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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第二章》-王国奪還編-
22/100

22.戦いの予兆!

「【ピアシングストライク】! はあっ!」


ズドドドドッ……!


「……この程度では、足りませんわ……」

 皆とギルドで別れたあと、カトレアはひとり、王都にある出入り自由の大きな訓練場で技の鍛錬をしていた。カトレアはいつもこうして毎日一人でかかさず鍛錬をしている。休日でも、今日のように自由行動の日だとしても……全ては強くなるためだ。

 しかし技を撃ち終えても、カトレアはパッとしない様子だった。


「ねえシルファ? わたくし、今よりももっと強くなりたいのですけど、どうすればいいのでしょう……」

 一通り技を撃ち終えると、カトレアは不満足そうに何もいない場所に向かって話しかける。

 ――強くなる。それは、いつかの先に見えるルナとの再戦のためだった。そして……。

 すると声を掛けられたことに反応し、カトレアの傍には、しゅんっ……と緑の光球が現れる。


『もっとあたしの力を引き出すのよ! そうすればあの忌々しい子にもきっと勝てるわっ!』

 緑に光る球体から聞こえてくる、辺りに響くような不思議な声質で憎らしげに質問に答えるのはカトレアと契約している風の精霊、シルファである。人間と同じように精霊にも感情はある。そのためこうして会話も成立するのだ。


「い、忌々しいって……もうっ! ルナをそんな風に言わないでくださいまし! 今回負けたのは、ただ単にわたくしの実力不足のせいですわ! まさか六割……たった六割だなんて……!」

『あ……あたしはただ、カトレアが負けるところなんて見たくなかったのっ!』

 二人は普通に会話をしているが、精霊使いではない者にはシルファの声は聞こえず姿も見えない。もしこの現場を見られたら『独り言を喋っている変な奴』と思われることだろう。

 尤も、今はこの訓練場にはカトレア以外の人はおらず、街中でも小声かテレパシーでの会話をするため、周りに変な目で見られたことはない。


「ふふっ、ありがとう。ですが、ルナはわたくしの大切な友人でありライバルでもありますのよ。ちゃんと敬ってあげてくださる?」

『う……悪かったわよ……っ! でも、次は絶対勝つのよ! このあたしと契約した人間が、負けっぱなしなんて許さないんだから!』

 ツンツンした態度で人間らしい性格のシルファだが、これでも風の上位精霊である。精霊には微精霊、下位精霊、上位精霊、大精霊と四段階に分かれた(くらい)があり、精霊の多くは力の弱い微精霊や下位精霊で、上位以上の精霊は力が強く、稀に会うことしか出来ない。

 そんな上位精霊のシルファならば、カトレアにもっと強い力を与えられるはずなのだが、契約の条件もあってそう単純にはいかないのだ。故に二人は足踏みしていた。


「シルファの力を引き出すには、貴女との対話やわたくしの基礎的な実力が重要ですけれど……」

『対話は散々してるし、カトレアももう充分強いし、なにが足りないっていうのよーっ!』

 精霊との契約とは不思議なもので、互いの利害が一致した際に制約を掛けて結ぶことができるのだが、その制約の細かい内容までは本人達にも分からないのである。

 しかしその効果は絶大で、契約した精霊の力量にもよるが、通常よりも六割増しで契約者に力を与えることができる。契約を深め、さらに力を引き出せば八割、果てには十割まで力を引き出すこともできるが、それができる精霊使いは滅多にいない。過去にいたのはSS級の精霊術士やごくごく一部のS級冒険者ぐらいだという。

 今のカトレアとシルファの共鳴率では、まだシルファの力の三割……30%程度しか引き出せていない。これは普通の精霊術士や精霊使いと比べて平均値以下の数値である。

 この共鳴率を上げることこそが、カトレアにとって強くなる一番の近道であると思っていた。


「とにかく気長に鍛錬を続けるしかありませんわね……。今日のところは瞑想でもしてみましょうか!」

『分かったわっ! ……それじゃあゆっくり意識を合わせるわよ!』

 そう言うとシルファは座禅を組んだカトレアの頭の上に乗るように移動し、ポンッ! と小さな人の姿をとる。現れた容姿は、小さな羽が生えた薄緑のふわふわしたボブヘアーの女の子だった。シルファは頭の上に座り、座禅を組むと目を閉じる。瞑想をするときはいつもこのスタイルだ。

 目を閉じたカトレアは意識を集中させ、二人の魔力を共鳴させる。すると徐々に風が吹き始め、カトレア達の周りを囲うように風が漂い始める。

 瞑想は、新米から熟練の冒険者まで幅広い冒険者がやっていることで、こうして意識を集中させることで精神の統一、魔力の向上を図るのだ。尤も、中にはやっていない者もいるのだが……特にルナとか。

 そうして暫く続けていると、次第に周りを漂う風は強く吹き荒れだし、そよ風から強風へ……強風から暴風へと変わっていた。


(ふぅっ……! 魔力が高まるのを感じる……。けど……っ! そろそろ限界かしら……っ!)


バチッ!


「ぅあッ……!?」

『カトレアっ!』

 荒れ狂う魔力の流れに耐えきれず、激しい風に弾かれて瞑想を崩されてしまう。同時に辺りを漂っていた暴風は霧散してしまう。瞑想をするのはこれでもう数十回目にもなるが、最近ではいつもここで体が耐えられずに集中を崩されてしまうのだ。

 これが恐らく今のカトレアの限界なのだろう。だが、この壁を超えることができればきっと……いや、間違いなく成長に繋がるとシルファは確信していた。


『もう一回よ! この程度で躓いてたらいつまで経ってもあのルナって子に勝てないんだからねっ!』

 故にシルファは必死に語りかける。自分のパートナーが挫けるところなど見たくない。カトレアならもっと強くなれる。負けず嫌いなシルファはそう信じていた。


「えぇ、分かっていますわ! もう一度いきますわよ!」

 そしてカトレアも同じようにシルファを信じ、再度繰り返す。負けず嫌いなのはシルファだけではなかった。元々似たもの同士なのか、或いは二人が出会ったことで似てしまったのか……。

 そうして二人は夢中で朝から日が暮れるまで何度も訓練を続ける。


_

_

_


バチッ……!


「くっ……。やっぱり上手く続きませんわ……! わたくし、才能がないのかしら……」

 しかし、やはり強くなるというのは難しいもので、たった一日やそこらではそう簡単に行くはずもなかった。日が暮れて来てもあまり進展がないまま、またしても失敗したカトレアは少し心が折れかけていた。


『何言ってるの! 最初に比べたら確実に長く瞑想出来るようになってるわよ! 魔力が上がってる証拠だわっ! 自信持ちなさい!』

 そんなカトレアを慰めるように声を掛けるシルファ。しかしそれはただの慰めではなく、確かな事実だった。訓練始めの時に比べると、些細なものだが確かに魔力が高まっていた。それは本人には気づけない程微かに。傍で共に訓練していたシルファだからこそ気づけたのだ。


「そ、そうですの? シルファがそう言うなら……ええ! わたくし、もっと頑張りますわ!」

『その意気よ! あたしは自信家のカトレアのほうが好きよ。一緒にゆっくり強くなっていきましょ! 時間はたっぷりあるんだからねっ……!』

 気を取り直したカトレアを見て安堵した様子のシルファ。そう、時間はまだ余るほどあるのだ。今日はあまり成長できなくとも、明日さらに成長できれば良い。ゆっくりと、着実に。カトレアが冒険者になってからの三年間、今までもそうやって時間を掛けて強くなってきたのだから……。

 そうしてモチベーションを取り戻した二人は、日が完全に落ちるまでその日は何度も特訓を繰り返すのだった。


_

_

_


 カトレアが奮闘している頃よりも少し前。ギルドへ着くなりすぐさま皆と別れて、マリーの元へお土産を渡しに行ったルナは、昼頃までマリーと話し込んだあと、一人で街を歩いていた。


「自由行動って言っても、何すればいいか分からないよね~。だからこうして何も考えず街を歩いてるわけだけど……」

 マリーに土産を渡し終えたため、他には特に目的もなく、なんとなくという曖昧な感覚でただ散歩をしていた。今ごろ自分の目的のために奔走しているであろう他の三人とはえらい違いである。しかし今日は実質休日のようなもの。責める者は誰一人としていない。昼寝をしていても散歩をしていても、文句など言われないのだ。


「あっ……あれって……」

 間の抜けた顔で街を歩いていると、先にある花屋に意外にも見覚えのある姿が見えた。それは冷たそうなキツい雰囲気を纏った、長く伸びた青い髪をポニーテールに結った背の高い女性……彼女は……。


「たしか、レイラさん……?」

 そこにいたのはルナが昇格試験を受けた日、明け方のギルドで試験の説明をしてくれた受付嬢……レイラだった。


「……おや、アイギスさん。こんにちは。今日はいい天気ですね。そういえば、D級になったとか……おめでとうございます」

 こちらに気付き軽く会釈をして、相変わらず定型文のような挨拶で淡々と話しかけてくるレイラ。今日はオフの日……というやつなのだろうか? ギルドで会った時とは違って今日は私服のようで、どこか雰囲気も少し暖かい感じがした。手に持っている赤い花のおかげだろうか?


「こんにちはレイラさん! 試験の日以来ですね! ……お花、好きなんですか?」

「いえ……これは姉への贈り物です。せっかくの休日なので、日頃の感謝をと思いまして。こんな綺麗な花、私には似合わないでしょう?」

 自分を嘲るように説明するレイラ。どうやら彼女は自分の無愛想さは理解しているようだった。確かに、花が似合うかといわれれば微妙なところだが、普段のキツい雰囲気が花によって緩和されている感じがして悪くないようにも思えた。


「そんなことないです! すっごく良いと思います! でも……どちらかといえば、その赤いお花よりもこっちの青いお花のほうがレイラさんっぽくて素敵かも? 二つの赤と青の花が並んで、より姉妹らしく見えます!」

 赤い花は赤い髪のライラにはぴったりに思えた。ならば青い髪のレイラにはそれと似たこちらの青い花のほうがよりよく見える。純粋な気持ちではっきりとそう伝えると、そんなことを言われるとは思ってもいなかったのか、意表を突かれたような様子で青い花を手に取る。やはりオフの日だからか、感情がなんとなく伝わってきて読みやすくなっていた。


「……私の髪と同じ……そうですか。なら、せっかくなのでこの青い花も買うことにします。姉妹らしく……見えそうですし」

 少し俯きつつ、無表情ではあるが、やや照れたような態度を見せるレイラ。彼女はギルドではクールだったが、街ではそこまでそうでもないのかもしれない。そんなことを考えるルナだった。


(もしかしたらこの人、そんなに怖くない人なのかも?)

 初対面に感じた悪寒のせいでルナはレイラにどこか苦手意識を持っていたが、プライベートで話してみると案外冷たい人間ではないのだと気づく。すると、花の買い物を終えたレイラから質問を投げかけられる。


「差し出がましいようですが、アイギスさんは休日でしょうか? 今日は一体なにを?」

「いやぁそれが、やること思いつかなくて……。ギルドの方からずっと散歩してるんです!」

「そうなのですか。でしたら少々私にお時間を頂けないでしょうか?」

「えっ私が!? い、いいですけど……どこへ?」

 驚いた。まさかあの彼女からお誘いをされるだなんて。そしてどこへ向かうのか。それは歩きながら説明してくれた。


「とりあえず、お茶でもしませんか? 美味しいお店、知ってるんです。そこでお礼を兼ねて色々とお話を伺いたくて」

 終始無表情でスラスラと目的を告げるレイラにルナは少し気圧されていたが、元々レイラはレアキャラと聞いていたので少し話をしてみたいと思っていた。しかも向こうからのお誘い、ちょうどいい絶好の機会だ。


「はいっ、ぜひ! 私もレイラさんのこと気になってたので、いっぱいお話しましょー!」

 二つ返事で答えたルナは、彼女に連れられるがままにおしゃれな喫茶店までやってきた。王都に来てから色々な店を巡ったが、ここは初めて来る。店に入ると、中はシックな雰囲気でとても落ち着く空気をしていた。正直、ちょっと自分には場違いな感じがして居心地はあまり良くなかったが。


「お、おしゃれな店知ってるんですね……。それで、聞きたいことって?」

「はい。単刀直入に訊きますが、アイギスさん。――貴女は何者なのですか?」

「へっ……?」

 レイラからの思いもよらぬ質問に、つい間の抜けた声を漏らしてしまう。自分が何者か? そんなの、ただの駆け出し冒険者だ。彼女は一体自分に何を訊きたいのだろうか? ルナが質問の意図が分からず戸惑っているとレイラは言葉足らずを補足するように続ける。


「こう見えて私はS級昇格の試験官をしているので、強さにはそれなりに自信があります。初めて貴女にお会いした時……アイギスさんからは並々ならぬ気配を感じました。強者でもあり……また違った……何か……」

「S級の試験官!? レイラさんってそんなにすごい人だったの!?」

 さらっと飛び出した発言に思わず驚嘆の声をあげるルナ。S級昇格試験の試験官……つまり彼女は本物のS級冒険者ということだ。ただならぬ雰囲気を纏っているとは思ったが、それほどの実力者とは思いもしなかった。……いや、ギルドの説明の際にライラが言っていた気がする。私の妹はS級だ、と。実際に初めて会うS級冒険者……その強さは計り知れない。


「でも、何者かって訊かれてもなぁ……。ただのD級冒険者ですよ? たしかに力に自信はありますけど。毎朝筋トレしてるので!」

「そうですか……。すみません、変な事を訊きました。ですが、貴女はもっと自分の実力を自覚するべきかと」

「は、はぁ……?」

 戦う姿を見たこともないのに初対面でルナの実力に気づいたレイラ。それがS級たる所以だろう。しかし、そんなことを言われてもルナには分からない。確かに力や身軽さには自信があるし、驚かれることもあったような気がするが、S級冒険者にそこまで褒められるほど強いとは思ってもいないのだから。


「それと話は変わりますが、職員のデイナはご存知でしょうか? 一度出会っているはずですが」

「ああデイナさん! 覚えてます! 強くて冷静で、かっこいい人ですよね!」

 ルナが冒険者になる少し前に乗合馬車で出会ったA級のデイナ。彼女のことをルナはしっかりと覚えていた。冷静に状況を判断して周りに指示を出していたことは深く印象に残っている。彼女のおかげで死者もなく馬車旅を終えれたと言っても過言ではないのだ。


「彼女が拷問した傭兵達のことなのですが……」

「ごう……もん……?」

 聞き間違いだろうか? 今、デイナさんが拷問した……と言ったような気がする。まさか、あり得ないよね? あの物静かなデイナさんが拷問吏なんて……。いや……でも今確かに……。

 しかしそれは聞き間違いではなく、れっきとした事実だった。レイラは疑問の表情を浮かべるルナに対し、念を押すように再度説明を繰り返す。


「ええ。拷問です。デイナや貴女方が乗っていた馬車を襲った傭兵のことです。デイナが拷問した傭兵達から訊き出した情報によると、彼らは隣国……アロンダイト帝国から遣わされた者達のようなのです」

「……アロンダイト帝国?」

 国の事情に疎い様子のルナに、レイラはその辺りも踏まえて説明をしてくれた。


 ――アロンダイト帝国。かつてはカリバーン王国という名で、今よりも小規模で温厚な国だった。だが、ある時国王が変わってからというもの、国の雰囲気はガラッと変わり、国力やその大きさは急激な成長を遂げたという。

 不穏な噂が絶えないアロンダイト帝国だが、最近デュランダルの国内で増えている盗賊被害も、アロンダイトの仕業なのではないかとギルドは予想しているらしかった。それは話の本題であるルナ達が捕縛した傭兵たちの情報が信憑性を高くしていた。

 何よりルナが一番驚いたのが、彼らはどうやら()()を狙っているらしいのだ。理由はレイラの予測だが、マナの出生に関係がある可能性が高いといい、ルナならば問題ないだろうとレイラはマナについて説明をし始めた……。


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_

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 そしてルナがレイラから話を聞いていた同時刻……王都内の別の場所でも同じ話が繰り広げられていた。



「やっぱり……! 実はこないだ受けた護衛依頼の最中にも、私を狙った怪しい連中に遭遇したのよ」

「はい……。トリアの職員から早馬の速達で聞いています。恐らくその連中もアロンダイトの手先かと……!」

 簡単な常設依頼を終えて街を歩いていたマナは、突然街中でデイナに呼び止められて、拷問による事情聴取の結果を聞かされていた。どうやら一部のギルド職員にはこの話がすでにマナの素性をかいつまんで共有されているようで、自国の冒険者が他国の間者に狙われていると知って警戒を高めているようだった。

 その中にはごくごく一部だが、マナの事情を知っている者もいて、第一王女を付け狙う不届きな連中を特定し反撃に移ろうと影で動いているようだった。そのうちの職員が、デイナ達諜報員グループ。そしてギルド内トップクラスの実力を誇る職員……レイラだ。


「マナ……いえ、マナ王女殿下。恐らく敵は、王族ながら家出をしている身の貴女様を狙っております。殿下を人質に取り、国へ攻め入る気なのではないかと、ギルド側はそう予測しております。どうか王城へお戻り頂きますよう、お願い申し上げます……」

 態度を一転させ、片膝をついて頭を垂れるデイナ。その急な変化にマナは思わず苦い顔で後退りしてしまう。マナはあまりお硬いのは好きではないのだ。家を飛び出した理由の一つもそれである。


「いっ……やめてよ、デイナ! 私そういうの苦手なのよ、どうか頭を上げて?」

「ですが……」

「今の私はA級冒険者のマナよ。だから、今までと同じ感じで接してくれない? そのほうが気楽だわ。貴女もそうなんでしょ?」

「……はい。わかりました……」

 なんとか説得するとデイナは頭を上げて立ち上がる。敬語なのは変わらないが、それは元々であるし、仰々しい言葉遣いでもなくなった。それだけで充分気が楽になった。


「それと……王城には戻るつもりはないわ」

「………」

「何度も言うけど、私はただの冒険者。私を狙う奴がいるってんなら、そんな馬鹿には寧ろやり返してやるわ! 借りもあるしね……!」

 エント村近辺の森での出来事を思い出し、悪い顔をしながら意気揚々と毒を吐くマナ。デイナはマナがそう言うのが分かっていたようで、特に反論はしなかった。本来ならしっかりと止めるべきだが、別に従者でもないのだから問題ない。

 それに、マナの強さは重々承知しているし、なにより彼女には()()()()が付いている。我々もしっかりと気を張っていれば心配はいらないはずだ。


「はぁ……。仕方ありません。一職員如きが冒険者……ましてや王族の方に出しゃばった意見を述べるのもおこがましいですし、私はこれ以上何も言いません。

 ……私以外のギルド諜報員によれば、どうやらアロンダイト帝国は何やら戦力を整えているようで、恐らく近々攻め入ってくる可能性が高いです。なので近いうちにギルドから冒険者に対し、説明のための召集がかかると思いますがその時はお願いしますね」


 デイナはギルドが有する優秀な諜報員、拷問吏の一人であり、初めて出会った時に素性をC級と偽っていたのも情報を得るためであった。素性を明かすと良いことはあまりない。それだけあってやはりその情報網は広く、伝達速度もどこで伝わっているのか凄まじいものだ。

 そんな彼女が言うに、最近のアロンダイトは怪しい動きを見せており、マナの誘拐に失敗はしたものの、国に攻めてくる可能性が高いらしく、王族でもあり、狙われた当人のマナには強く警戒を促してくれた。


「念を押しておきますが、マナ……貴女は家出中とはいえ王族なのですから、せめて王都を出る際は一人では行動しないことです。いつまた狙われるか分かったものではないのですから」

「分かってるわよ~……。近々戦争になるから戦力の内の一つである私たち冒険者は王都に招集されるんでしょ? それで、その際は『エクリプス』の皆から離れなければいいのよね? 前回はルナのおかげで助かったけど、もうヘマはしないから任せときなさい!」

「……すでに二回襲撃されているのです。どこで奴らが貴女の居場所の情報を得ているのか分からない以上、この国に紛れている敵国の諜報員を見つけない限り、この王都内すらも危険ということ……努々忘れないでおいてくださいね……!?」

 長々と語るが、その口から出てくる言葉はほとんどがマナの身を案じるもので、マナはうんざりしてしまう。デイナは親切で言っているのだろうから無下には出来ないが……。

 

「ありがとね……デイナ。職員と冒険者、一般人と王族……としてではなく、一人の友人として感謝するわ。心配かけてごめんね? でも私は強くならないといけないから、この戦い……参加するしかないの! どのみちB級以上は強制参加でしょうし……」

「礼を言われる程では……。友人……としても、職員としても、冒険者の貴女も王族の貴女も心配なことに変わりはないですから。こちらこそただのギルド職員なのに、友人扱いまでして頂いてありがとうございます」

 この会話の中で、二人はだいぶ距離を縮めることができたようだった。一応デイナには借りもある。襲ってきた傭兵との戦いで一度、自分に放たれた魔法の嵐を打ち消してくれた。それもあって、もっと硬くではなく柔らかく接したかったし、接してほしかった。

 同じくデイナは、諜報の仕事は友人を作る暇などない。知り合いは増える一方だが、結局は長い付き合いにはならない。だが王女というのも多少関係あるが、マナとは長い付き合いになりそうに思えた。そんな彼女とは友人になれて嬉しかったと同時に心配でもあったのだ。


「それにしても……戦争ねぇ……。初めての体験だわ。穏やかじゃない世界情勢なのは分かるけど、あまり国が滅びるかもしれないことはしてほしくないわね……。あぁ、憂鬱だわ……」

「そうですね……。私もあまり面倒事は好きではないです。……そろそろ行かねばなりませんので、これで失礼しますね」

 空を見て時間を確認すると、デイナはマナに帰りを告げる。


「ええ、色々ありがとう。あとで仲間にも話そうと思うわ……私のこと。それじゃデイナ、またね?」

「はい。……では。また会いましょう、マナ……」


シュンッ……!


 そう言うとデイナはシュッとその場から消えてしまった。


「き……消えた……!」

 何をしたのやらマナには理解出来なかったが、何か急ぎの用事だったのだろうか? 何はともあれ、散り散りになったメンバーを探さねば。こんな状況になった以上、自分の素性はしっかりと教えておきたい。そう思いマナは王都内でメンバーを探し始めるのだった。


_


「マナちゃんってそんな偉い人だったんだ……」

「おや、意外と驚かないのですね。もっと驚くかと思っていましたが……残念です」

「いやいや、驚いたよ!? ただ驚きすぎて逆に、って感じで……。ん? 今残念って……?」

「気の所為でしょう」

 マナがメンバーを探し始めた頃、同じような話をレイラから聞いたルナはあまりに突拍子もない話に面食らっていた。

 レイラはルナに驚いてほしかったのか、少しがっかりした様子だった。


「でも……戦争かぁ~。きっとマナちゃんはお城に戻ったりしないだろうし、勝ち気な性格だから喜んで参加するだろうなぁ……」

「現在、我々ギルド側も、王国側も戦力を整えている最中です。当然私も参戦しますが、アイギスさんはまだD級……強制ではないはずです。無理をする必要はありません」

 戦いが好きではないルナの気持ちを察したのか、レイラは気が楽になるよう声を掛けてくれる。しかし、その顔は無表情にも関わらずどこかうきうきしているように見えた。恐らく彼女はルナとは違い、戦いが好きなのだろう。


「ですが私の目が間違っていなければ、アイギスさんは相当な実力を秘めているはず。実力者が多いに越したことはありません。貴女も戦いに参加して頂ければ幸いです。……アイギスさんの真の実力が気になるのもありますが――」

 ルナには最後の台詞がよく聞こえなかったが、どうやらレイラ自身はルナに参戦して欲しいようだった。当然だ。どんな実力だろうと数が多いことに越したことはないし、それが実力ある者ならば尚の事である。そんなことを言われれば、断るのも申し訳なくなる。

 この戦争は恐らくB級以上の冒険者は強制参加だろう。それは冒険者登録の際にレイラの姉、ライラがギルドタグの説明の時に言っていた、『B級以上は国からの討伐依頼が出ることがある』……というものだ。今回は討伐とは違うが、これも例外ではないだろう。


「マナちゃんもカトレアも参加するってなると、私も参加しないわけにはいかないよね! チームだし!」

「こちらとしても大変助かります。本日はそろそろ失礼しますが、最後に……今度また休日にプライベートでお会いしたいのですが……構わないでしょうか?」

 ルナが参加を決意すると、レイラが改まって訊ねてくる。一体何の用だろうか?それは分からないが、今日は時間が無いようなので、まだ話したいことがあるのかもしれない。

 今日は畏まった話ばかりだったので次は本当のプライベートで話がしたいと思い、ルナは喜んで快諾した。


「はい! ぜひまた会いましょー! 私も話し足りないですし!」

「ふふ……。ありがとうございます。次はこちらからお声を掛けさせていただきます。では……」

(あっ、今ちょっと笑った?)

 一瞬、少し微笑んだように見えたがすぐ表情は戻ってしまい、ルナに感謝を述べながら一礼するとレイラは席を立ち、赤の花と青の花を大事そうに持って店を出ていった。

 今日の会話で、ルナのレイラに対するイメージはだいぶ変わった。思っていたよりもずっと優しい人で、怖いのは雰囲気だけということに気付いたのだ。次回また彼女と会えるのを楽しみに、ルナも席を立って店を出るのだった。


「さてと、マナちゃんでも探そっかな!」


レイラさん素敵!


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