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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第63話

エトの武器→ダブルアクションリボルバー。装弾数は六発で引き金は軽い。弾倉の下の弾丸を発射する構造で銃身は少々大柄かつ反動もやや大きめなので、照準を合わせるのには慣れが必要。国内で拳銃の所持については規制されておらず、「見た目が格好いい」という理由で行商人ハルムから購入した。

 エトとフレークは木材を届けた翌日の昼頃にはゲレゲン村へ帰る予定だった。出発するまで僅かではあるが時間に余裕があった為、エトは牧場を見学すると言って宿屋を出た。ゲレゲン村からあまり外に出る機会がないので、物珍しげに村の風景を見ながら遠回りがちに牧場へ向かい、エルセの許可を得てエンコエと戯れている見えた時だった。慌ただしい蹄の音と息遣いが迫って来た。


「モンスターが、出たっ!隠れろ!」


 村の端から端まで声を張り続けて来た男の声は掠れていて、彼を乗せているパーツは今にも倒れ込んでしまいそうなくらい疲弊しており、牧場前まで来ると粗々しく足を止めると男は背中から転げ落ちた。

 エンコエの世話をしていたエルセや他の飼育員は血相を変えて男から事情を聞き出そうとするが、男も何が何やらといった様子で「とにかく隠れろ」と言うだけであった。


「ロヴィーさんは!?」


 非常事態にも関わらず何故喫茶店の主人の名前を出すのか、それはロヴィーがミッセン村で最も荒事に慣れた人物だからだ。

 実は彼はミッセン村の出身ではなく、十年程前にどこからか移り住んできた人物である。経歴については謎が多いが、余所者に対して協調的な上にロヴィー自身の温和な性格も相まって、村に馴染むのにそう時間は掛からなかった。彼は夢であった、長閑な村で落ち着いた喫茶店を営むことを見事に実現させ、今では村人達の憩いの場の一つとなっている。村人が集まるとなればそれだけ情報も集まるというもので、ロヴィーは宿屋の依頼掲示板に貼られていても敬遠されがちな依頼をほぼ無償で解決していた。


「昨日うちのパーツに乗ってグロート町に出掛けて、二、三日しないと帰ってこねぇ」


 頼りの人物が不在ということでエルセは奥歯を噛み締めたが、居ないならば仕方ないと直ぐに思考を切り替える。


「このまま外に居るのは危険だし、一先ず屋内に入りな!パーツはエンコエと一緒に畜舎へ避難させとくから!それと君も落ち着くまで事務所に隠れておくこと!」


 若干の焦りはあるもののエルセは素早く指示を出し、エトと男は素直に頷いて事務所へ避難する。飼育員がエンコエを避難させようと気を引こうとするが、エルセに早急に避難するよう怒鳴られてしまい、謝罪の言葉と共に屋内へと逃げて行った。

 エルセは呼吸を整えているパーツの頭を撫でて落ち着かせると、つい先程納品され、腰に着けていたエンコエ用の呼び笛を吹いた。重低音の音はエンコエの注目を集め、エルセがパーツの手綱を引いて歩くとエンコエもその後に続く。

 パーツを畜舎に入れると、エルセは牧場を回ってマイペースに移動するエンコエを急かす。最後のエンコエを畜舎に入れ、念のため逃げ遅れがいないか牧場を見渡した時だった。牧場のど真ん中から勢いよくズィンベルが飛び出す。エルセは驚愕と恐怖を感じながらも、畜舎に逃げ込むような真似はしない。畜舎の壁に立て掛けてあったピッチフォークを手にする。こちらもつい先程納品されたばかりで、安物の槍より数倍鋭く光沢を持っている。


「ズァァァッ」


 ズィンベルは獲物を見付けるや否や一気に駆け出す。エルセは建物から離れるように走るが、直ぐに追い付かれてしまう。


「このっ!」


 振り向き様にピッチフォークを振るう。家畜の世話で鍛えられてはいるが、戦闘用の体作りをしているわけではない。大振りの攻撃はズィンベルを威嚇するには十分だったが、それも僅かな時間凌ぎにしかならず、一撃を躱したズィンベルの爪が怖ろしく輝いた。


「伏せて!」


 言うが早いか、銃声が四連続で響く。獲物に爪を突き立てんと、後ろ脚で立ち上がったズィンベルの肩から頭部に掛けて三つの穴が開いて血が噴き出る。


「ズァァッ!」


 銃撃を受けた衝撃でズィンベルの攻撃は逸れ、エルセは辛うじて無傷で済んだ。


「せやっ!」


 流血させながらも睨み付けてくるズィンベルの顔面に向かってピッチフォークを突き刺す。ズィンベルの弱点が眼であることなど知らぬエルセであったが、単純に急所であることと狙いやすいという理由で突き出された一撃は、見事ズィンベルの双眸を破壊して息の根を止めた。


「つよっ……」


 エルセを窮地から救った銃撃の主、エトはズィンベルが倒れたのを確認してから目を丸くした。普通ならばモンスターの一撃を目前にしただけで逃げるか動けなくなる筈だが、エルセは僅かな隙を逃さずに反撃し仕留めたのだから驚くのも当然だろう。


「ウチの子にちょっかいかけられた事は一度や二度じゃないからね、あれくらいでビビってらんないよ。とは言っても、さぁすがにさっきのはヤバかったよねー。ありがとう、助かった!」


 ピッチフォークを引き抜き肩に掛けながら明るく笑って見せられ、エトは引き攣った笑いを返すのが精一杯だった。


「ハハハ……。モンスターってこいつだけかな?」


「さぁて、どうだろ?とりあえず隠れながら様子見しよ」


 エトの問い掛けに肩を竦めて答えるエルセ。すると、答え合わせだと言わんばかりに複数の足音が迫って来る。


「マジ……。君、逃げるか隠れるかしな」


 三体のズィンベルを目にした途端、明るい笑顔は絶望に染め上げられたが、ただ死を甘受するつもりはない。せめて余所者であるエトだけは逃がそうと、ピッチフォークをきつく握り締めた。


「分かった」


 言葉とは裏腹にリボルバーの銃弾を装填しながらエルセの前に出、振り向かずに言葉を繋ぐ。


「逃げも隠れもするから、反撃したって良いよね!」


「君っ!バカなこと言うんじゃない!」


 エルセの怒鳴り声から逃げるようにエトは牧場の囲いの中へ走り出す。その表情に余裕は一切なく、地を踏み締める脚は緊張して一歩踏み出す毎に転んでしまいそうだが、生き残ることに意識を集中してどうにか耐えている。

 ズィンベルは三体共エトを狙って囲いの中に入って来るが、爪や牙を突き立てる直前でエトは小柄な体躯を活かして囲いの隙間を潜って回避する。ズィンベルの突進を受けて囲いを作っている木は折れるが、倒潰の一歩手前でズィンベルの進行を防いでくれた。エトは後ろ向きに走りながら装填された弾、全六発を撃ちこむ。出鱈目な照準に加え連射までしたので命中したのは二体合わせて三発だけ、一体は無傷である。銃弾を受けた二体も足や胴から流血こそしているものの、闘争心は微塵も衰えておらず、囲いを破壊しようと前足で殴打している。


「うっへぇ、退散退散!」


 ズボンのポケットから乱暴に銃弾を取り出し、ズィンベルから背を向けて走りながら装填する。ゲレゲン村では実戦どころか射的練習も碌に出来なかったので命中率に自信はないが、装填の練習だけは空いた時間に飽きるほど行っており、その成果が今正に実った。逃走しながらの装填だが、ズィンベルが囲いを破壊するより一瞬早く全弾籠め終わる。振り返りながら拳銃を構えるとズィンベルが二体、囲いから出てきてこちらを睨んで咆哮する。


「あれ、もう一体は!?」


 目だけを動かして周囲を探るが、どうしても三体目が見付からない。エトはズィンベルが地面を潜れることを知らないので、急に消えた事に恐怖し、無意識に身を隠せる場所を探して村の中へと逃げ込んでしまう。当然、二体のズィンベルも獲物を追って村の中へ走り込む。

 エトの足は速い方だが、人間と四足歩行型のモンスターでは競争にもならない。振り返って射撃する間も無く距離は縮み、あと一歩踏み込まれれば爪に切り裂かれるといったところで、エトは路地に転がり込んだ。姿勢を整えながら拳銃を両手で構え、乱射。全弾撃ち切ってからズィンベルの足音が遠ざかっていく事と、通りの向いの家屋に六つの穴が開いている事に気付く。


「あ、あれ……?」


 肩を上下させ、頭を振ってズィンベルを探していると、少し遠くから大気の燃える音がする。銃弾を装填してから恐る恐る顔を出すと、見知った顔が息を切らして走って来る。


「にーちゃん!!」


「エト!無事か!?」


 互いの名を呼び合い、無事を確かめ合う。エトは路地に転がり込んだ時に腕を擦り剥いたが、ズィンベルから受けた傷は無い。ステインは体力と魔力の消耗こそあれど外傷は無い。


「三体いると聞いたが、もう一体はどこにいるか知ってるか?」


「分かんない。牧場には三体来たけど、オイラを追い掛けてきたのは二体だけ」


「そうか……」


 息を整えながら下唇を噛む。エトには宿屋に戻って欲しいが、もう一体が潜んでいることを考えると別れるのは得策ではない。かといって連れ歩くのも危険過ぎる。


「あのモンスターは視界に入った者だけを襲う。直ぐ迎えに来るから、一旦この家に隠れていてくれ」


 今の所、屋内に居れば安全であるが、見知らぬ土地の見知らぬ家に一人で隠れさせるのは本望ではない。ステインは心の中で、他に選択肢が無いと言い聞かせて頼み込むが、エトは首を横に振った。


「オイラなら大丈夫だから、一緒に行かせて!牧場が心配なんだ!」


 エトの真っ直ぐな眼差しを受け、ステインは説得する時間が惜しいと判断し、出掛かっていた言葉を飲み込む。


「分かった。俺から離れないように付いて来てくれ」


「任せて!にーちゃんこそ、牧場に着くまでに体力使い切らないでよ!」


 悪戯っぽく笑いかけるエトの頭を掌で軽く叩いてからステインは走り出し、エトも拳銃を構えながら離されぬように後を追った。



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