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天才と脳筋は紙一重  作者: たんすちゃん
《第一章》-邂逅編-
20/100

20.決着、ですわ!

 体は傷だらけになり、地面に刺した大剣を杖のようにし、もたれ掛かるようにして立っているルナの遥か前方には、ルナと衝突した際に吹き飛ばされたのか、ボロボロで仰向けに倒れているカトレアの姿があった。傍には細剣が落ちており、すでに剣を握る力もないようだった。


「カトレアは倒れてて、ルナが立ってる……ってことは……!」

「ルナの勝ちね!」


ワアァァァァァァッ………!!!


 最高の激闘に、とうとう決着がついたことで会場は静かな空気から一変し、一気に割れんばかりの歓声が響き渡りはじめた。


「D級がA級に勝った!? こんな大番狂わせがあるのかよ!」

「私は最初からルナちゃんが勝つって思ってたけどね? あんな幼い子に地面をひっくり返すほどの力があるなんて信じられないもの!」

「いやいや、お前もカトレアちゃんの速さ見ただろ!? 普通あんな速度で動けねえって!」

「二人ともよく健闘していた! どちらが優れているかなど、この際どうでもいい!」

 会場では予想外の展開に驚いている者や、決着がついた二人のこれまでの試合を振り返り、比較している者もいた。


「いい試合だったわね、ほんとに。今日一番楽しめたかも?」

 試合が終わり、しっかりと見届けたマナは満足そうな笑みを浮かべながら一人呟いていた。


「よっしゃあ! 勝ったぜ大穴ァ! お前も喜んどけイシリア!」

「え? は、はい! よっしゃ~大穴~……?」

「ぐああぁっ負けたぁぁッ!!」

 マナの後ろでは賭けに勝ったことで見せつけるようにガッツポーズしているイアンとイシリアと、それを見て負けたことを嘆くエルドがいた。金貨五枚が報酬の依頼の最中に金貨五枚を賭けたエルド……実に哀れである。バロンとメナも負けているが、そんなことより気になっていることがあるのか、二人はクロエと話していた。


「なあ、ルナって本当にD級冒険者なんだよな……?」

「ねえ、ルナちゃんってほんとにD級なのー?」

「本当ですけど、僕と同じD級だとは到底思えないです……」

 これまでのルナの試合を見てきて、ようやくルナの異常性に気付いたバロンとメナがクロエに同じ質問をしていた。当然だが、昇格試験で少し片鱗を見ただけのクロエにも、ルナの強さの秘訣は何も分からなかった。


_


「ぜーんぜん、動けないですわー。もう力が入りませんわー……」

 地面に仰向けに倒れたままのカトレアは、気怠そうにルナに聞こえるように独り言を呟く。力の押し付け合いに負けはしたものの、意識はまだ保っているあたり、流石はA級冒険者と言わざるを得ないだろう。


「ごめんね? 加減する余裕もあんまりなくって……。私もこんなに怪我したのは久々で、すっごい疲れちゃったよ~……」

 当然、聞こえるように言っていたのだから、カトレアの独り言はしっかりルナに届いていた。ルナは地面に刺した剣を背中の鞘に収めながらカトレアの元まで歩いて行き、傍まで来るとへたりと座り込んで反応を返す。

 その姿は傷だらけで、腕や頬、足や腹など至る所に軽い切り傷が出来ていた。軽い、とはいっても数が数なだけあって、その痛みは中々のものだろう。しかし傷は多いものの、しっかりと直撃したのは右肩の傷くらいなもので、その浅い切り傷達はいかに攻撃を避け続けたのかを表していた。


「戦ってみて思いましたけれど、ルナ……あなたもしかしてまだ本気じゃなかったのではなくて? なんだか、まだ余裕があるように見えたのですけれど……」

 何を言うかと思えば、藪から棒に突然そんなことを言い出すカトレア。当のルナは、いきなり核心を突かれた事を言われて驚いた様子。どうやら図星のようだった。

 確かにルナはこれまで、本当の本気を出したことはない。三年前に魔法を発現した際に森を凍らせてからというもの、無意識に力をセーブするようになっていた。

 ……自分を子供扱いしてきた盗賊たちには、ほぼ加減無しの氷魔法を放っていたのだが……それはそれ、これはこれである。


「あはは……バレちゃった? あっ! でも、手を抜いてたとか、カトレアをナメてたとかじゃなくてね……! えっとえっと、六割……くらいは本気だったよ!?」

(ろ……六割……?)

 もしかしたら不快に思われるかもしれないと思い、必死に取り繕うルナ。力は本気でなくとも、気持ちは真剣だったからだ。そんな慌てた様子のルナを見て、カトレアは呆れたように笑いながらも改めて負けを実感する。


「……ふふっ。悔しいですけど、今回はわたくしの負けですわ。でも、いつか真の本気を出させて差し上げますわ! その時こそはリベンジ、ですわよ?」

「えっ、と……うん! 楽しみにしてる! 次も絶対負けないからね!」

 そんな約束を交わし、お互いを認めあったのちに二人は笑顔で握手を交わす。ルナの実力を知ったカトレアとの、真の友情が芽生えた瞬間であった。



「私ももっと鍛えなきゃ! やっぱり、筋トレかなー?」

「なるほど、ルナの強さの秘訣は筋トレ……」


_

_

_


「二人ともいい試合だったよ! 僕もいつかあれくらい強くなりたいと思った!」

 時刻は夜……。無事大会が終わり、大会の運営者から報酬を貰ったルナと『エクリプス』の三人は、街に到着した際に先に取っていた宿で今日を振り返りながら雑談をしていた。


「そうね~、クロエだけは()()のD級だものね……。いつかこの三人の誰かに稽古をつけてもらえばいいんじゃない? ……私は歓迎よ? 人を鍛えたことなんてないけど」

「マナさんの適当そうなお稽古は不安ですわ。やるのでしたらわたくしが鍛えて差し上げますわ! これでもお父様にたっくさん鍛えてもらいましたのよ!」

 えへん! と自慢気に胸を張るカトレア。話は大会のことから、クロエの修行についての話題に移っていた。

 それならばマナも城で散々母親のローランに剣術を叩き込まれたのだが、教えられるかどうかと言われれば難しいところである……。なにせこの国で最高峰の指導者に教わったのだから、同じように出来るわけもない。


(お稽古……か)


『――良い? マナ。剣はそうやって両手で振るのも大事よ。重心が安定して力を込めやすいからね。……でも、片手で振るのが悪いなんてことはないのよ!』

『どうしてですか、おかあさまー?』

『片手だと遠心力で勢いが乗るから、広く速く、そして深く剣を振れるの。それに……なんかかっこいいでしょ――!』


「ふふ……懐かしいわね。また稽古をお願いしたいわ……」

 クロエ達と話しながら、マナは幼い頃の記憶を思い出し懐かしんでいた。するとその後ろでは先程の話が盛り上がっていた。


「ルナには稽古なんて頭使うこときっと不可能ですわよ!」

「え~!? ひどい! 私だって人に教えることくらいできるよ! ……たぶん」

「そのうち皆さんに稽古つけてもらいますから! その時はよろしくお願いします!」

 収拾がつかなくなる前に半ば無理やり話を打ち切ったクロエ。賢明である。明日にはこの街を発たねばならない。色々と思い出が増え、名残惜しいがこの街とは明日でお別れだ。そして待っているのはまたしても三日間の馬車護衛の任務。行きの際の被害回数を考えると、一同、憂鬱であった。

 そんな気怠い空気をぶち壊すかのように、イキイキとした顔のマナが口を開く。そして同時にそれを見たルナは察した。『アレ』が始まると。


「じゃあ寝る時間もまだ少しあることだし、この世界の神話について聞かせてあげるわ!」

「「神話?」」

「やっぱり……」

 マナの話を聞いたルナ以外の二人は何のことやらさっぱりの様子で首を傾げていた。ルナは予想的中、といった様子だ。


「そうよ神話! 本を読んだことがある人なら誰もが一度は目にしたことがあるでしょ! 『神魔大戦』!」

「わたくし、本はあまり嗜まないので知りませんわね……お二人は?」

「僕はよく読書しますし、この国では有名な話ですから。知ってますよ!」

「私はマナちゃんに二度聞かされてるからこれで三回目だよ~」

 ベッドの上で正座して話し合う三人。すでに聞く準備は万端のようだ。そうこうしているうちにマナのオタク知識披露会が幕を開けた。


「時は今から千年も前に遡るわ……」


_

_

_


 ――今からずっと昔。千年前の出来事。この世界のどこかに隠されていて、神々が暮らすと云われる『九つの世界』へと繋がる神樹ユグドラシル。それは一つの国をも上回るほどの太さの幹だというのに、未だ誰も見つけたことがないという。

 九つの世界にはそれぞれ別々の種族が済んでおり、我々人間の住む大地が『ミッドガルド』、ユグドラシルの遥か上空にあるといわれる様々な神々が住む大地『アスガルド』、アスガルドから地続きで遥か南側に存在するという灼熱の国『ムスプルヘイム』、ここミッドガルドを囲むように存在する大海を超えた先にあるという巨人の住む国『ヨツンヘイム』、アスガルドと地続きの東側にある、強い思想を持った神々の住む国『ヴァナヘイム』、そしてそれに隣接する形で存在する小さな大陸がエルフの住む国『アルヴヘイム』。


 これら六つの世界は地表より上に存在しているが、ミッドガルドよりも下の世界にも三つの世界が存在していると言われている。

 世界のどこかの地下にあるといわれるドワーフの住む国『ニサヴェーリル』、さらにそこより下層のユグドラシルの北側に位置する氷の国『ニヴルヘイム』、そして最後に、そのニヴルヘイムよりもさらにずっと北の最下層に存在するといわれている死者の国『ヘルヘイム』。


 この世界ではそれぞれの種族が暮らしていると言われており、それぞれが調和を保ち、世界は平和に廻っていた。……しかし、ある時突如として戦争が起きた。発起したのは『ヴァナヘイム』の一部の神々を中心に、『ヘルヘイム』、『ニヴルヘイム』の一部の神々。彼らは戦力を整え、ある日『アスガルド』へと侵攻し、大地を滅茶苦茶にした。

 彼らの掲げていた目的は大地のリセット。数多く、広く存在する大地を滅ぼし、自然へと還し、再構築する。そうすれば世界が生まれてから長い期間をかけて汚れた大地を再度浄化出来ると考えたのだ。


 その戦いには悪魔や魔神までもが参加していた。『ヴァナヘイム』には悪魔に近しい神もいるため、手を組んだ……もしくは元々協力関係にあったのだろう。しかし対する『アスガルド』には、遠い未来を読める予知の力を持っている全能神がいた。名はゼウス。多くの神を統べる最高神だ。その予知の力を活かし、『アスガルド』は予め侵攻に備えていた。

 悪魔と手を組んだ『ヴァナヘイム』とは対照的に、『アスガルド』は天使達を味方につけていた。この戦争は何年、何十年もかけて続いたと云われており、神や悪魔、天使だけでなく、巨人やエルフや竜、獣人など、果てには人間までもの多くの種族が参加していたとされている。

 長く続き、互いに多くの犠牲を出した戦争は、結局勝敗が決まることはなく、『アスガルド』と『ヴァナヘイム』は対立関係になったという……。

 その絶望の戦いは、『ラグナロク』……終末の戦争と呼ばれた。


_


「それでね……! この話に出てくるフレイヤ様っていうのがすごく素敵な女神様らしくて――!」

 まだまだ語り足りない、むしろこれからだと言った様子のマナに、クロエが声を掛ける。


「マナさんマナさん……」

「んっ? あっ……」

 話に熱中していて気付かなかったが、マナが周りを見ればすでにカトレアとルナは話の途中で横になって眠ってしまっていた。律儀にしっかりと聞いていたのは眠そうな顔をしたクロエだけのようだった。優しい少年である。


「そんな眠れる話じゃなくない? ……まあ寝ちゃったのならしょうがないわね。私たちも寝ましょうか」

「そうですね……。おやすみなさいマナさん!」

「おやすみクロエー……」

 こうして半強制的に話は終わり、『エクリプス』は全員眠りについたのだった……。


_


『――ルナ……この子が――』

(……んぅ? ……声? だれか……私を呼んだ……?)

 眠りの中、ふと自分の名前が呼ばれた気がして、薄く意識が覚醒する。

 ぼやけた意識の中で目を凝らす。声のする方に目をやると、下から見上げる形で人影が二つ見えた。二人は大きな樹の下で肩を抱き寄せ合い、何か言葉を交わしているようだ。


『あぁ――この子はわしに任せて――』

『――えぇ、お願いね……向こうは私が――』

 話している内容は途切れ途切れにしか聞こえない。はっきりと目を開けようとしても開かず、起き上がろうとしてもピクリともしない。だが、じっと見ていると人影の片方にはかすかに見覚えがあった。


(これは……夢? あれは……今よりも少し若い頃のお爺……? 隣は……誰だろう? すごく綺麗な人だなぁ……)

 今と比べると随分若く見えるが、確かにスエズの面影があった。隣にいるのは見覚えはないが、ルナにも負けない透き通るように美しく長い銀髪の女性だ。二人の事をぼやけた視界の中見守っていると、次第に辺りは光に包まれ、やがて意識は遠くなっていく――。


_


「……はっ!?」

 ルナは目が覚めると、ベッドから飛び起きる。何かとても懐かしい夢を見ていた気がする。その目からは涙が流れていた。


「あれ? なんか夢を見てた気がするんだけど、どんな夢だったっけ……?」

 何か大事なことだった気がするが、思い出せない。窓の外を見ると、まだ明け方より少し前に見える。周りのみんなはまだ寝ていた。どうやら日課の筋トレの時間よりも、少し早く目が覚めたようだ。


(うーん……。まあ考えてもしょうがないか!)

 ポジティブが売りのルナはスパッと切り替えて、日課をこなすため皆を起こさぬよう、そっとドアを開けて外へと出ていくのだった。


_


「んーっ! 昨日は楽しかったわねー! 良い勉強にもなったわ!」

 晴れやかな太陽の下、大きく伸びをしながら昨日のことを思い返すマナ。どうやらよく眠れたようで、すこぶる気分が良さそうに見えた。

 今日は朝から馬車に乗り、また三日掛けて王都に戻らねばならない。この護衛依頼での休憩ポイントになるトリアの街でしっかりと休憩、満喫が出来たのなら無事帰りも問題なく行けそうである。


「ねえマナちゃん、昨日のことなんだけど……。」

「どうしたのルナ、改まって?」

 集合場所へ向かう途中、ふと思い出したようにマナへ声を掛ける。ルナの持つ大剣、レーヴァテインのことだ。


「私の剣、昨日覚悟を決めてまで抜いたんだけど、炎を纏ってなかったよね? 壊れちゃったのかなって思って……」

 そう言って歩きながら剣を抜くルナ。フェンリル戦以来使っていなかったため、昨日の試合で久々に抜いた時、炎を纏っていなかったことに不安を覚えていたのだ。当然だが、今抜いたレーヴァテインも炎を纏っていないただの大剣の状態だった。


「それ、聞きましたけれど、本当に魔法も使わず炎なんて出るんですの? 別に炎が出る機構もないみたいですし……」

 横で話を聞いていたカトレアは、コンコン、と大剣を手でノックしたり触ってみたりしてみるが特に変化はない。だが事実、過去に炎を纏っているのだ。それも強烈なまでの……。そのことはルナとマナしか見ていないからこそマナに質問し、意見を求めたのだ。


「あの、カトレアさん! 抜き身の剣をそんな触ったら危ないですよ……!」

「大丈夫ですわよぉ~。気をつけてさえいれば刃にも触れづらい大きさですし、そうそう切れませんわ」

 ぺたぺたと大剣を触りながら観察を続けるカトレアに後ろから心配そうな顔でクロエが声をかける。まぁたしかに抜き身の剣を素手で触るのは危険だ。言いたくなる気持ちもよくわかる。

 そんな二人の横でマナは顎に手を当てて考えていた。なぜ炎が出ないのかを……。


(フェンリル戦の時は凄まじい炎を纏ってたわよね……。でもあれ以来出なくなった……となるとなにか原因があるはず。あの時と昨日の違い……相手の大きさ? うーん違う気がする。相手が人か魔物か……? これも違う……)

 あれも違うこれも違う、と何度も往復し長考を繰り返す。もしかして、場所で変わる? 気圧とか温度とか? ……いや、違う。何か、もっと明確でシンプルな違いが……。あっ……?


「ねえルナ? ()()呼んでみなさいよ!」

「へ? 名前? マナ・フォン・なんちゃらー!」

「私じゃねぇ!!」

 暫くの間、手を顎に当てたまま黙々と考えていたマナが急に顔をあげてそんなことを言い出すものだから、思わず拍子抜けしてしまう。名前? 一体何の?


「剣よ剣! その剣のな・ま・え! 色々考えたけど、明確な違いがそれしか浮かばないのよ!」

「な、なるほど……?」

 思えばあのフェンリルとの戦いの時、夢中であまり意識はしていなかったが、確かに叫び、呼んだ。『レーヴァテイン』と。そして昨日。あの時は無言のまま、カトレアの覚悟を受けると決めながら剣を抜いた。明確な差だ。


「えっと……じゃあ、行くよ? ……『レーヴァテイン』!!」

 あまりパッとしないが、マナの自信ありげな態度を信じ、試してみることにしたルナは愛剣の名を叫ぶ。すると……。


ごおおおっっっ!!!!


「おおっ! ほんとに成功したわ!?」

「熱っっっぢゃあああああああああああ!!!?」

「カトレアさあああああああん!!!??」

 意を決して愛剣の名を叫ぶと、あの時と全く変わらぬ豪炎が刀身を包み、燃えた。……そして剣をぺたぺたと触っていたカトレアも一緒に、燃えた。


「熱っ熱いッあっちぃですわ!? ちょっとマナ!? なに素晴らしい助言してくれてんですのよ!? 良かったですわね成功してぇ!? あつっ熱ぅっ!」

「ブフォ……! いや……本当に成功するとは思わなかったのよ。……あとそれ面白いからちょっとやめて」

 凄まじい炎で見事に大やけどを負ったカトレアはキャラが完全に崩れ、カクカクとした動きでのたうち回っていた。パニックだからか、マナのことも呼び捨てにしてしまっていた。対するマナはそんなカトレアを見て思わず顔を背けて吹き出していた。


「あっわわわ……! 【ウォータースプラッシュ】!」


ばしゃばしゃっ……


「はぁ……はぁ……九死に一生を得ましたわ……感謝いたしますわクロエさん……!」

 焦りながらもクロエの水魔法によりなんとか消火され、傷口を冷やしたカトレア。どうやら落ち着いたようだ。こうならないように皆も抜き身の刃物をぺたぺた触るのはやめよう。突然刃から火が吹き出すかもしれない。


「だから危ないって言ったじゃないですか……」

「誰があんな危なさになると予想できますのよ?」

「いやまぁ確かにそうですけど……」

 未だに未練たらたらのカトレアだったが、たしかに普通の剣は燃えない。誰も予想なんて出来ないものだ。そう考えれば仕方ないのかもしれない。


「ありがとうマナちゃん! やっぱりマナちゃんは物知りだね!」

「た、ただの偶然よっ! ……それに少なからず被害者出たし」

 もう何度目か、ルナにキラキラした目で見つめられるマナだったが、当のマナはカトレアの方をジーッと見て呆れたような顔をしていた。


「なんですのよッ!」


ブフォ……!


 ……マナが再度吹き出した。どうやらツボだったらしい。


_


 やがて四人は馬車の集合場所へと到着し、昨日ぶりの『グリフォンの爪』の五人、そして『アマゾネス』の三人と挨拶を交わし、一同はトリアの街を出発した。

 帰りの道中は何故か特に問題も発生せず、非常にスムーズに馬車の旅路は進んだ。行きの旅に比べると天と地ほどの差だった。



 一日目は皆で仲良くトリアの街での出来事の雑談。『アマゾネス』の彼女たちにも昨日の大会での出来事を共有したのだ。当然、ルナが優勝したことに驚いた顔をしていたが。


 二日目はそれぞれトランプやチェスをして時間を潰していた。マナは相変わらず馬車の中で移動中にも関わらず、トランプタワーを作るという謎の技術を披露していた。


 そして三日目。ルナに対し、そういえばと思い出したようにマナが質問を投げかける。


「結局、優勝賞品ってなんだったのよ? まだ聞いてなかったわよね」

 景品の受け渡しは別室で行われたため、準優勝のカトレアくらいしかその現場を見ていない。そしてそのカトレアは先頭馬車に乗っているため、ここでルナに訊いたというわけだ。


「えーっと賞金が50万ヘラと、金色のトロフィーもらったよ! たしかカトレアは準優勝の賞金で10万ヘラもらってたよ!」

 あっさりと言うが、50万とは小さな家くらいなら買えるレベルの大金である。しかもそれは個人への賞金だ。チームで分割するわけでもないので、ルナは先日のフェンリルの分も合わせて一気に大金持ちになったということになる。


「おおぅ……50万……結構な額ね……。なにか使う予定とか考えてるの? って、考えてるわけないわよね」

 少々失礼だが、事実その通りであるためぐうの音も出ない。


「トロフィーは……まぁ、好きにしたら良いと思うけど、帰ったらマリーの宿の部屋にでも飾っておけばいいんじゃないかしら?」

「うん、そうするつもり! マリーちゃんにも色々お土産があるし、楽しみだね!」

 そんなことを長々話していると、三日目はあっという間に終わりを迎え、次の朝、無事王都へと帰還したのだった……。


刃物の扱いには気をつけよう。

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