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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第36話

 四大の力を使う訳でもなければ剣としての役目も果たせない聖剣を持っていては、正直なところ重しにしかならない。ステインは思い切って聖剣を地面へ投げ捨て、ゆっくりと息を吸った。


「神獣!七百年隠してきた想いを、お前の声を、俺に聞かせろ!」


 声を張り上げ、駆け出すステインは疾い。空いた両手を振り、全速力でフライカイツに接近する。


「馬鹿が!いつまでもお前の勝手に付き合ってられるか!」


 吹き荒れる突風に進行を妨害されようとも、一歩進むのにどれ程の時間を掛けようともステインは前に進む事を諦めはしなかった。


「ある日、お姫様は不思議な声を耳にします」


 たとえ肉体の進行は阻まれようとも、言葉は通る。フライカイツは不快そうに眉間を寄せたが、ステインの語りは止まらない。




————忌み姫と神獣。


 声を辿って行くと、城の中庭で怪我を負ったフライカイツの子供が倒れていた。お姫様は子供を治療し、声が聞こえた原因を探る為にフライカイツにステークと名付けて飼い始めた。周囲の者達からは反対されるが、お姫様は不慣れながらもモンスターの世話を熟す。

 多くのモンスターは人に懐かず、危害を加える存在と言われてきたが、ステークはまだ子供ということもあってか、お姫様に良く懐いていた。しかし、最初に出会って以来、ステークの声が聞こえる事はなかった。


 半年ほど経つと、ステークはお姫様を城から連れ出してしまう。群れの同族へお姫様を紹介する為だ。お姫様はフライカイツの長と出会い、そこで再びモンスターの言葉を理解できるようになった。原因は不明であり、一時的に聞こえているだけかもしれないが、確かに理解できたのだ。

 ステークは群れに戻ることとなり、お姫様はフライカイツに乗って城へと帰ったが、城下町は何者かの襲撃を受けて損壊していた。

ダブル・ガレイドと呼ばれる双頭のワイバーンが現れたと兵士達から報告を受け、お姫様はモンスターとの会話を確実にしようと決意する。フライカイツも子を助けた礼としていつでも力を貸してくれると約束を交わす。

 

 お姫様は危険を冒してまでモンスターと会いに行ったり、損壊した城下町の為に資材を分けて貰おうと隣国まで行ったりと外出が増えていた。そんなある日、再び城下町がダブル・ガレイドの襲撃を受ける。直りかけだった城下町は呆気なく壊滅させられ、城も崩壊し国王が命を落としてしまう。隣国まで出向いていたお姫様の耳にも悲報は届き、フライカイツを呼んで一目散に帰国したが、待ち受けていたのは変わり果てた街並みと国王、更には住民達からの糾弾。モンスターと会話が出来る上に二度も襲撃を回避したということで、住民達はお姫様がダブル・ガレイドを操っているのではないかという疑いを抱きます。

 お姫様は濡れ衣を晴らすため、国の再興のため、フライカイツと共にダブル・ガレイドの討伐を決意。住民達の避難を兵士達に任せて出発した。


 ダブル・ガレイドとの戦いは熾烈を極め、最終的にはフライカイツの敗北で幕を閉じた。ダブル・ガレイドも重傷を負い、追撃すれば討伐することが可能だったが、ダブル・ガレイドから種の本能を説かれ、追撃をすることはしなかった。

 ステークと共に城下町に戻ったお姫様は住民の避難を終え、城下町を急ごしらえに復興させていた兵士達に迎えらた。まだ自分を慕ってくれる兵の為、亡くなった国王の為、お姫様は国を再興させることを宣言した。だが、現実は辛く、ダブル・ガレイドの討伐に失敗したお姫様に手を貸そうとする民は少数派だった。加えてフライカイツの遺言でステークも群れに帰しており、お姫様を身近で支える者はいなかった。

 心身ともに疲弊したお姫様はフライカイツが眠る平原へと足を運び、そこで美しい花畑を眼にした。共に空を駆けた月草の花畑に身を預け、お姫様は眠りに就いた。


 成体となり、力を付けたステークはお姫様に遭うべく国中を探し周るが、どこにも姿は見当たらなかった。そしてステークも月草の花畑を見つけ、そこで不思議な現象に出逢う。お姫様の声が風に乗って聞こえて来たのだ。ステークはお姫様の声を聞き、悲願を叶えるべく国中を飛び回った。時には人から人を守り、時にはモンスターから人を守り、時には人からモンスターを守り、時にはモンスターからモンスターを守った。

 フライカイツがいる限り、月草が枯れぬ限り、国中に平穏がもたらされたという————。


 

 本の概要を告げ終える頃にはステインの体はボロボロになっていた。風に飛ばされ、岩で殴られ、それでもフライカイツに接近することを諦めなかったからだ。


「何度言えば分かるんだ!くだらねぇおしゃべりをする為にお前らを呼んだわけじゃねぇ!」


 フライカイツの屈強な前足がステインの体を殴り飛ばした。殺さぬ程度に加減はされているものの、こう何度も攻撃を受けていては流石に立ち上がるのも億劫になってくる。ステインはふらつきながらも立ち上がり、震える足と呼吸で前に進む。シルフィアにとっては耐えがたい光景だったが、ステインの意思を尊重し、目を逸らさずに結末を見届ける覚悟だ。


「帰る……シルフィアは、絶対に、帰る」


 今までと様子が変わったことでフライカイツは僅かに訝しんだ。殴られ過ぎて思考がおかしくなってしまったのかと思うが、戦意は相変わらずブレない。


「クヨーラを残して、どこかに消えはしない。シルフィアを、お姫様にはさせない!」


「お前、何言って!?」


「お姫様は物語りよりも、もっと純粋で、理想家で……そして、残酷な最期だったのだろう?」


「まさか、聞いたのか?お前の空魔精錬術で?馬鹿な!」


 一歩進む毎に倒れそうになるステインなど指一本で止められる筈なのに、フライカイツは、クヨーラは身動きが取れないでいた。物語りに変えられた七百年前の真実をステインが知る筈はないのだ。もし知ることが出来るとしたら、当時者から話しを聞くぐらいだろう。


「覗きが趣味ってわけではないけど、クヨーラがいつまでも話してくれないから」


 あっけらかんとしているが、ステインは攻撃を受けながら空魔精錬術を発動してクヨーラの心の声を聞くという、器用なことをやってのけたのだ。


「物語りの内容を聞いてクヨーラが動揺してくれたから、一瞬だけの発動でも聞き取れたよ」


 受けたダメージが多過ぎてもはや限界なのだろう、ステインはいつもの口調に戻るとその場に崩れ落ちた。


「ステイン!」


 我慢していたシルフィアであったが、堪らず駆け出してステインの体を抱き起した。クヨーラが何を見て来て、ステインが何を聞いたのかはどうでも良かった。傷の具合を確かめ、ポーチからくすんだ緑色の液体の入った小瓶を取り出した。


「飲んで。直ぐに利くはずだから」


 朦朧とする意識の中、差し出された液体を飲む。少し苦かったが、それよりも切れた口内に与えられる刺激の方が強かった。


「もう、ステインにはこれからもやることが沢山あるんだから、無茶しちゃ駄目だよ」


「分かってる……と言っても納得はしてもらえないかな?」


 即効性の薬だったのか、瞬く間に痛みが引いて体力が戻って来る。シルフィアもそれを分かっていて、叱りつける様にステインを見つめている。わざと辛そうにしていれば優しい声をかけてもらえたかもしれないが、自分を偽って他人に甘えるのはステインにとって至難の技である。体調がある程度戻って来たところで早々に起き上がり、クヨーラに向かって構えた。




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