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第二章:誰も弾かないソナタ ー #4


「さらんさん、行きましょう。次の場所へ」


愛瑠来保亜呂(えるき、ぽあろ)さんは、何かを確信したように、私を連れて歩き出しました。彼が向かった先は、事件の現場である音楽室ではありませんでした。校舎の一階の隅にある、保健室です。


白衣を着た養護教諭の先生は、突然の上級生の訪問に少し驚いたようでしたが、愛瑠来さんがにこやかに微笑みかけると、すぐに警戒を解きました。


「あら、愛瑠来くん。どうしたの? どこか具合でも?」

「いえ、先生。私は至って健康です。今日は、少しご相談がありまして」


愛瑠来さんは、決して「月光ソナタの呪い」などという非科学的な言葉は口にしません。彼は、心配そうな表情を浮かべ、こう切り出したのです。


「最近、私の周りで、どうも体調を崩す友人が多くて…。季節の変わり目だからでしょうか。特に、軽い頭痛や微熱を訴える生徒さんが、先週あたりから増えていないかと、少し気になりまして」


そのあまりに自然で、思いやりに満ちた口ぶりに、養護教諭の先生も


「そうなのよ、本当に心配よねえ」


と、すっかり彼のペースに乗せられている様子。


「ちょっと待っててね」


先生はそう言うと、机の上の来室記録簿をパラパラとめくり始めました。


「ええと…先週の木曜日以降、ね。…あら、本当だわ。言われてみれば、確かに少し多いかもしれない。頭痛、倦怠感、微熱…風邪というほどでもないんだけど、なんだかすっきりしない、っていう子たち。ほら、この子も、この子も…」


先生が指し示した名前を、愛瑠来さんは真剣な眼差しで覗き込みます。

個人情報にもっと気をつけた方がいいのではないでしょうか?


しばらく記録簿を眺めていた彼は、やがて、何か一つのパターンを見つけ出したかのように、静かに顔を上げました。そして、先生に優雅にお辞儀をします。


「ありがとうございました、先生。とても参考になりました。これで、友人を安心させることができます」


何が分かったのか、私にはさっぱりです。

いつまで経っても、天才の考えることは全く理解できまさん。


保健室を出て、誰もいない廊下を歩きながら、私はたまらず彼に尋ねす。


「愛瑠来さん、一体何が分かったの? あの記録に、何か共通点でもあったの?」


愛瑠来さんは、立ち止まると、窓の外に広がる青空を見上げました。その横顔は、謎が解けた喜びよりも、むしろ、ある種の諦観と悲しみを帯びているように見えます。


「ええ。とても、悲しい共通点がね」


彼は、私の方に向き直ると、静かに、そしてはっきりと告げます。


「さらんさん。体調を崩した生徒は全員、合唱部のメンバーでした。…そして、合唱部は今、コンクールに向けて、ある問題を抱えている。これで、謎はすべて解けましたよ」


ついに、愛瑠来さんが真相にたどり着きましたみたいです。

事件の鍵は、「合唱部」にあったのです。


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