい、どうだろうか?」



 神楽博士の問いに、私達は沈黙する。


 先に、口を開く。



「……私達がやらないと言ったら、どうなるの?」


「無理は言わない、ここの記憶だけ消して元の時代へと帰還させる」



 次に口を開いたのは、とまりさん。


「貴女は、どうなるの?」


 その問いに、神楽博士はほんの一瞬だけ目を見開いて答えに詰まった。


 そして、腕を組み少しだけ考える所作をすると……答えた。




「困る」




 その答えを聴けば、断る理由は無いと言わんばかりに

 (マルコ)ととまりさん、二人の王国の魔法使いは魔術師の願いを受諾した。



「助けるよ、神楽博士さんを!」


「この不思議な仮想世界も!」



 元より私達は、困っている人間を助ける為に力を振るう者達だったようだ。


 受諾の言葉とともに、足元から白い魔方陣(コード)が私達を包んでいく。


「ありがとう、では早速ハッキングを受けている潜伏先の試行楽園へ君たちを転送する。」


「あっ、ちょっと待って!」


 魔方陣に包まれていきながら神楽博士に問いかける。


「三つの時代軸って言ってたよね、ということはもう一人呼ばれるんじゃないかなぁ?」


「あぁ、呼びはした。

だが彼女らは想定外の時間質量を持った加護を受けている為ダウンロードに圧がかかってしまった、なので正規ルートを外れ承認なしで転送した。

君たちの時間軸からも増援を三人呼んでいるのだが、彼女達もその影響を受けてアトランダムに該当試行楽園へと転送される」


「はい?それってほぼ拉致なんじゃあ……わぷっ」


 とまりさんの言葉を遮るように、魔方陣は急速に二人の全身を包んで試行楽園へと転送した。


「……えへん」


 咳払いをした神楽博士は何事もなかったかのように空間に座ると、再び開いたコンソールを操作し楽園の制御を開始した。




 微かにみえたその様子に半場呆れながら、変身を解かれた私達がいきなり放り込まれたのは──しょっぱい海の中だった。


「──もごっ!?」


『先輩、早く上に!』


 とまりさんはいきなり海のなかに放り込まれるのに慣れているのか、ペンデュラムの宝石から声を出しながら私の手を引っ張った。


「──ぷはぁっ!?」


「ぷっは……あ、あれ!?」


「ふえ?」


 海上へ躍り出た私達を迎えたのは、青い髪をした女の子の驚いた声。

 その子は私達を見るや泳いでくる。


「な、何やってるんですか? 此処は観光客遊泳禁止──」


 しかし私達に注意を投げ掛ける言葉は途中で止まった。

 見上げた空が、真っ赤に染まっていく。

 そして視線の先にある島の街に、その赤い空が凝縮するように巨大な怪物が現れたからだ。


「な、なっ……」


「あれが、神楽博士の言ってた敵!? でっか!!」


 とまりさんの言葉と共に、頭上を懐かしい真っ白な閃光が通りすぎる。


「あれは──」


「ジュリア先輩!?」


 閃光が弾けて、巨大な怪物は山の中腹へと叩きつけられる。


「目立ちすぎだよジュリアちゃん!?」


「先輩、周りまわり!!」


 即座に魔法の言葉抜きで変身して、飛んでいこうとする──あ、私も周りの視線忘れてた。


「な、なんなんですかあなた達はぁ!!」


 青い髪の子が我慢しきれなくなったように悲鳴をあげる。


「えーっと……」


「通りすがりの魔法少女です」


 私達がそう答えたその時だった。

 陸からの展望台に集まる観光客たちの中から、嗄れた笑い声が聞こえてきた。


「く、く、く、は、は、は」


 カン、と石突をタイルの地面に突く音と共に取手の機械の瞳が開く。


「何故、都合よく、此処に居るかは知らないが──」


 ぞわりと、私の背中に生々しい悪寒が走る。

 剥き出しの傷口にさわるような、そんなやっぱり懐かしい悪寒。


「まさか──」


 振り返った私に遅れてそれを感じたとまりさんも、陸に振り返る。

 陸の人たちが、急に色素を失って真っ白な人影に変異していく。


 ──万物が持つ意味(ルーン)を奪われた人の成れの果ての怪物、ブランク。


 そしてその中央、瞳を開く機械の杖を携えた白髪の老人──何故かアロハシャツ──が獣じみた敵意の眼光を私に向ける。


「そんな、あなたは!!」


王国(マルクト)──儂から威光を奪った憎き魔法使いがぁ!!」


 かつて、私が王国の魔法に目覚める切っ掛けとなった事件。


 その驚異的な魔術の手腕で威光の魔法使い──ジュリア・ヘンデルを操り、街の人々から意味と魔力を強奪していた邪悪な魔術師(カバリスト)



 ──グラディ・マクマートリー。



 彼の怒号と共に、ブランクと化した観光客達が私達へと襲いかかった。

次回予告


明「メイさんと!」


とまり「とまりんの!」


明とまり「「解説こーなーぁぁぁ♪」」ドンドンパフパフ


明「いやぁー息ぴったりね私たち、時系列的に貴方と生きて会えるか謎だけど」まだ未定


とまり「早々メタな視点から不穏にするの止めてください!?」ビシッ


挿絵(By みてみん)


とまり「さて今回は、私の学校としても王国の魔法少女としても先輩のマルコちゃん先輩!

今回は夏に始め夏が舞台ということで、戦闘衣装も水着風にアレンジされています!」


明「神楽博士が変身に介入した際に、彼女の『あり得た世界』にも手を加えて宇渡ヶ島に適応できるようにしたのね。

いやぁ抜け目ないわねぇ」鼻血ダァ


とまり「拭いてください。

あのマルコ先輩が魔法使いだったのにも驚きですが、試行楽園から出てくるウィルスを止めたあの魔法にもびっくりです!」


明「黄金の腕輪ドラウプニルから出てきた欠片は一つ一つがマルコちゃんの意思に呼応して流れを操る魔法を起こすわね

そして守護天使エリヤが変身する天使兵装サンダルフォンはあらゆる『聖剣』のモデルとされる逸品よ、あらゆる武器に変幻自在に変化してあらゆる魔術や妖術を切断するわ。

でもあの子の一番の凄さはそれを使いこなす理解力と応用力よ♪」ダクダク


とまり「血が!血が!!」汗


明「そして一番の凄さは白スク水風アレンジ!!やろうわかってやが……ぐはっ」


とまり「めっ、明さーん!?次回log3です!今回はここまでーっ!!」あわわわはわわ


明「生きて会えるかしらね私たち……」


とまり「……」汗 アイタクナイカモ


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