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第二話 街獣オオサカ

 街獣エドは南下しながら、植生や野の獣を食べる。

最初は黄土色でやわらかそうだった街獣エドの皮膚は緑色に変化していき、体躯も徐々に大きくなっているようだ。

しかし、人手の不足もあって、背に広がる街の復興は一向に進まない。


「街を復興させて、モスクワを討つ。そのために各地の有力な街獣に会い、助力を仰ぎます。まずはオオサカに会いに行きましょう」


八尋姫がそう言うと、左近が疑問を述べる。


「あれの住人はがめつい商人ばかり。対価もなしに協力するでしょうか」


汚八はもっと穿った見方をする。


「これ幸いとこの街獣を食べて、姫様を幽閉してしまうかもしれませんぜ」


姫は譲らない。


「袂をわかったとはいえ、同じ日の本の住人。きっと話し合えます」


野次郎兵衛は手を叩く。


「会ってみねえことにはわからねえ。オオサカは図体もでかいから、そんなに脚も早くない。やばそうになったらトンズラこきゃあいいじゃねぇか」


一向の心がまとまると、街獣エドはオオサカの住む摂津国せっつのくにへ向かった。


 美しい流れの大和川と、豊富な水量の淀川の間に広がる平原にその街獣は鎮座していた。

八本の脚は黄色い鞠のような球体が連結して構成されており、表面に黒い体液がしたたり、更にその上には苔が生えている。

顔と思しき部分には蛸を思わせる丸い目と排泄口がついていた。


「モスクワと比べたらそりゃ小さいが、ありゃあキョウトよりもデカいんじゃあないか」


「あ、オオサカから家獣が降りてきたぞ」


オオサカの家獣は蟹のような姿をしていた。

化粧丸太や奇木を配し、侘び寂びを感じさせる建物を載せている。

オオサカの家獣は警戒しているのか、ハサミを振り回してはカチカチ鳴らしている。


「イキッたやつだな。姫さん、どうします」


「野次郎兵衛さん、ここは私に任せてください」


姫が街獣エドを通して交渉を試みる。


『街獣オオサカとその導き手よ、つつがなきや。私は街獣キョウトから落ち延びた八尋やひろ内親王。キョウトは凶暴な街獣モスクワの牙にかかり、既に斃れた。今はこの街獣エドに拠り、さらわれたキョウトの臣民を救う力を蓄えんと、諸国を巡っている。偉大なる商人の都、大街獣オオサカに助力を乞う』


『ワイは街獣オオサカを仕切らしてもろうとる、茶人ちゃじん千利休瑠せんのりきゅうるや。それ以上近づかれると百姓がおびえるさかい、代表者だけこちらに来てもろか』



 左近のあやつる「書院造り」に乗り、一行はオオサカの街を進んでいく。

言わずと知れた「ぐりこ」の大看板、てっちりの店「づぼらや」の宙にうかぶフグの張り子を横目に道頓堀を前進すると、大阪城の出城である「通天閣」が姿を現した。


「あんなでっけぇ塔が出城に過ぎないたぁ、大阪ってぇのはすげえところだねぇ、野次さん。たしか、あんたぁここに来たことがあんだよな」


「驚くのはまだ早ぇ。見ろ、大阪城だ」


雲をも貫く巨大な城が眼前に聳え立つ。


「櫓だけでも十個以上あるぞ。何が商人の町だ」


左近は吐き捨てるように言う。

天守閣は周囲を威嚇するようにびかびかと金色に光り輝いていた。


『遠路はるばるようごくろうさん。ここからは“えれべぇたぁ”を使って上がってもろか』


一行は城門をくぐると入口近くに取り付けられた十人乗りの籠に乗り込む。

いかなるカラクリか、籠はすごい速さで天守閣まで登った。

天守閣は黄金の茶室になっていて、目がチカチカする。


「改めて、ワイが千利休瑠せんのりきゅうるや。よろしゅうたのんます」


黒の頭巾ずきんに、小袖と木蘭色もくらんいろの道服を合わせ、腰には高貴を表わす紫の手巾しゅきんを結び、金襴の袈裟をかけ、手には扇子を握っている。

表情はやわらかいが眼光は鋭く、抜け目のない印象があった。

八尋姫は挨拶を済ませると、現在の窮状を訴え、材木や石材といった建材や食糧、そして工人や商人の移住を願い出る。


「なるほど、新しい街獣はこれから成長するさかい“びじねすちゃんす”や、と。そういうわけや」


「そうです!おわかりいただけましたか!」


千利休瑠はげらげらと笑い出す。


「ははは、はぁ、舐めっとたらあかんで、おじょうちゃん」


左近はこめかみに血管を浮き上がらせて、今にも飛びかかろうとする。


「きさま、無礼だぞ!」


「やめなさい!左近」


「おうおう、イキのいいアンちゃんやな。まあええ。説明したろ」


千利休瑠は扇子を広げて、わざとらしくパタパタと仰ぐ、


「あんたらの街獣はモスクワに目ぇつけられとる。神器がないことに気づいたモスクワは遅かれ、早かれ追ってくる。あんたらに未来はない。びじねすちゃんすもくそもないわ。第一、あんたらを追ってここにモスクワが来たらどうすんねん。今すぐぶっ殺したりたい気分やわ。茶でも飲んで、早よ帰りや」


千利休瑠はお茶を立て始めた。

その抹茶は、粉が九十九にお湯が一とでも言うべき代物だった。


「きさま、内親王殿下になんてものを」


「左近、控えなさい」


八尋姫はお椀を回すと、一気にそのほぼ粉みたいなお茶を飲み干した。


「げっごうなおでまえでじだ……ウッ」


「ほう、この“えすぷれっそ茶の湯”を呑み干すとは……ま、せいぜい気張りや、ほなな」


一行は護衛の屈強な商人達につまみ出されるようにして、城から退去させられた。


 一行が失意のうちにエドに戻り、動き出そうとしたその時、侘び寂びの効いた佇まいの茶室を載せた家獣が追い縋ってきた。

それはオオサカに接触した際に挑発してきたカニのような家獣だった。

エドが腕で拾い上げると、中から若い茶人が出てくる。


「ワイは利休瑠十哲りきゅうるじってつの一人、織田聚楽斎おだじゅらくさいや!利休瑠様の命を受けて、びじねすちゃんすに乗っかりにやってきたでぇ!」


聚楽斎は利休瑠からの書状を姫に差し出す。

そこにはこんなことが書かれていた。


ーーこないだはえろうすんまへん。

ワイは内親王殿下の志と覚悟にホンマ感銘を受けました(えすぷれっそ茶の湯を飲み切ったのは、殿下がはじめてです)が、街を引っ張っていくものとして、やはり全面的な協力はできまへん。

せめて殿下の一助となればと、このイキのいい弟子を送ります。

こいつの乗る“数寄屋造り”も強力な家獣で、殿下のお役に立つと思います。

陰ながら応援しとります。

ほなさいなら。ーー


新たな仲間を加えて、街獣エドはさらに進んでいく。

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