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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第44話

【ミッセン村】


 村の広さや外観などはゲレゲン村と似ており、生活感がありながらも静穏な雰囲気が漂っていた。月明かりと調和する様に点々とした灯りは訪れた者達に安堵感を与える。ゲレゲン村との大きな違い挙げるならば、風車の代わりに村の北東に牧場が存在していることだ。牧場では乳を出す家畜が飼育されており、村名物のミッセンミルクは王都でも人気商品として取り扱われている。

 ステイン達が村に訪れたのはまだ夜になって間もない頃だったが、人通りは閑散としており、商店も殆どが閉まっていた。


「ふ~っ!着いた着いたぁ!」


 村を取り囲んでいる木製の柵を潜ると、テレシアは大袈裟に体を伸ばして喜びを表す。続いて村に入ったシルフィアはゲレゲン村以外の集落が珍しいのか、辺りを見渡して落ち着かない様子だ。人通りの多い時間帯であれば少女二人の行動は目立っただろうが、現在村の入口付近に人影はない。ステインは一息吐いてから二人を抜かし、宿へと先導を始めた。


 村の中央の通りを歩いて行くと、二階建てで横長の建物が見えてくる。入口は万人を迎え入れる様に光輝を放つ照明が付けられていたが、整列している窓からは灯りがぽつぽつと漏れているのみだった。


「いらっしゃいませ」


 扉を開けた瞬間、通りの良い女性の声がステイン達を迎え入れてくれた。入口正面奥に受付のカウンターがあり、カウンターの中には長い銀色の髪を一つに束ねた人物が丁寧に頭を下げていた。


「こんばんは。トルディさん」


「あら、王子様じゃないか。また会えて嬉しいよ」


 ステインが挨拶をするとトルディと呼ばれた女性は頭を上げ、人当たりの良い笑顔を見せてくれた。


「また世話になりにきたぞ~」


「可愛いメイドちゃんの方も相変わらずのようだね」


 ひらひらと手を振りながら挨拶をするテレシアにもトルディは明るく挨拶を交わしたが、シルフィアを見ると一瞬だけ目を丸くした後に、表情を輝かせた。


「シルフィアちゃんじゃないか!」


 カウンターを跳び越えんばかりの勢いで身を乗り出し、シルフィアとの邂逅を喜んだ。


「えっ……と、ごめんなさい、どこかで会いましたか?」


 素早く、何度も記憶を辿ってみるが、トルディという名の女性とは会った記憶が無かった。以前、空魔精錬術の依頼を受けたのかもしれないが、シルフィアは基本的にエトからの伝達で依頼を受けているので直接依頼主と合う事は無い。しかし、一度も会ったことが無いとも言い切れないので正直に謝罪を口にすると、トルディの乗り出した身は力無くカウンターの上に伏せられた。


「あちゃー、それはそうだよね、まだ小さい時に一回会ったっきりだもんね……」


 最初の礼儀正しさはどこへやら、三人を置き去りにして虚しく独り言を呟き出した。


「あの、思い出せなくて本当にごめんなさい」


 困惑しながらもシルフィアが声を掛けると、トルディは雷撃が走ったかの様に飛び起きた。


「いやいや、こちらこそごめんなさいだね。シルフィアちゃんの両親とはちょっとした知り合いで、確かシルフィアちゃんが三、四歳ぐらいの時に会ったっきりだから覚えてなくて当たり前だよ」


「えっ!?そうなんですか?」


「そうなんだよ。いや~元々の可愛さに綺麗さも加わって、親御さんも今頃旅先で自慢し回っているんだろうねぇ」


「そんな、褒められるほどじゃないですよ」


 シルフィアは恥ずかしさと嬉しさで破顔した顔を手で隠しながら、両親の知人であるトルディと話し合った。とは言っても、暫く音信不通であるシルフィアの両親の話題はあまり出なく、主にトルディがシルフィアをベタ褒めする流れだった。


「……おい、偏屈ご主人」


 カウンター越しに談笑する二人を見て、テレシアが尖らせた口を開いたので、ステインは素直な疑問符を浮かべて反応を示す。


「あたしの事を褒めてみろ」


 何と横暴な要求か。ステインは寄りかけた眉間の皺を懸命に我慢し、即行でテレシアの評価を弾き出した。


「自分に正直で、前向きで、迷う前に行動する姿を尊敬しているよ」


 嘘偽りない言葉だった。ステインも自分で言った言葉を瞬時に脳内で復唱し、テレシアの機嫌を損なうような事は言っていないと確認する。


「はぁぁ……っとに、この朴念仁ご主人は……」


 拳や蹴りは飛んで来なかったが、テレシアは長めの溜め息を吐いて明らかな落胆を見せると、盛り上がっている二人の間に割って入り、宿の部屋を確保した。




 レイセヘル王国第二王子、ステイン・スヴィンケルス・ファン・レイセヘルは木の香りが広がる部屋で一人、木製の椅子に座って青々とした草を食べながら紙面と向かい合っていた。見た目は雑草だが、ハウデン草と呼ばれるれっきとした食用草であり、生でも食べられて栄養価もそれなりに有る。世間一般的に流通されており、飲食店で使用されることも多い食用草だが、やはり見た目が雑草なので生で食べられることは少ない。宿の個室で人目がないのもあるが、何故ステインが貧しく生のハウデン草を食べているのか、その原因はテレシアにあった。


 男女でそれぞれ部屋を取ったのは良いのだが、宿の夕食の時間は過ぎており、食事は自前で準備する必要があった。そこまでは特に問題はない、携帯食料はステインが管理しており、十分に蓄えがあった。三人で好きな物を分け合う為に、全てを並べて見せた時、問題が発生した。あろうことかテレシアが全ての携帯食料をひったくり、エプロンドレスの中に隠したのだ。ステインが問題を指摘するより早く、テレシアは赤目を見せるとシルフィアと共に自室へと去って行ったのだ。


 身内に食糧を奪われたステインは外食も考えたが、一日中歩きづめた事もあり、村の中を歩いて飲食店を探す気にはなれなかった。それにステインは食事より気になる事があったのだ。

 トルディが経営するこの宿は宿泊施設としては勿論、村の中で困った事を依頼、解決する相談所としての一面も備えていた。ステインはシルフィアに会いに行く時もこの宿を利用していたので、相談所の事も知っていた。以前は先を急いでいたので依頼内容等は流し見した程度だったが、今回は少し腰を落ち着けるつもりなので、空魔精錬術の修行になりそうな依頼がないか確認していたのだ。


「物資の不足なら基本的に空魔精錬術が使えるな……」


 牧場や村周りの柵の補強や、農具の補充、薬の調合、依頼の種類は様々だが、空魔精錬術の出番は多そうだ。

 トルディから貰った依頼書を仕分けると、ステインは椅子から立ち上がって窓を開けた。夜風が頬を撫でていく心地良さを感じながら、明日から依頼を解決していこうと意気込んだ。




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