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クルトゥース断章  作者: 高田玄武
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第二十一幕 始まりの子

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紅き彼は言った。


「遥かなる遠き彼方の向こう。この世界を産み出せし万物の母『クゥルトゥル』は仰った。この混沌たる世界に何の意味があろう、と。」


また、蒼き彼も告げる。


「混沌たる世界に、大いなる存在など無意味だった。時の流れも、己が存在する意味すらも消え果ててしまうほどの暗き空間。母なる『クゥルトゥル』は、無に有を築こうと、魂たる、二十八の存在を造り上げた。己が力の全てを分け与えて。」


彼等は共になお詠う。


『全ての神は、力の全てを始まりの子らに注ぎ、更には我等、裁定者たる七体の、己が肉体の分身を造り賜れた。そして無に有を造り賜れたクゥルトゥルは、その身を以って、この世界を造り上げられた。即ち、この世界こそ彼。この世界に生きとし生ける者全てが彼自身なのだ。』


碧き眼を持つ彼は述べる。


「だけど、『クゥルトゥル』と同じ存在である彼等―――『旧きものども』―――は、クゥルトゥルの行った『無に有を造り上げる』行為と、彼の凄まじい力を疎ましく思った。故に彼等は、この世界―――『クゥルトゥル自身』―――を滅ぼそうとしたのさ。」


紅き瞳を持つ彼も言った。


「それこそが、遥か何億年も以前に行われた―――『ルルイェの審判』―――即ち、クゥルトゥルを『ルルイェ』に封じ込めようとしたのだ。」


映像は、正に異形の城。物体でもなく、生物でもなく。その不可解な『モノ』は、木々や全ての生き物―――魚や獣や人間―――を飲み込み、肥ってゆく。


「『ルルイェ』は、この世界上にある全ての生命を喰らい尽さんとした。或る者は逃げ惑い、或る者は哭き叫び・・・。そして或る者は戦った。我等七体の『裁定者』。そして、選ばれし、君達と同じ『始まりの子』の魂を宿す者達。・・・でも、事態は遅すぎたんだ。」


緋色の彼は唇を噛み締める。


「・・・我等は戦った。持てる全ての力を振り絞り、『ルルイェ』を再び宙へと戻す為に。しかしそれは叶わなかったのだ。一度呼び起こしてしまった『ルルイェ』を再び宙へ戻すことは不可能。・・・例え『旧きものども』の力を以ってしてもだ。」


蒼き彼は再び紡ぐ。


「我等は・・・最後の手段を講じた。いや、講じざるを得なかったのだ。・・・神の存在を超えた、『果てしなき破壊』の前には、そうせざるを得なかった。」


緋色の彼も再び紡ぐ。深く唇を噛み締めながら。


「・・・多くの兄弟達が、魂達が『消滅』したよ。君達の言葉を借りるのならば、それは『死』なのだろうね。そう、彼等はそのかけがえない犠牲を払って、自らを礎とし・・・『ルルイェ』を封じ込めたんだ。南太平洋沖、南緯47度9分、西経126度43分。それこそ忌まわしき、『ルルイェ』の封印されし場所だ。」



緋色の彼―――アトゥラは、男に告げる。


「その忌まわしき『ルルイェの審判』から幾億の年月が過ぎた今―――再び、『旧きものども』が動き出した。―――『新たなる絶望』をその手にして―――!!」


男は、余りにも絶望的な映像と、アトゥラの言葉に、絶対的な恐怖を感じていた。背中を冷たい汗が伝う。言葉を失いながらも、やっとのことで彼は発する。


「・・・俺に・・・どうしろと・・・?そんなとんでもない奴らを相手に・・・何をしろと言うんだ―――!?」


恐らく、この世に生きる者ならば誰しもが彼と同じ言葉を発していただろう。常人より腕に自信のある彼ですらである。気の弱い者ならばそれだけで発狂していたかもしれない。・・・それほど彼が見たモノは凄まじかった。

しかしアトゥラは、真っ直ぐ彼の眼を見据えたまま、言い放つ。


「・・・君にしか出来ないことだよ。・・・今すぐにとは言わない。まだ時間はある。だけど、その時間は限りなく少ない。残り少ない時間の中で、君は見つけなくてはならない。君に宿った大いなる力―――『クゥルトゥルの力』をコントロールする為の術を。」



そして蒼き彼―――アストァラも彼女に告げる。


「汝に秘められし力・・・その力こそが、旧きものどもに対抗できる唯一の力―――『クゥルトゥルの力』なのだ。」


戦慄なる恐怖の前に、彼女は気を失いそうになりながらも必死で耐えていた。長く・・・永く繰り返されてきた過ちを、もう二度と繰り返さない為に。ただ、それだけの為に。


「まず汝は知らねばならぬ。己の力。己がすべきこと。行くがいい。・・・汝の旅立つべき場所は―――。」



「『アーカム』。アメリカはマサチューセッツ州、セイレムに名を連ねる都市。・・・君達はそう呼ぶね。その地に、ミスカトニックという図書館がある。・・・まずは調べるといい。人は歴史と言う名で様々な記録をしてきた。・・・すでにこの世界ではほとんど薄れてしまった記録。だけど、君にとっては必ず役に立つモノが見つかるだろう。」


アトゥラは彼に一冊の本を手渡す。


「これはなんだ・・・?」


「『記憶』さ。ただし、そのままでは君にとって何の意味もない。それは、君達が『魔本』と呼んだり『魔導書』と呼んだりするものだ。開いてご覧。」


彼は、皮で造られた分厚い表紙をめくる。


「・・・これは、白紙・・・か?」


「そう。それはそのままでは何の意味も介さない。・・・まずは『記憶』を辿るんだ。時がくれば、その魔導書、『クルトゥース断章』は君にとって大きな武器となるだろう。・・・どんな力が眠っているのかは分からないけどね。」


男は、『クルトゥース断章』と呼ばれたその本の背表紙を握り締める。


「その本のページを完成させることは、君の失った記憶を取り戻すことにも繋がる。どうだい?悪い話じゃないだろ?」


アトゥラは、おどけて見せる。


「・・・ふん。この間の『交換条件』に比べりゃ、ずいぶんと割に合わない気はするがな。」


彼の言い回しに、男も皮肉のように言い返す。


「あはは、そう言わないでよ。それでも大分サービスしてるんだよ?・・・最も、僕が出来るのはここまでだ。後は君次第。どんな結果になっても、君を責めたりしないよ。」


「・・・ふん。」


男は軽く嘲うと、言った。


「―――やってやるさ。どうせ俺はやるしかないんだ。・・・この胸のわだかまり・・・俺の記憶を取り戻す為なら、なんだってな。」


―――そして彼等は、螺旋の淵から抜け出した。己に課せられた使命。・・・最も、彼等にとって重要だったのは、そんなものではなかったのかもしれない。しかし、歩き出した。

幾度と無く味わってきたであろう虚無感。葛藤や苛立ち、哀しみ。全てを背負って。


これは始まりだ。彼等と、そして未来への序曲プレリュード。彼等に課せられた道は、恐らくは険しいものになるだろう。だが、それでももう、彼等が立ち止まることは無い。

この主人公のお話は、ここで一旦休憩です。

世界を舞台に、繰り広げられてゆく大いなる神話。

クゥルトゥルは一体、何の為に世界を創り上げたのか。

世界は、どうなるのだろうか。

神話に完結はありませんが、この後も、更にこれからも世界は続いて行きます。

様々な視点から、世界を守る為の戦いも続くはずだと思います。


しばらくは、「クルトゥース 〜碧槍の帝〜」にて、日本に舞台を移して更に活躍させて行きたいと思いますので、応援、よろしくお願いします。


玄武でした。

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